官能評価とJIS・ISO規格

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さて、第2回目のテーマは「官能評価と規格概論」です。
(本稿では、規格という言葉を「標準(standard)」「規格(regulation)」も包括した広い意味で使っています。また、一部ではデファクトスタンダード(実質上の標準)も包含しております。これらの違いは別の機会に述べたいと思います)

官能評価で規格といえばJISISOが一般的です。この他、ASTMBCOJも よく利用されています。日本の規格であるJISでは、1979年にJISz9080官能検査通則として初めてまとめられました。JISにおける官能評価は JISz9080(方法)とJISz8144(用語)が対象となります。当時の編集には早稲田大学や慶応義塾大学といったアカデミックと、日産自動車・雪 印・味の素・高砂香料などの企業が名を連ねています。しかし、時代の変化や技術の進歩とともに改訂の必要が出てきました。そして2004年には実に25年 ぶりの改訂が行われ、この改訂によって国際規格のISOに準拠する形となりました。

改訂に携われた井上教授(千葉県立衛生短期大学)は、JISは工業品を対象としており、食品分野で発展してきた官能評価はJASとの兼ね合いがあり、両者の整合を取りながらまとめるのが大変だった、と改訂の苦労を述べられていました。

組織の保守性に、改訂までに25年もかかった理由がありそうですね。

さて、海外に目を向けてみると国ごとに規格が存在します。しかし、ほとんどの規格がISOに準拠しているので、実質的にはISO規格が最も普及していると考えるのが妥当でしょう。

現在、ISOが官能評価についての規格を定めたものには26種の規格があります。この内で最も古い規格が1977年のISO3591 「Sensory analysis—Apparatus—Win-tasting glass」です。最初の規格が、テイスティング用ワイングラスというところは、さすがヨーロッパ圏の規格のような気がします。

このように、官能評価にも様々な規格があります。

ところで、企業では法的拘束力がないような規格でも採用し、運用しています。

どんな事情があるのでしょうか?

一般的には内的な理由と外的な理由があげられます。

まず、内的な理由には2つ考えられます。
1つは、新規参入などの場合に自社独自の規格を作るノウハウ・知識がない場合です。
もう1つは、ノウハウや知識はあるものの人、カネ、時間などの資源を低く抑えるために外部の規格を導入する場合です。規格には新技術も盛り込まれてきますので、技術開発の資金がない場合でも技術を導入することが出来ます。

例としてCDやCDプレーヤーの規格があげられるでしょう。これを開発するには莫大な資金とノウハウが必要ですが、規格利用者はその開発コストを抑えながら、この技術を導入できるのです。国としても経済の活性化につながれば規格作りの投資はペイできるのです。

次に、外的な理由ですが3つ考えられます。
1つ目は、顧客側からの絶対要求項目をクリヤーするためです。顧客の側で、購入の前提として規格の適用を求められているような場合です。かなり強制力の強い理由といえます。

2つ目は規格の適用が利用者の利便性を向上させるためです。パソコンが普及した現在では様々なソフトウェアがありますが、操作に関して規格が決め られているわけではありません。しかし、普及している規格を採用することで、利用者は取扱説明書を端から端まで読まなくても大体の操作が出来るようになっ ています。このように規格の採用が絶対ではないものの、採用によって顧客の利便性の向上につながり、また自社製品の売上につながる場合は規格を採用するこ とが多いです。

3つ目はマーケティング戦略として導入するという考えです。特にブランド戦略の一部として捕らえているところが多いようです。近年の環境意識の高 まりにあわせ、ISO14000の取得をするというのも、この一つでしょう。環境意識の高まりがあり、それに対して環境保全を推進する企業としての姿勢を ISO14000の取得という目に見える形で表現し、認知度の高まりや企業イメージの定着を狙っています。食品業界におけるHACCPもそうかもしれませ ん。本来ならば、食品の安全を考えた上でのHACCP導入であり、副次的効果としてマーケティングに利用するのがあるべき姿とは思いますが、これは別の機 会に述べたいと思います。

大まかに言って以上のような理由や目的から規格を導入することが多いようです。一方で、ISO9000や14000に見られるように取得後の維持費と効果がつりあわないために取りやめるところも出てきています。

規格の導入は企業の運命を担っているともいえるので、十分な検討が必要です。

今回は、規格の概要と企業の規格導入理由について考えてみました。

引き続き、次回も規格について考えてみたいと思います。官能評価の従事する方にとって規格の導入は必要か、そして導入するならどの規格に準拠させるべきかを検討します。

では、また!

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ソフトウェア

★★★★★★★官能評価TT通信No.1★★★★★★★

さて、本日のテーマはソフトウェアです。

皆さんは官能評価を実施する際にどんなソフトウェアを利用していますか?

ソフトウェアの使いどころとして、回答時と解析時の2ヶ所があげられます。最もシンプルなのが、回答時には解答用紙に記入してもらい、エクセルに入力して、解析をエクセルで行うというものでしょう。これは解析時のみソフトを利用した例です。

次のステップとしてお金をかけるとなると、一般的には解析ソフトの向上でしょう。エクセルでマクロを組んだり、SASやSPSSなどの統計専用ソ フトを導入したりします。この他の統計ソフトとしては、SAS社のJMPや日科技連JUSEなどもあります。これらのソフトウェアは解析を主眼に置いたも のです。

しかし、調査後に紙からデータを入力するのは大変ですし、写し間違える可能性もでてきます。そこで、データの入力から解析を一貫して行えるソフト が求められてきます。米国ではSIMS2000やCompsenseFiveなんかが有名です。これらのソフトウェアはLANを構築し、回答者がタッチパ ネル型の端末から回答を入力し、サーバーでデータを収集、解析するというタイプです。SIMSについては分かりませんが、Compsense社のサイトで 公開されているユーザーをみると、日本でもマクドナルドやキッコーマンなど大手が名を連ねています。どちらのソフトも世界的に利用されているようです。ま た、米国の官能評価技術者の求人募集を見ると、SASやSPSSにならんで、SIMSやCompusenseのPCスキルも望まれています。

SIMS・Compusenseの官能評価専用ソフトとSPSSなどの統計ソフトとの違いは一貫性にあります。前者は調査設計から、調査実施、解 析までを一貫して行えます。調査設計の時点で規格(ASTMなど)から外れた設計が出来ないように規制する機能もあります。入力時点では、回答者が直接コ ンピューターに入力するため、集計の即時化や回答にあわせてその後のテストを切り替えることも出来ます。もちろん、解析も出来ます。ただし、SPSSもそ うですが単独では決められた解析しか出来ません。オプションで解析ツールを導入することで様々な解析が行えるようになります。

どちらを使うかは利用レベルによると思いますが、入力が多いような部署(官能評価室)などでは専用ソフトの利用が効果的でしょう。入力が多く、さらに高度な解析も行う場合には、専用ソフトと統計ソフトの併用が一般的です。でもこれはお金のある大企業だけの話ですが・・・。

専用ソフトウェアの導入には問題も指摘されています。WEBサイトのアンケート調査でもしばしば議論されますが、回答の信頼性の確保が出来るのか どうかは、もうしばらく研究が必要でしょう。最近見た例では、0を中心とした7ポイントスケールの回答画面がありました。0を境界線として左右で色を分け ており、色による心理的影響の有無が懸念されます。影響がある場合、その尺度が順序尺度なのか間隔尺度なのか検討した上で分析することが必要でしょう。

しかし、便利であることは間違いありません。特徴を理解した上で、ソフトウェアは上手に使っていきたいものですね。

第一回は「官能評価ソフトウェア事情」でした。では、また来週!

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