新型コロナウイルス感染と味覚検査と嗅覚検査について

いくつかのニュースで味覚や嗅覚の変化が感染に気づくきっかけになったという話が出回っているようです( 4/1 確認。但しニュースは削除される恐れがあります。)。

阪神選手
茂原・松戸の大学生
英国鼻科学会の声明
NBAゴベール選手
キラメイジャーレッド

弊社では官能評価パネルの選抜・管理用の味覚検査・嗅覚検査のサービスを提供しておりますが、このような医療目的での使用は目的外となります。

しかし、ご相談がありましたので当社の見解を述べたいと思います。

まず、正常な味覚・嗅覚の基準があるかというと難しいところです。
例えば弊社のTT式味覚検査では、通常の社会生活を送っている方を対象に検査を実施しています。健康な方と考えて良いと思います。そのような方々でも1つも正解しない場合があります。しかし、全不正解の方々が生活で困っているかというとそうではありません。

医療目的の検査、例えばテーストディスクはどうでしょうか?
かなり濃度の濃い条件まで検査しますので、病気と判断されるような味覚異常も判断することができます。

それではこのような味覚検査を使って、コロナウイルスの感染を検出できるのでしょうか?
現時点で感染者のデータがあるわけではないので推測になりますが、おそらく感染者は「いつもと違う」レベルでの違和感を感じたものと思われます。

絶対的な味覚感度というよりは、個人の味覚感度が大きく変化したと推測します。
つまり、もともと味覚感度の高い方(センシティブな方)が「いつもと違う」と感じたとしても、絶対的な感度としては病気と判断されるようなレベルにない可能性があります。

もし、感染時の味覚感度が病気と判断されるようなレベルにまで鈍化するのであれば、医療目的の検査(テーストディスク、電気検査、オルファクトメーター等)が有効だと考えます。
一方、病気と判断されるようなレベルにまで鈍化せず、相対的な感度の低下だとすれば、一回だけの検査で検出することは難しいです。通常時(健康時)の味覚検査の結果と感染時の結果を比較して判断する必要があります。

また、人の味覚や嗅覚は時々刻々と変化しています。空腹や満腹、感情の起伏、環境の変化などに影響を受けます。

検査で判断をする場合、通常のばらつき(変動)を把握し、その上でそのばらつきを超えた変化があったときに「いつもと違う」と判断できます。
しかし、感染したときの味覚の変化が、通常のばらつきの範囲内であった場合は、味覚検査によって感染を検出することは難しいでしょう。

コロナウイルスと味覚嗅覚との関係性について、徐々に研究の結果が報告されています。

キングス・カレッジ・ロンドンの研究者が新型コロナの症状を追跡するアプリを通じてデータを収集し、インターネットで分析結果を報告

このニュースを見ると客観的な味覚検査ではなくても、自己申告でも有効な判断方法となりそうです。 下記はイタリアの病院でのインタビューに基づく結果です。

Self-reported olfactory and taste disorders in SARS-CoV-2 patients: a cross-sectional study (フリーPDFあり)

表1の概要のみですが、59名中の結果:

味覚異常および/または嗅覚障害あり:20名(33.9%)
味覚異常 5名(8.5%)
味覚消失 1名(1.7%)
嗅覚障害 3名(5.1%)
無嗅覚症 0名(-%)
混合味覚と嗅覚障害 11名(18.6%)・・・混合障害の各症状を合計

論文中で下記のテストに言及があります。弊社でも採用を検討したことがありますが、すでに日本ではOSITが開発販売されていたのでOSITを使用していました。現在はOSITが一般的に購入できないのでOpenEssenseを使用しています。

嗅覚識別検査(SmellIdentificationTest:Doty)の臨床応用
※ペンシルバニア州SIT(Smell identification test)

我々が官能評価パネルを訓練する際に、「感じる・感じない」など自己申告というのは信用しません。実際に特定の物質を添加したサンプル溶液を提示し、自己申告(感じる・感じない)の結果とブラインド(3点試験法、違うものを選ぶ)で比較すると大幅に異なっています。上記のインタビュー論文でも66%は味覚・嗅覚異常を感じていません。

しかし、今回のような緊急事態では妥当性や精度を議論している場合ではないのかもしれません。

インタビュー論文でも「impossible to perform a more structured questionnaire associated with validated tests (i.e.Pennsylvania smell identification test) 」と述べており、客観テストの実施は現実的ではないのでしょう。

日々の食事で、ご家族の皆様が味やにおいについて普段と違う様子があったら、コロナウイルスを疑った方が良いかもしれません。
また、料理人(お母さんなど)は気づきにくいので、料理を食べる側も「あれ、いつもと味付けが違う」と思ったら気をつけてください。

現在の状況から言えば、違和感を感じただけで医療機関を訪れるのは得策ではなさそうです。厚生労働省の相談・受信の目安に準じた行動をお勧めします(今後、目安が変わる可能性もありますので随時情報を確認してください)。

また、味覚嗅覚異常を感じた場合は耳鼻咽喉科を受診されると思いますが、診療所ごとに受け入れ状況が異なります。先に電話するなどして確認してから受診するようにしましょう。

早く不安のない社会になることを祈念しております。

admin について

旧ブログ「官能評価なるもの」は平沼孝太が執筆しておりましたが、現在の「官能評価なるもん」は弊社社員が編集しております。
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