官能評価のトレンドは、なるべく早く簡単にできるラピッドメソッドです。
NappingやCATAといった手法がラピッドメソッドとして有名ですね。
そんな手法をまとめて紹介した本が「Rapid Sensory profiling techniques and related methods」(2014年)です。CATA、Napping、Sorting、TDSなどが紹介されており、役立つ一冊です。
そんな「Rapid・・・」ですが、第2版が発売されます。
ELSEVIER社のサイトでは2021/3/1発売となっていますが、Amazonでは2022/11/15です。いずれのサイトも予約受付中となっております。
目次を見た感じでは概ね同じではありますが、時代に合わせてFree-JARなどが追加されています。
下記、目次を比較してみました。
5つのチャプターが新規に追加され、3つのチャプターが削除されました。初版を持っていれば改めて買う必要はないと思いますが、未だ持っていない方は購入をお勧めします。
※英語版のみ。2版はペーパーバックのみ。初版はペーパーバックとeBookあり。
ラピッドメソッドの用途として多いのがプロダクトマップの作成です。
その中でも必ずと言っても良いほど挙げられるのが「Napping」です。認知度も高く人気の手法です。過去にもブログで取り上げています。
そこで今回取り上げるのは「Polarized sensory positioning:PSP」です。
PSPもプロダクトマップを作成する手法です。
特徴は下記の3点です。
1.特別なデータ収集ソフトが不要
2.パネルの訓練が不要
3.異なるデータを同じマップに重ねることができる。
1については、Nappingをパソコン上で行う場合は官能評価ソフト(FIZZ/Compusenseなど)が必要になります。PSPはラインスケールやスライダー方式のアンケートシステム(無償版もあり)であればそのまま実施できます。
仮に用紙で行う場合でも、Nappingは様々な用具が必要になりますが、PSPはラインスケールを印刷した回答用紙を用意するだけで実施できます。但し、回答値の読取(定規で測る)が大変なのでパソコン上で実施することをお勧めします。
次に、2のパネル訓練ですが、官能評価用語(属性)を使わないので用語共有化の訓練が不要です。また、尺度もリファレンス品に対する類似性について回答するだけなので、QDAのような強度訓練が不要です。回答方法もラインスケールを使うため、初見でも容易に回答できます。
Nappingも簡単ではありますが、進め方など多少の説明は必要になりますので、比べるとPSPの方が簡単です。
3のマップの重ね合わせですが、これこそがPSPの特徴ともいえます。
PSPではリファレンス品に対する類似性を回答するのですが、このリファレンス品を同じものを使うことで異なる次期やセッションで取得したデータを同じマップ上に表示することができます。
一方で、デメリットもあります(下は対策方法)。
1.簡単な解析ツールがない
⇒Rで解析可能。
2.属性に関する情報がない
⇒フラッシュプロファイリング(FP)/UFPなどで情報追加可能。
3.軸の解釈が困難
⇒他の記述型手法と組み合わせるか、試料/リファレンス品の事前情報/機器分析から解釈可能。
PSPはリファレンス品に対して評価サンプルの類似性を回答することでマップを作成する手法です。
リファレンス品と評価サンプルを比較する手法は古くからあり、Larson-PowersとPangbornらは「Deviation from Reference」を使用しています(1978年)。
日本でお馴染みの「一対比較法」も、比較品にリファレンス品を置けば類似の手法と言えます。
独立評価※1(試料を単体で評価)は、評価回数が少なくて効率的ではありますが、評価基準を内的基準(パネリスト自身の基準)とします。
※1独立評価/独立査定/絶対評価(independent assessment):
JISz8144定義より引用
直接的な比較を行わず,評価者各自がもつ基準によって評価する試料呈示方法。
一方、比較評価※2(試料を何かと比較して評価)では、評価回数が増えてしまうため、数多くの試料を評価することができません。しかし、評価基準を外的基準(別試料やリファレンス品を基準)とするため再現性や一貫性が得やすくなります。
※2比較評価/比較査定/相対評価(comparative assessment):
JISz8144定義より引用
比較対象との直接的な比較によって評価する試料呈示方法。
PSPでは、通常は先にリファレンス品(Poleという)を確認してから評価対象の試料を評価します。そのため独立評価に近い形で試料を評価できるので、サンプル数が増えても回答できます。また、リファレンス品を用いることで、セッションを分けて実施することで評価サンプルの数を多くすることができます。
プロダクトマップ作成を簡単にしたいと考えていたら、PSPのご利用も検討してみてはいかがでしょうか。
そんなPSPですが、先に紹介したように「Rapid Sensory profiling techniques and related methodsー2ndEditon」が出版されますので、そちらをご覧いただくことをお勧めします。
もちろん手法導入のコンサルティングもお受けしております。