◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.33◆◇◆◇◆◇◆
さて、今回のテーマは「賞味期限と消費期限」です。
新年早々、食品関係で早速数件のニュースが報道されました。
不二家とダスキン、ローソンです。
本来なら「評価事例の後編」をお送りするところですが、タイムリーな話題ですので取り上げてみたいと思います。
ダスキンの件は「ニップン冷食」(東京都渋谷区)に製造を委託したものだそうです。自社内の品質管理というより外注先の選定・納品チェックなどの仕入管理の範疇になるでしょう。
問題は不二家とローソンの件です。どちらも「期限」が問題となりました。
今回のテーマ名になってますが、不二家は「消費期限」を過ぎたものを販売し、ローソンは「賞味期限」を過ぎたものを販売していたということです。もちろん作為・不作為の違いはあるでしょうが、ひとまず期限の違いというものに焦点を当てたいと思います。
まず、消費期限と賞味期限について簡単に説明いたします。
用語の定義については平成17年2月に告示された「食品期限表示の設定のためのガイドライン」が一般的です。このガイドラインは厚生労働省および農林水産省が共同で設置した検討会が作成したものです。(業界団体ごとに個別のガイドラインを設けている場合もあります)
【用語の定義】引用はこちら
消費期限とは「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。」
賞味期限とは「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。」
つまり、消費期限とは品質が急激に劣化しやすいものを対象とした用語で、弁当、生菓子、生麺、惣菜などが対象です。一方、賞味期限とは比較的痛みにくい市販のスナック菓子や即席めんなどを対象に使用する用語ということになります。
今回の不二家の場合はシュークリームですから消費期限ですね。一方のローソンもお弁当(すし)なのですが、回収の対象となったのは弁当に添えられている醤油なので賞味期限が対象となります。
これら期限の設定には大きく3つの指標によって期限を定めるようにガイドラインでは示されています。
1.理化学試験・・・品質劣化を粘度、濁度、比重など理化学的分析方法によって判断する
2.微生物試験・・・品質劣化を一般生菌数、大腸菌群数など微生物学的に得られた指標によって判断する
3.官能検査・・・人間の視覚・味覚・嗅覚などの感覚を通して、手法にのっとった一定の条件下で評価判断する。
以上が期限表示に関する概要です。
さて、不二家の件はおそまつ極まりない管理実態によるものですが、官能評価の観点から1つの問題が見えてきます。
ニュースによると、担当者の男性従業員は『昭和三十年代から洋菓子を製造してきたベテランで、社内調査に対し「期限切れでもにおいをかいで判断していた」』というコメントを残しています。
今回のケースの場合、不二家は牛乳を製造していないとすれば納入された牛乳に記載された期限を元に使用可否を判断していたということになります。もちろん 期限切れの牛乳を使ったことは大変な問題です。一方でベテランの担当者が『においをかいで判断していた』ということですが、担当者の官能的判断によれば 「問題ない製品」と判断されたのでしょう。
※ここで「官能的判断」としているのは、体系的に実施される官能検査/官能評価と異なることを明示するためです。
今回の問題がクリスマス商戦前にたまたまイレギュラー品が大量に出てしまったので、今回だけ特例として流通させたというのであれば完全にマネジメントサイドの意思決定の問題です。
しかし、実際には長年日常的に行われてきたことを考えると根本的な問題として「ダブルスタンダードの存在」が考えられます。
1つ目のスタンダードは、メーカー表示の期限です。もう1つのスタンダードが担当者の官能的判断によるものです。
ここでなぜ「担当者の官能的判断」が判断基準として優先されたのでしょうか。
一般的な見解はコストや納期などによるものと考えられています。
もちろんそれも現実的な側面として正しいと思います。
しかし、私は「基準の信頼性」というものが非常に大きくかかわっていると考えています。
メーカー期限という基準が現実に則していない(=まだ使える)ので、自社で基準を定めてしまった。
言い換えると、メーカー期限という基準は信用できないので、勝手に基準を作ってしまった。
しかし、勝手に作った基準には合理的な裏付けがなく、メーカー表示の期限を改訂する効力はもたない。
そこで暗黙の了解として、自社内基準を設け、それに基づいて運営してきた。(但し、どこにも記載はない。なぜならマニュアル化するほど合理的な裏づけがないのにマニュアルを作ってしまったら、メーカー基準逸脱を全社的な活動と捉えられてしまう、と考えたからでしょう)
不二家の件は官能評価等の問題を超えたマネジメントレベルの課題です。経営学として興味深いのですが、ここでは官能評価・官能検査に関係する担当者が直面する問題について考えてみます。
今回の担当者は長年勤めてきたということですから、信用に足る官能的判断をされてきたのでしょう。かわいそうですがダブルスタンダードの狭間で責任を押し付けられた感があります。
しかし、この問題をマネジメントサイドの問題だけとして片付けられません。なぜなら担当者であるあなたにも直接の被害が出るかもしれないからです。
もしあなたが品質担当者で品質基準が明確に定まっていないか、形骸化しているようならば注意すべきです。責任を押し付けられるのはあなたかもしれません。
実際、ご飯の食味計を品質管理として導入している企業で、どうも実際の食味(官能的判断)と食味計の判断が一致しない。つまり、食味計ではNGと 判断されるのだが、ヒトの判断によれば問題ないのではないか、というのです。担当者は明言は避けられましたが、おそらく官能的判断に基づいて(つまり、担 当者が大丈夫だと判断した基準で)出荷されているのではないかと推察しました。(食味計のヒストグラムが奇妙な形で、あの工程能力ならもっと不良品が出る はず・・・)
あなたの企業は大丈夫ですか?
今すぐ、品質基準を確認しましょう。
もし基準が決まっておらず、なんとなく担当者の官能的判断で出荷しているようならば、前述の3つの手法に基づいて品質基準を定めましょう。
ここで品質基準があっても形骸化、ダブルスタンダード化しているようなら現実に合わせた基準に見直すことが重要です。
あなたが経営者ならば尚更です。あらためて品質基準を見直しましょう。目に見える形でメリットを享受することもあります。
例えば、コンビニのお弁当のように過剰品質(食べられるのに廃棄)しているものが、商品として適切な品質だと合理的に判断できればコストダウンにもつながるのですから。
当然ながら、いくら官能的に問題がないといっても不二家のように細菌検査で出荷基準に満たない「シューロール」を出荷するのは問題外ですよ。
今回はここまで。
弊社では賞味期限設定のための官能評価にも相談にのっております。
詳しくは弊社までお問い合わせください。
それでは、また!