◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.25◆◇◆◇◆◇◆
さて、今回のテーマは「味覚検査」です。
分析型の官能評価を実施する前には必ずといっていい程、そのパネルの能力を評価してから本番の官能評価に入ります。食品・飲料関係ならば、それが「味覚検査」になります。
一方で嗜好型の官能評価では事前の検査を実施しているところは少ないようです。特にリサーチ会社の消費者モニターはいきなり商品を評価するというのが少なくありません。
嗜好型評価の場合、パネルの味覚の良し悪しも含めて「好き・嫌い」を調査しますので、パネルの味覚はあまり重要視されておりません。
しかし今回はあえて、
「嗜好型評価でも事前の味覚検査を実施すべし!」
と、声を大にして述べたいと思います。
弊社では官能評価に参加するパネルは分析型・嗜好型に関係なく、全員弊社の味覚検査を受けていただいています。同時にマーケティングデータを取ることもあります。
そこからわかってきたことは、「ある味覚特性をもった人間には嗜好に特徴がある」ようなのです。まだ、充分なデータがそろっていないので更に検証を進める必要はありますが、どうやらブランドなどを隠した状態、つまり「味」だけの嗜好には本人の「味覚特性」が影響していそうなのです。
一方で、パネルはトレーニングによって味の識別能力が向上します。では、味覚がよくなったり悪くなったりしたらその人の嗜好も変わるのか?
残念ながらわかりません。
今後の研究課題ではありますが現実を見てみると、わずかな違いを識別する凄腕の料理人が、子供の頃に食べたカツ丼が未だに大好きということがあります。ま た、訓練されたパネルと訓練されていないパネルでは嗜好評価には同様の傾向を見出すことが出来ます。これが社内の分析型パネルを使って、嗜好型評価を行な う正当性を裏付けているデータです。(以前紹介した古川秀子著「おいしさを測る」にも書いてあります)
どうやら人の嗜好は「味覚の良し悪し」には関係ないようです。
しかし、「味覚の特性」はそうでは無さそうなのです。
弊社では「味覚特性」を把握するためにいくつかの手法を用いていますが、弊社で販売している「TT式味覚検査」でもそのいくつかが盛り込まれています。
例えば今回発売したキットにも含まれていますが「5味の識別錯誤傾向」です。
これは五味の識別検査で誤った回答をした場合、「何と何をまちがったのか」を表記しています。これによって「苦味を酸味と間違える人」とそうでな い人に違いがあるのかが容易に分析できます。これに各パネルのマーケティングデータを融合することで、嗜好と味覚特性の関連性を見ることが出来ます。
この切り口を用いて弊社パネルで実施した調査では、いくつかの組み合わせで差異を見出すことが出来ました。
これらの研究が進んで、「ある味覚特性を持った人」には「こんな商品がお奨め」などということが出来るかもしれません。
但し、消費者の購買行動には味だけではなく、ブランドやデザイン、マーケティングによるところが少なくありません。しかし、味とマーケティングを分離することで、より定量的なマーケティング活動が出来ると考えています。
例えば「新商品の販売不振がなぜ起こったのか?」という場合を考えてみましょう。
これまでで言えば、商品開発部門と営業・マーケティング部門が責任を擦り付け合っていました。商品開発側は「味はいいのに、売り方が悪かったのだ」と言い、営業サイドは「あんなにプロモーションしたのに売れないのは、味が悪いからだ」と。
味とマーケティングを分離するとは、単純に言えば銘柄を隠して購買意欲を測り、銘柄を明かして購買意欲を測ったその差が「味以外の購買動機要因(マーケティング要因)」ということになります。
このように官能評価をしっかりと導入していくことで、これらの原因を明確に把握し、次の商品に生かせるようになります。
近年、様々な方面で数値化が進んでいます。英語や入学試験のほかにも転職偏差値や恋愛偏差値などお目見えしております。「味の偏差値」にも拍車がかかる2006年になるのではないでしょうか。
それでは、また!