独り善がりと見比べる

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.27◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回のテーマは「比較評価と独立評価」です。

官能評価には、評価する際の基準が2つあります。それが「比較評価(相対評価);Comparative assessment」と「独立評価(絶対評価); Independent assessment」です。

ここで「JISZ8144官能評価分析-用語」から用語の定義を引用してみましょう。

比較評価とは、「目の前の試料と試料との直接的な比較によって、評価者がそれらの関係を判定する方法である。試料間の差異が評価されることになり、同じ評価者の能力であっても独立評価よりも試料間の微細な差を識別できる。

独立評価とは、「比較の試料又はコントロールを置かずに評価する方法である。この場合の判断の基準は、過去の経験の積み重ねによって 記憶の中に形成された評価者の内的基準である。この基準との比較判断がこの評価方式であり、経験の積み重ねがない試料に対しては(評価が)困難となること が多い。」
※カッコ内は筆者加筆

比較評価は試料試料の直接的な評価により、独立評価は評価者個人の内的基準試料の 評価によるということです。つまり、どちらも比較なのですが比較対象が異なるといえます。独立評価の比較対照である内的基準は、個々人の経験によって異な りますし、一個人でも変動することがあります。これに対し、試料と試料を比較する比較評価では、個々人の経験に依存することなく評価することが出来ます。

これらの2基準には各々特長があります。

まず、独立評価の特長をあげてみましょう。
1.(比較評価に比べ)多くのサンプルを評価できる
2.(比較評価に比べ)多くの属性を評価できる
3.数量データが得られる※
※手続きや手法によってはカテゴリカルデータとして扱うのが適当な場合があります。

つまり、独立評価はセッション1回あたりの情報量が多いといえます。

では、一方の比較評価はどうでしょうか。
1.(同じ能力者ならば)独立評価より試料間の微細な差を識別できる
2.(手法によっては)数量データが得られる
3.再現性が良い

一般に、比較評価は情報の質が高いといえるでしょう。

両者を比較した上で、私は「比較評価」の採用をおすすめします。
理由は次の3つです。

1.再現性がよい(情報の質が高い)
2.初期投資の低さ
3.長期的なデータ資産の価値

まず、第1の再現性の良さは、情報として必須だと思います。無論、独立評価でも再現性を確保することは可能ですが、コストの面からお奨めしません。

第2のメリットは初期投資の低さです。独立評価をきちんと実施しようとするとパネルの選抜・訓練・管理、評価用語・尺度の構築など実用に耐えられるようになるまでに投資が必要です。そこで明日からでも使えるデータを取れる比較評価は、初期投資を抑えられるのです。

最後のメリットは、データ資産としての価値が高いことです。得られたデータは将来にわたって生かすことが可能です。また、独立 評価は尺度を作ってから実施するのですが、比較評価のいくつかの方法(サーストンの一対比較法など)は、それ自体が尺度を作るプロセスです。つまり、比較 評価のデータ資産はそのまま独立評価に移行しても活用できるといえます。

以上のメリットから「比較評価」をお奨めします。

いざ、比較評価といってもいくつか手法があります。代表的な手法を見てみましょう。
1.識別試験法(2点試験法など)
2.順位法
3.一対比較法

以上のような手法がありますが実施目的によって適否があります。一般には大きく2つの目的に分けられるでしょう。
1.サンプルの識別
2.サンプルの記述

さて、この二つの目的を満たし、かつ、簡単で質の良いデータを得られる方法はあるのでしょうか?

あります。それが「一対比較による官能評価」です。

例えば、
識別試験として、「2点試験法」
パネル能力の試験として、「2点試験法」or「一対比較法」
商品の特性記述として「一対比較法」
官能属性と分析機器の相関「一対比較法によって得られた数量データ」+「機器データ」
マーケティング分析「多変量解析手法と一対比較によってえられた数量データ」
などなどが出来るようになります。

なお、順位法は扱えるサンプルが一対比較法に比べて多いのが特徴ですが、扱える属性が少ないという問題があります。マーケティングへの応用を念頭において一対比較のほうが有効と判断しました。

特にサーストン法による一対比較法は、AかBかを選ぶ「2点試験法」と同じ方法を繰り返すだけで数量データが得られる優れた手法です。結果だけな らエクセルだけで十分です。また、どちらかを指し示すだけでよいので子供でも実施できます。チャイルドマーケティングにはもってこいの手法です。

最後に、どの手法でも実施上の制約や前提条件があります。ご多分に漏れず一対比較法でも前提条件がありますので注意が必要です。

さて、セミナーの告知です。

弊社では「官能評価入門セミナー」を開催いたします。
今回のテーマは「一対比較法」です。一対比較法のなかで代表的なサーストン法とシェッフェ法を詳しく解説いたします。おまけで一対比較によるコンジョイント分析も紹介します。初心者から上級者まで満足いただける内容です。
セミナーの翌日から一対比較法を実施できるスキルを身につけられます。

ぜひ、ご参加ください。セミナー情報はこちらです。(リンク切)

さて、今回は「比較評価と独立評価」というテーマで比較評価をメリットをお伝えしました。そして比較評価の代表的手法「一対比較法」についても言及いたしました。古い手法だといわれますが、よいものはよいのです。

今回はここまで。では、また!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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