今年も残すところあと数日となりました。
2020年は激動の一年でした。新型コロナの感染拡大により生活様式が大きく変化し、社会のあり方も変化させてきました。東京五輪の開催も延期され、来年開催については不確定要素が多い状況です。
そんな2020年の官能評価関連の状況を振り返りたいと思います。
1.新しい生活様式
2.CATAの普及
3.ISO・JIS関連の更新情報
1.新しい生活様式
官能評価運営において新型コロナの影響は直撃しました。
コロナ対策として「3密を避けましょう」と叫ばれる中、官能評価の実施はまさに3密状態!
3密を避けるとなると既存の官能評価手法自体が成立しません。
同一の環境(会議室など)に複数のパネルが集合し、訓練や評価を行うのが一般的なやり方です。
しかし、これでは3密を避けることにはなりません。
様々なところでアクリル板をつかった対策がされていますが、実効性となると強力な対策とは言えません。
今後の「新しい生活様式」を念頭に置いて新しい方法論を模索する必要が出てきました。
まず考えられるのは会場方式(CLT)からの変更です。
複数の人と会わずに済む方法として「個別実施法」が考えられます。
1つ目は会社で実施する方法です。会社の会議室にパネリストが交互に出入りして、個別に実施する方法です。
もう1つは、自宅で実施する方法です。自宅に評価用具・サンプルを持ち帰って(または郵送して)評価を自宅で行う方法です。これはホームユーステスト(HUT)と呼ばれる方法に近いです。
ホームユーステストでは使い方を細かく指示せず、普段通りに利用した意見を聞くことが多いですが、官能評価の場合はある程度の指示によって利用方法を統制することが求められます。
テレワークが主流となった会社では、会社で実施する方法も難しくなってきています。
そこで、社内評価の流れとしてはHUT型の官能評価でしょう。
また、HUT型とすることでパネル訓練の実施が難しく、訓練なしで手軽に実施できる手法が注目されています。
それがラピッドメソッドです。
ラピッドメソッドの中でも、特にCATAの急激な普及が目覚ましいように感じます。
新しい生活様式の下、ラピッドメソッドの活用は広がっていくと考えております。
2.CATAの普及
2019年末のブログにも「ラピッドメソッドの定着化」を述べましたが、特にCATA法とナッピング関連手法の普及が進んでいます。
2020年の官能評価学会でもCATAに関連する発表が多いことからも注目を浴びている手法であることがわかります。
しかし、ここで発表された内容は新型コロナが広がる前に実施されたデータが多く、必ずしもコロナの影響でCATAを行ったというわけではなさそうです。
しかし、1つ目のトピックでも書きましたがHUT型の官能評価を考えたとき、ラピッドメソッドはより良い選択肢といえます。
特にCATAは下記の特徴があります。
・訓練なしでも可
・一般的なツールで実施できる(アンケートサイト等)
・多サンプルに対応(QDA・評点法等に比べて)
・パネルの人数で検出力を調整できる
ナッピング関連手法も便利なのですが、実施や解析に特別なツールが必要となるため準備が手間です。
またCATAでは属性別の比較・プロダクトマップによる総合的な比較・プリファレンスマップ・ペナルティ分析等ができるため、QDAと同じような解析が可能です。
しかし、CATAの利用については課題もありそうです。
官能評価学会の発表を見ていて、課題と感じたのは下記の点です。
・属性(選択肢)の選び方や表現方法(ワーディング)
・データの良否の判断
・サンプル数・パネル数の設定の仕方(設計方法)
一例をあげてみます。
属性(選択肢)に「▲▲のある」「▲▲のない」が同じ選択肢の中に並べられている場合があります。
CATAに限りませんが、選択肢は独立しているのが基本です。
上記の場合は片方をチェックしたら、もう片方は必然的にチェックが外れる関係です。これは独立な選択肢ではありません。選択肢は1つで機能します。
CATAでは原則として「ある・感じられる・認識した」ものにチェックを入れます。
チェックを入れることは、「ある・感じられる・認識した」と同義なのです。
その他にもパネルパフォーマンスのチェックや選択肢の判断方法、設計や解析などのノウハウが少ないように感じました。
CATAの解析で使われるコレスポンデンス分析は癖のある手法です。井上先生も指摘されていましたがサンプル1つで大きくマップが変化します。ポジショニングがU字型(馬蹄型)になるガットマン効果(馬蹄効果)が出易いのも特徴です。
簡単に実施できる手法ですが、上手く使うには一筋縄ではいかない手法でもあります。
とはいえ、新しい生活様式を維持しつつ、簡単にできるのであれば使わない手はないでしょう。
CATAの普及も進んでいるので、2021年も大いに活用されることが期待されます。
3.ISO・JIS関連の更新情報
2020年のISO更新情報です。
ISO11036テクスチャープロファイル法が改訂されました。
【更新】
●ISO 11036:2020(1stEd. 1994)
Sensory analysis – Methodology – Texture profile
発行年月日: 2020-5-29
食品(固体、半固体、液体)または非食品(化粧品など)のテクスチャプロファイルを作成する方法を提示します。
初版14ページから17ページに増えており、特にパネル関連の記述が増えています。7章の「パネルの選定と選択」は項目が追加されて内容が増えています。また、附属書Bでは初版では飲料の用語分類が掲載されていましたが、2020年版では非食品用の用語分類となっています。
最後に
2020年はコロナの影響が大きく、お客様が予定していた業務の多くが延期・変更となりました。
その中で各企業の官能評価担当者も何とか打開策を模索し、弊社でもそのお手伝いはできたのではないかと考えております。
個人的には室内にいることが増えたため、子どもの勉強を見たり、(業務以外の)パン作りや話題のゲームなどにも手を出すことができたので良い経験ができたとポジティブにとらえていきたいと思っております。
今年もあと僅かとなりました。
皆様、良いお年をお迎えください。