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■□■□■□■官能評価TT通信No.5■□■□■□■

さて、第5回目のテーマは「モノサシの重要性」です。

前回はパネルの重要性を述べましたが、同様に「モノサシ」も重要です。「パネルの重要性」は官能評価において特筆すべき項目です。一方、「モノサ シの重要性」は様々な分野で述べられているので割りと知られていることでしょう。マーケティング調査や組織調査でも様々なモノサシが使われています。しっ かりとした設計がされている調査票(アンケート用紙)では、信頼性・妥当性の高い質問項目が並んでいます。

マーケティングや組織調査で回答する人は、基本的に回答の経験に関係がありません。つまり、回答者は回答経験やその人自身の回答安定性を事前に確かめられることはないのです。

ここで、官能評価の回答者には2種類があります。1つは嗜好型パネル。もう1つは分析型パネルです。前者は、マーケティングや組織調査の回答者と同じ考え方で良いでしょう。つまり、回答経験や回答の安定性よりも、母集団を代表するサンプル(標本)であるかどうかが求めらます。

後者の分析パネルは測定器です。測定器に求められる機能は、再現性・反応性・耐久性などがあります。分析パネルに求められる要件項目は、各種機器センサーに求められる要件項目と同じです。違いといえばそのレベルだけでしょう。

非常に非人間的な表現をしてしまいましたが、本質だけを書き上げるとこのような表現になってしまいます。しかし、パネルは人間であり、機械のように扱うことはできません。パネルマネジメントの問題は、別の機会に述べたいと思います。

以上のように官能評価の回答者には、回答能力が求められる分析型と、回答能力が求められない嗜好型があります。

つぎに「モノサシ」ですが、モノサシは「一般化(Generalization)の対象レベル」で区分できます。一般的なモノサシで重要なことをみながら、「一般化」の意味を考えてみましょう。

(1) 測定に信頼性・妥当性がある
(2) モノサシの利用者が測定値を読み取れる

1点目は理解できると思います。当然、測定毎に値が変わってしまってはモノサシとしての役割を果たせません。同じモノを測ったら同じ測定値を表示するのがモノサシの役割ですからね。

さて、2点目については説明が必要かもしれません。距離を測るセンサーを例に考えて見ましょう。このようなセンサーでは距離電圧の変化として出力しているだけです。電圧の変化だけでは利用者は何のことかさっぱり分からないでしょう。しかし、そこに翻訳語を挟んでやると、電圧が距離に置き換えられ、利用者は距離として読み取ることが出来ます。

ここで電圧の変化を表示しているレベルを「一般化レベルが低い」と言い、距離で表示されたレベルを「一般化レベルが高い」 といいます。しかし、このレベルというのは一般化の対象を人間とした場合です。もし、対象をコンピュータとしたら電圧であっても充分一般化レベルが高いと いえます。(パソコンに詳しい人なら、プログラミング言語の違いと言い換えれば分かりやすいでしょう。対象を人間とした場合の、機械語よりC言語、C言語 よりベーシック言語ということになります)

一般化の対象の違いによって、一般化のレベルは変わるんですね。

さて、官能評価で「一般化レベルが低い」モノサシは、分析パネルが使うモノサシにあたります。分析パネルは独自の表現で「清涼感のある」「華やか な」「ウッディーな」などと表現・評価します。一般化レベルが低いので、分析パネル同士では意味が一貫していますが、回答経験のない一般の人(=嗜好パネ ル)では意味がバラバラになってしまいます。しかし、分析パネルに分析目的で使用するには全く問題がありません。(ちょっとわかり難いですが・・・)分析パネルを対象として、高いレベルで一般化されているとも言い換えられます。

一方、分析パネルの間で信頼性が高いモノサシであっても嗜好パネルにそのまま同じ質問が使えるとは限りません。例えば、香りの評価で「ウッディーな」とい う用語を「森林の中の臭い」と捉える人もいるでしょうし、「ログハウスの中の臭い」かもしれません。最近は自然と触れ合うことも少なくなっているので 「ウッドパネル調の壁紙の臭い」を「ウッディー」と表現する人がいないとは限りません。つまり、回答者間の捉え方に一貫性がなく、モノサシとして利用する には事前の調査やサンプリングの仕方を十分検討しなければなりません。アンケート調査で用いられる質問は、これらを十分に検討された物を使います。つま り、回答経験を問わない一般人を対象として、高いレベルで一般化されているといえるでしょう。

モノサシを使う人(=調査・実験計画者)は、そのモノサシが「誰」を対象に、どのくらい「一般化」されたものかを十分検討した上で使うことが必要です。また、官能評価ではモノサシを一般化することも大切ですが、パネルをモノサシに合わせる訓練(分析パネルの訓練)も大切です。

つまり、官能評価ではモノサシとパネルは表裏一体なのです。両方の信頼性を高めていかないと信頼できる結果は得られないということですね。

ちなみに適性検査などで、「管理職を対象に調査した職務適性」をそのまま大学生の適職判断に使用している例を見かけたことがあります。管理職を対 象に一般化された職務適性傾向は、管理職という母集団に属する人にしか使えません。大学生の職務適性を判断するには、大学生を母集団としてサンプリングさ れた標本で調査が行なわれていなければ信用できないことになります。

診断・判断モノを読むときは、前提条件を理解した上で結果を読んでください。

ところで、恋愛や相性判断でそこまでこだわるのはつまらないかもしれませんね。

では、また!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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