■□■□■□■官能評価TT通信No.24■□■□■□■
さて、今回のテーマは「10の効果」です。
実験計画や、試料の提示を検討する上でいくつか考慮すべきことがあります。官能評価ならではのポイントです。取り除ける影響はできる限り取り除いて、正確なデータを取るように務めたいものです。
今回は心理的効果・生理的効果にはどのようなものがあるかをご紹介します。中・上級者には退屈かもしれませんが、概要のみにとどめたいと思います。
データに影響を及ぼす効果には生理的なものや心理的なものがあります。今回は主な10個の効果を紹介します。
1.記号効果・・・試料の性質に関係なく、記号に対する嗜好によって判断を決定する傾向
2.順序効果・・・複数の刺激を評価する際に、後の刺激を過大もしくは過少に評価する傾向
3.位置効果・・・試料の性質に関係なく、試料の置かれた位置によって選ばれる傾向
4.練習効果・・・練習によって評価者の判断が変化すること
5.避連続性/避対称性(弊社造語)・・・試料の性質に関係なく、判断が連続性や対象性をもつことを避ける傾向
6.期待効果・・・評価者が何らかの先入観が判断に影響を及ぼすこと
7.順応・・・評価者の刺激に対する感受性が無意識に調整されること
8.対比効果・・・複数の刺激を評価する際に、一つの刺激が他の刺激の反対の性質を強める傾向
9.疲労・・・刺激に対する感受性が継続的負荷によって低下すること
10.連想/共感覚・・・一つの感覚刺激(色、音、香りなど)が刺激となって他の感覚刺激が生ずること
以上ですが、主な効果について簡単に事例を含めて説明します。
記号効果とは、試料の性質に関係なく、記号に対する嗜好によって判断を決定する傾向です。例えば3つの試料に「1」「2」「3」と番号を 振ったときに試料の違いに関わらず「『3』が好きだから『3』を選ぶ」という傾向です。国内外で様々な検証がなされており、ISOが試料の記号に推奨する 『3桁ランダムコード』はその対策といえます。3桁の場合でも、「184」(いやよ)などの意味が取れるコードや、「117」(時報の電話番号)など特定 の意味を持つコードは避けたほうが良いでしょう。
順序効果とは、複数の刺激を評価する際に、後の刺激を過大もしくは過少に評価する傾向です。対比効果に似ていますが、対比効果は同時比較を 含んでいるのに対し、順序効果は時間的な順序をもった効果を指します。対策には評価の間にリンス(Rinse)すること(「水で口ゆすぎ」をしたり「無塩 クラッカー」を食べる)や、実験を評価の順番が均一になるように計画するなどがあります。
位置効果とは、試料の性質に関係なく、試料の置かれた位置によって選ばれる傾向です。3点試験法ならば、3試料を直線上に並べてしまうと真中の試料が品質に関係なく選ばれてしまうことが報告されています。対策には実験方法で行なう方法や評価者に訓練を施すのが良いでしょう。
練習効果とは、練習によって評価者の判断が変化すること。トレーニング期間ならばありがたい効果ですが、評価セッションの間に判断に変化が 生じるのは好ましくありません。トレーニングをして判断が安定したところで一気に評価を終えてしまうのが良いと思います。テスト前に練習試料を与える方法 がありますが、疲労(後述)が高まるので可能な限り本当に評価したい物以外は評価したくないので実験計画で対処することが多いです。
避連続性/避対称性とは弊社の造語ですが、試料の性質に関係なく、判断が連続性や対象性をもつことを避ける傾向です。例えば評点法で1が続いたり、2点試験法で右左右左のように一定のパターンが見られたとき、それを避けようとするなど。教示方法や実験計画によって対策します。
期待効果とは、評価者が何らかの先入観が判断に影響を及ぼすことです。テスト前に品質や特性に影響を及ぼすと思われる情報が得られた場合、 判断が無意識にその期待にこたえてしまうことがあります。価格や製造方法などがわかっていると「高いものは良い」「特許製法だから良いはず」などに影響を 受けることがあります。マーケティング手段としては有効ですが、官能評価的には影響を排除すべきです。
順応とは、評価者の刺激に対する感受性が無意識に調整されることです。わかりやすいところでは、暗いところから明るいところに出たとき、最 初はまぶしいが徐々に調整されて見やすくなる明順応がああります。刺激が強いほど、味覚ならば濃度が大きいほど順応がおきやすくなります。また、感覚の中 で嗅覚が最も順応が起こりやすいといわれています。たしかに、臭いのある部屋に入ったときは気になるのに、すぐに気にならなくなるのも順応のためですね。
芳香剤のあり方として、臭いを消すのも一つのアプローチですが、順応の時間を限りなくゼロにできれば臭いを感じさせないという目的を達成できるかも・・・(余談です)
対比効果とは、複数の刺激を評価する際に、一つの刺激が他の刺激の反対の性質を強める傾向のことです。同時に刺激を与える場合を同時的対比、時間的前後関係がある場合は継時的対比といいます。
順序効果は継時的対比の一種だと考えていますが、厳密な違いについては私の不勉強のため分かりません。分類上の問題だと思うので、実務上は同じものとして対策しています。
疲労とは、刺激に対する感受性が継続的負荷によって低下することです。疲労には精神疲労と身体疲労があり、表出する事象は様々です。弊社で はモチベーション低下は精神疲労の一種として検討しています。個人的には、身体疲労の測定の方が比較的容易で、精神疲労の測定はまだまだ未知の領域だと考 えています。
最後は連想/共感覚について。これは一つの感覚刺激(色、音、香りなど)が刺激となって他の感覚刺激が生ずることです。匂い(嗅覚)をかいでイメージ(視覚)が浮かんだり、音(聴覚)を聞いて色(視覚)をイメージするなどがあります。
応用例として音感トレーニングでは音名と色をリンクさせて覚える方法があります。食品の例では、白みがかったコーヒーと黒いコーヒーでは、黒い コーヒーを見た瞬間に「ブラック、苦そうだな」と想起させてしまったり、白みがかったコーヒーを見て「ミルク感があって甘そう」と考えてしまうことで判断 に影響が出てしまうことがあります。対策として、色付きライトによるマスキングするのが良いでしょう。
今回は項目を羅列した感がありますが、とりあえず頭に入れておくだけでも良いと思います。多くの効果は、実験計画で対策できることが多いです。ま た、いくつかの効果は互いにトレードオフの関係になっていますから、事例ごとに目的や制約条件の中で個別に判断していくのがよいでしょう。
今回は「10の効果」というテーマで心理的効果・生理的効果の代表的なもの10個をご紹介いたしました。
それでは、また!