ケースだな-上段

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.32◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回は「評価事例」をご紹介いたします。

官能評価をご紹介するには、事例をお見せしながら進めるのが一番だと思います。しかし、受託評価したデータは、クライアント様の商品開発にかかわる機密事 項であることがほとんどです。セミナーなどではクライアント様のご了承を得た上で事例紹介しておりますが、WEB上での公開はなかなかご了承いただけませ んでした。

そこでWEBで公開されているデータを元に評価をした事例をご紹介いたします。現在流通している商品の最新データだと差し障りがありますで、以前のデータでご紹介します。

まず、ご依頼の内容からご紹介します。

ある秋のことでした。缶コーヒーを製造している企業からお問い合わせを頂きました。
同社の商品は、私たちがコンビニや自販機でしばしば目にする有名ブランドではなく、いわゆるローカルブランドといった商品です。しかし商品の味には自信をもっており、全国の流通に乗せていきたいとお考えでした。

また、ネームバリューのなさが災いし、ディスカウントショップで相当たたかれた上で置いて貰うような状況だということでした。

味には自信があったので、営業担当者は自社商品の味が大手有名ブランドに負けてないことを力説して回りました。しかし、なかなか理解が得られなかったということです。

そこで、何とか大手商品に比べても味に遜色がないことを説明できる資料がほしい、というのが依頼の内容でした。そして、もうひとつ要望がつけられました。
現在も公開してますが、サントリーさんがWEB上で味グラフを公開しており、これにあわせてほしいということでした。

実は、自社でデータ取りをするのはそれほど難しいことではありません。社内データで時系列の比較をしても大きくずれることは少ないです。しかし、 他社とのデータ比較をされるということは再現性や信頼性を確保できる方法・手順(プロトコル)でなくてはなりません。つまり、追試に耐えられる方法論でな くてはならないということです。しかも大手のサントリーさんが自信を持って公開しているデータです。正直、会社泣かせな依頼でした。

私たちは次のような調査戦略を考えました。
1.まず、市場に流通している有名ブランドの味・風味特性をマッピングする。
2.マッピングにあたって採用する風味属性(評価用語)は、独自に行い、得られたデータとサントリー社が公開している商品・属性・データとの比較から決定する
3.採用された風味属性を元に有名ブランドと同社の商品を同一グラフに表現する。

実施方法等は全てお任せいただき、上記の進め方でご了承いただきました。

本件の場合、非常に評価点数が多いので一対比較や順位法などの相対評価法では難しくなります。その上、サントリーさんのデータに合わせるという非常に厄介な注文をつけられました。
厄介な理由は評価用語にあります。評価用語はそのまま同じようを使ったとしてもサントリーさんが意図した属性と、弊社が意図した属性が必ず しも同じになるとは限らないからです(同じになるかもしれませんし、ならないかもしれません。つまり同じになるという保証がないということです。「長さ」 ならノギスで測れば同じ長さは同じ数値で表されるのですが、官能評価はそうならないのです。また用語が同じでも同じ属性を測っているとは限りません。和三 盆や三温糖などの糖類の評価と、チョコレートの評価では同じ「甘味」でも意味が違うのはおわかりいただけると思います。)

当時サントリーさんが評価項目として次の6つの属性を掲載しておりました(2006/12/5現在も同じ)。
1.甘味
2.コク
3.ミルク感
4.キレ
5.香り
6.苦味
(以上、6属性を5段階で表記)

手法としてQDAに類した方法をとることにしました。しかし、完全にQDAに準拠するのではなく、弊社のノウハウを活かしながら取り入れいるという形にしました。(実際、ASTM規格にあるようなラインスケールは採用せず、9ポイントのカテゴリスケールを用いました)

まず、評価のためのパネル構築を行いました。パネルは五味識別(TT式味覚検査)とコーヒーの識別検査によって選びました。今回は分析型の評価なので、フェースで普段のコーヒー飲料実態を尋ねるにとどめ、デモグラフィック属性は(データは取りましたが)採否の参考にしませんでした。

次に、選ばれたパネルによって評価用語の構築を行いました。用語構築と並行してパネルの訓練を進め、評価が安定したところで本評価に移りました。

本評価で使用する評価用語は訓練時のデータと、自社の評価用語DBから信頼できる40属性を選び出しました。サントリーさんの公開データとのマッチングは、データを取った後で比較して取捨選択することにいたしました。

本評価に入る前に、訓練時のデータを簡単に分析してみました。すると、厄介なことがわかりました。
サントリーさんが公開している商品の中にブラックがあったので、われわれも評価サンプルに入れていました。しかし、ブラックを評価する際の「甘 味」は、砂糖入りのコーヒーの「甘味」と違う意味をもちます。実際、データを見てみるとブラックの評価だけ異常な値を示し、ブラックのデータを含めた分析 をすると砂糖入りのコーヒーの違いが出にくいことがわかりました(実際、同社サイトでも甘味、コク、ミルク感の3属性はゼロになっていました)。

そこで本評価でのサンプルは、ブラックを除き、依頼主の商品を含めた15種で行うことにしました。有名ブランドの比較ということで、サントリーさんの商品のほかに代表的なジョージアエメラルドマウンテンとワンダモーニングショットを採用しました。

この事例でのポイントは、サントリーさんのデータと如何にあわせるか、にかかってました。
そして、評価用語を真似しただけでは同じ属性を測っているとはいえません。

この事例のカギは2つ。1つは実施時に安定した評価が出来る評価用語・パネルで行うこと。もう1つは実施後の分析にありました。
詳しくは次回、データの一部を使って分析プロセスの詳細をご紹介いたします。

それでは、また!

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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