イッツイがアッツイ

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.28◆◇◆◇◆◇◆
官能評価でしばしば用いられるシェッフェの一対比較法にはいくつかのバリエーションがあります。オリジナル(原法とよぶ)と、3つのバリエーション(変法とよぶ)の4つがあります。

【シェッフェのバリエーション】
1.シェッフェの原法(順序考慮する、パネル考慮しない)
2.芳賀の変法(順序考慮しない、パネル考慮しない)
3.中屋の変法(順序考慮しない、パネル考慮する)
4.浦の変法(順序考慮する、パネル考慮する)

バリエーションの違いは、順序効果やパネルの能力を考慮するかどうかです。気をつけなければいけないのが、「考慮しない」となっていても「効果がない」というわけではないので、あらかじめ順序効果があるとわかっている場合は、順序を考慮する(1)や(4)の手法を選択する必要があります。

さて、シェッフェの一対比較法では想定しているモデルというものがあります。数学モデルというと面倒くさいので飛ばしてしまいがちですが、考え方を理解する上で非常に役立ちますので飛ばさずよんでみてください。

今回はもっともシンプルな芳賀の変法を例に考えて見ましょう。芳賀の変法は順番による効果やパネルの能力を考慮しない場合です。
回答者は1対の試料(つまり2つの試料)を比較したときの評点を回答します。この回答を手始めにモデルの説明をして見ましょう。

試料Aと試料Bを一対による比較評価します。
A→Bの順で評価します。順番による変化を考慮していないのでB→Aという順番での評価はしません。ここで回答するのはBに対する「Aの評価」であることに注意してください。一般的な評価方法では次のような評点を付与します。

「A」は「B」に比べて○○・・・+2点
「A」は「B」に比べて少し○○・・・+1点
「A」は「B」と同じくらい・・・+0点
「A」は「B」に比べて少し××・・・-1点
「A」は「B」に比べて××・・・-2点
※一般に○○と××は対になった評価用語を入れる。対になっていないと尺度が一次元(直線上に)にプロットできないことがある。
(例)固い⇔やわらかい、 長い⇔短い

さて、この評価を実施して次のような結果が得られたとしましょう。

X=評点

この数値は次のように分解できます。

X=AのBに対する値(α)+誤差(ε)

いま、一番知りたいのはα:AのBに対する値です。もちろんこのままでもいいのですが、一般的には分散分析によって検定を行います。その際、誤差に対してαの不偏分散が大きいと値が有意でないものと判断されてしまいます。

そこで、αをさらに切り分けます。というのはこの値(α)には組合せ効果(γ)も含まれているからです。組合せ効果を切り分けたのが次の式です。

X=AのBに対する値(α’)+組合せ効果(γ)+誤差(ε)

これが「芳賀の変法」のモデル式です。正しくは次のように表記します。

芳賀の変法のモデル式

上式は、試料Aの試料Bに対する評価をしたl人目の評点χを表します。
官能検査ハンドブックなど専門書では試料を次のように記載しています。
試料A→「Ai」…先に評価する試料。
試料B→「Aj」…後に評価する試料。

最後にもう一度、なぜ値の切り分けをするのか考えて見ましょう。

これは検定の誤りに対処するためです。検定の誤りには2つのタイプがあります。

1.第1種の過誤(type ? error, error of the first kind)
2.第2種の過誤(type ? error, error of the second kind)

第1種は関係が無いのに関係があると判断してしまうことです。(=本当は有意では無いのに有意と判断)
第2種は関係があるのに関係が無いと判断してしまうことです。(=本当は有意なのに有意では無いと判断)

官能評価の場合、有意な結果を得たいと考える状況が多いと思います(品質管理としての官能検査の場合はこの限りではありません)。また、社内で実施する場 合は人員を確保するのが難しくデータ数nが少ないことが多いでしょう。n数が少ないと有意と出にくい傾向があります。しかし、せっかくの評価の結果ですか ら得られたデータは十分に活用したいと思うのが担当者の心情では無いでしょうか。

もし値の切り分けをしなかった場合、本当は有意なのに「有意で無い」と判断される第2種の過誤が起こり得ます。もったいないですよね。でも、値の切り分けをして本当の主効果だけで検定ができれば「有意である」と判断されるかもしれません。
つまり、値の切り分けによって検定の誤りが抑えられ、情報を十分に活かした正しい結果が得られます。

この後は個々の対象間の検定に入っていきます。対象間の検定では多重比較や最小有意差(l.s.d)によるものなどがあります。

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さて、今回は「シェッフェの一対比較法」というテーマで4つのバリエーションと、バリエーションのひとつである「芳賀の変法」のモデル式の意味、そして検定の誤りについて解説いたしました。

今回はここまで。では、また!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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