学びのロードマップ

■□■□■□■官能評価TT通信No.11■□■□■□■

さて、今回のテーマは「官能評価の学習法」です。

新入社員が配属されたり、社内の異動があったりして、新しく官能評価業務に携わる方々も多いと思います。そこで今回は学習法について述べたいと思います。

まず、官能評価に限らず何かを習得するには押さえるべきポイントがあります。今回は3つのポイントについて述べてみたいと思います。

さて、ここでポイントを紹介する前に確認しなければならないことがあります。

それは「官能評価は技術である」ということです。

技術であるということは、頭を使った学習だけではなく、肉体を使った反復練習が必要です。つまり、料理人の包丁使いと同じように反復練習が必要なものであるということです。個人的には、官能評価技術者は職人の一種と考えています。

そんな官能評価ですが、佐藤信氏は官能評価は次の3つの知識領域から成り立っていると述べています。

1. 統計学
2. 心理学
3. 生理学

全ての分野のプロフェッショナルになる必要はありませんが、基礎知識は押さえておきたいところです。

学習のポイントは次の3つです。なお、番号は優先順位を、そしてカッコの中は学習全体に対する比率を表わしています。
【学習のポイント】
1. 商品知識をしっかり身につける(50%)
2. 統計学の基礎を身につける(30%)
3. 効率的な情報収集力を身に付ける(20%)

まず、第1の学習のポイントは、
商品知識をしっかり身につけること
です。

まず、商品知識を最初に、そして半分の力を注ぐのには理由があります。それは食品や車などモノを製造・販売する会社は、その会社の商品を売らなけ ればなりません。そのためには商品知識は欠かせません。そして商品知識は、その会社や業界でなければ得られない情報がたくさんあります。無論、官能評価を 計画・実施する上で商品知識は不可欠です。

まずは、しっかりと商品知識を身につけましょう。

それでは商品知識だけ学習していればよいのか?

残念ながらそれだけでは不十分です。言うまでもなく、官能評価は商品知識だけでは実施できないからです。佐藤氏の言うとおり、統計・心理・生理学などの知識が必要です。

もちろん、お金に余裕があるのなら専門家を使うことも出来るでしょう。しかし、専門家を有効に活用するには最低限の基礎知識が必要です。彼らの能力を引き出し、自分が本当に解決したい問題を処理させるにはコミュニケーションツールとしての基礎知識が必要なのです。

日常でも感じることがあるのではないでしょうか。自分の全く知らない分野の話を聞いている時、日本語で会話しているのに理解できない(私は法律の 話を聞いているときにこうなります)。質問しようにも何を聞いてよいのかわからない。質問をしてみたら、的外れな質問だったらしく相手が困ったような顔を している。

このような場合、相手にこちらが本当にして欲しいことをしてもらうのは難しいでしょう。

ここで第二のポイント「統計学の基礎を身につける」が必要になります。

統計を学習する理由として大きく2つあります。
1つは、コミュニケーションツールとしての統計知識です。他の人と官能評価について話をするとき、相手の言っていることを理解し、こちらの伝えたいことを正しく伝えるには非常に重要です。

もう一つの理由は、自分で官能評価を実施するための統計知識です。得られたデータを分析するには欠かせません。学習レベルとしては、統計学のベーシックな本だけでも充分大丈夫です。いきなり多変量解析に行くのではなく、このような基礎を固めたほうが後々の学習の伸びも変わるでしょう。

ところでパソコンと統計ソフトの普及で、統計なんて勉強しなくても良いのではないかと言う考えがあります。しかし、残念ながら知りたいことを自動 的に教えてくれるソフトはまだありません。利用者が知りたいことを知るために必要なデータを意識的に集め、分析手法を指定しなくてはなりません。

その為、知りたいことを知るためにはどんな分析が必要なのか、そして、その分析をするにはどんなデータが必要なのかを実施者が判断しなくてはならないのです。

統計学習のレベルについては基礎に集中すべきだと考えています。理由は、官能評価はデータ取りの比率が大きく、高等な分析を行なうのはきちんとしたデータが取れるようになってからでも遅くないからです(TT通信No.9を参照)。

高等な統計手法を使うよりも理解できる手法で、信頼性と妥当性のあるデータを取り、適切な分析を経て正しい結論を導くことの方が大切だと思います。

最後の学習のポイントは「効率的な情報収集力を身に付ける」です。
心理学などよりも、先に情報検索を持ってきたのには2つの理由があります。

1つは、今直面している問題を解決するには、似たような事例を探し出し、そこから解決策を探ると言う方法が有効だからです。そのためには類似の研 究事例を探してくる情報検索・収集能力が必要です。もしかしたら、知りたいことがそこに載っているかもしれません。インターネットなら無料、もしくはわず かな料金で知ることが出来ます。これを利用しない手はありません。

もう1つは、誰も解決してない問題を解くためです。先の理由は、手っ取り早く問題解決をしようという短期的視点でしたが、こちらの理由は、長期的 な視点での理由です。ある程度、目の前の問題が解決されていくと、誰も解決していない問題に直面します。このような問題を解決するにはいろんな情報に当た り、新しい手法や考え方を取り入れていく必要があります。このような状況では「おすすめの本」などというガイドブックはありません。自らが解決しなくては ならないのです。

長期的・短期的視点からも情報検索・収集能力というのはマスターすべきでしょう。

以上、3つのポイントに力を注ぎ、余力で心理学、生理学といった分野を必要に応じて学習するというのがよいでしょう。

3つのポイントを押さえてから心理学や生理学を学習するとすごく分かりやすいです。特に統計の知識は役立つでしょう。なぜなら、心理学や生理学の 知識の多くは統計的手法によって積み重ねられているからです(例外として、事例が少ない、もしくは稀にしか起こらないような事例を対象とした研究には、 ケーススタディなど統計処理を用いないものもあります)。

最後に、実際に官能評価をやってみることを強く勧めます。

困ったら外部のセミナーや研究会などで聞くのも良いですね。

今のところ、官能評価の学習の機会が少ないのが残念です。新しい手法についての日本語のテキストも少ないようです。(学習の仕方については新版官能検査ハンドブックp8が参考になりますが、時代に則していないように思います)

久しぶりでしたので、長くなってしまいました。
ではまた!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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