あさって、アセッサー、あせった

■□■□■□■官能評価TT通信No.6■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネルは何人?」です。

官能評価で問題になるのは、やはりパネルの問題が多いようです。特に人数に関する問題は頻繁に聞かれます。

大手の企業では専門パネルのほかにも、社内公募の一般パネルを有しています。一般パネルで3、40名というところもあります。おそらくもっと多い ところもあるでしょう。これらは例外であり、多くの企業では数人のパネルで切り盛りしています。実務的には4、5名などという話もききます。

さて、今回のテーマの「パネル人数」ですが、
「3人でデータを取ったけど統計処理してもいいの?」
「パネルを募集したいけど、何人募集すれば良いですか?」
などの声が聞かれます。

どうやって決めたらよいのでしょうか?

ここで、パネルの人数を考える時には2つのことを検討しなくてなりません。
(1)調査の種類と(2)利用できるパネルの能力です。

調査の種類は2つあります。嗜好型調査分析型調査です。嗜好型の調査ならば、パネルの能力を気にせず、アンケート調査と同じようにサンプリングの問題になります。サンプリングの話はアンケート調査などの本に詳しくかかれているので割愛します。
さて、商品開発部門などで行なわれる調査には分析型の調査が少なくありません。そして、皆さんが困っているのも分析型の官能評価だと思います。

そこで「分析型の官能評価」を対象に検討を進めましょう。

次に検討するのは(2)「利用できるパネルの能力」です。
その前に「分析型パネルと嗜好型パネルの境界」という問題が立ちはだかります。そこで、両者の境界を確認しましょう。

以前書きましたが、分析型パネルは「計測器」です。電子計測器でも何回か測定します。何故でしょうか?それは計測には必ず誤差が含まれるからです。
もし、世の中に「真の値」を測れる機械があるならば、複数回測定する必要はありません。一回測れば「真の値」がわかるのですから。ところが残念な ことに「真の値」を一回の計測で表示できる機械は存在しません。それどころか、我々は「真の値」を知ることすらできないのです。私たちとしては、せめて 「真の値に近いもの」を知りたいと考えます。そのための手法が確率であり統計です。

ここでサンプルや評価用語、環境などがすべて同一条件として統制されている前提で話を進めます。すると「真の値」を知るためには次のバラツキが邪魔なことに気が付きます。

1. 計測器毎のバラツキ
2. 計測器個体のバラツキ

1つ目のバラツキは、パネルAさんとパネルBさんのバラツキといえます。二人の感覚の違いが原因です。2つ目のバラツキは、パネルAさん自身のバラツキです。体調の変化や疲労、興味などの理由でバラツキます。
実は分析パネルと嗜好パネルの最も大きな違いは、これらのバラツキの大きさの違いです。(もちろん、記述的な能力なども重要なのですが今回は分か りやすくするために識別・判別能力という意味での分析パネルに限定して話を進めます。また、前述のように評価用語に対する認識などの他の要因も統制されて いるとの前提です)

つまり、分析型パネルと嗜好型パネルの境界とは、同一刺激に対する反応のバラツキの差であるといえます。

次は、分析的な調査のパネル数を決めるには「利用できるパネルの能力」を知らなければ決められません。つまりパネル管理です。具体的には、パネル 毎の能力のバラツキを定期的に測って記録しておき、調査に必要な精度に照らし合わせて必要なパネル数を計算します。初めて募集する時や記録を残していない 時は、とりあえず一般評価者(=嗜好型パネル)として扱うのが適当です。

さて、利用できるパネルの能力がわかったとしましょう。
本来ならば、パネルのバラツキ(=能力)から必要なパネル人数を計算したほうが良いでしょう。ところが、実際に計算すると予想以上にパネル人数が必要なことに気が付きます。そもそもパネル能力の結果からパネル人数を算出すること自体、現実的じゃありません。

そこでお勧めは「規格に準拠した人数を使う」というものです。ここではISOを例に話を進めます。
ISO6658(具体的には各手法の標準を参照。例えば2点識別法ならISO5495)では各評価手法に必要な人数を規定しています。たとえば、
2点識別法では、
7名のエキスパート(Expert)
もしくは、
20名の適正評価者(Selected Assessor)
もしくは、
30名の評価者(Assessor)
を要求しています。なお、評価者の区分ですが、ISOではパネルを5段階に定義し、これを3つのクラスに区分しています(参照ISO8586-1,2)。
A.Assessor
-Naïve Asessor(1)
-Initiated Assessor(2)

B.Selected Assessor(3)

C.Expert
-Expert Assessor(4)
-Specified Expert Assessor(5)
(カッコ内の数字が大きいほど特定の分析に適した分析パネルということになります)

Selected Assessor(適正評価者)以上が分析型パネルといえるでしょう。

(1)調査の目的と(2)利用できるパネルの能力の二つからパネルの人数を決める方法を検討しました。その上で、規格を用いることを提案いたしました。

まとめると、
1. パネルを能力別に区分し、
2. 規格で決められた人数を使う
ということです。

誤解されたくないのですが、アカデミックな調査や、民間企業でも研究所など調査の質を重視するところではこんな決め方はするべきではないと考えてます。私がここで提案しているのは、中小企業が少ない投資で最大限の結果を得る方法です。

最後に、パネルの区分について付け加えておきます。
これまでもパネルを区分する用語として「分析型」「嗜好型」等を使いました。「一般」「専門」という区分。そして今回はISOに基づく区分をご紹 介しました。混乱してしまうかもしれませんが、「分析型」「嗜好型」という区分は調査目的で決まる区分です。分析型パネルであっても嗜好型の調査に嗜好型 パネルとして参加することもあります。また、「専門」「一般」という用語は統一されていませんが、業務として評価業務を行なっているパネルを「専門パネ ル」といっているようです。一方、ISOによる区分は能力区分といってよいでしょう。

違いを理解した上で調査目的に合ったパネル人数を決めたいものです。

では、また!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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