パネルはインポータント!

■□■□■□■官能評価TT通信No.4■□■□■□■

さて、第4回目のテーマは「パネルの重要性」です。

皆さんはどのくらいパネルの重要性に注意を払っていますか?

そもそも、官能評価・検査の最大の特徴は「計測器が人」という点にあります。当たり前のようですが、官能評価の最大の長所であり急所にもなりえる点です。

他の検査、評価では測定器自体の信頼性が確保されているので、正しい使い方さえしていれば、データ自体の信頼性は確保されます。この場合、結論の信頼性や妥当性は、計測器以外の部分をより高めていくことで得られます。

ここで、データの種類、つまり「尺度(Scale)」の基本をおさらいしましょう。尺度には4つの種類があります。名義尺度(Nominal scale)・順序尺度(Ordinal scale)・間隔尺度(Interval scale)・比尺度(Rational scale)です。

基本的には、

名義尺度→順序尺度→間隔尺度→比尺度

この順で情報量が増え、物理量に代表される比尺度データはどんな分析にも使えます。

余談ですが、例外的に数量化という手法を使うと名義尺度でも多様な分析が出来ます。しかし、数量化理論は日本で開発されたためか、あまり海外ではメジャー な分析方法ではありませんので別の機会に述べます。数量化理論は、名義尺度でも様々な分析、例えば回帰分析(数量化?類:Dummy variable regression)ができるので非常に便利です。個人的にはタグチメソッドのように世界中に認知されたら嬉しいのですが・・・

さて、尺度についておさらいしましたが、「計測器が人」である官能評価の場合、データがどのレベルの尺度で計測・収集されたのかを理解しておくことは非常に重要です。このことを認識せずに統計分析ツールにデータをぶち込んで、結果をうんぬんしても全く意味がありません。

実務の面で考えてみましょう。おそらく、実務では評点・採点法を使うことが多いと思います。情報量が多く、いろんな統計分析ができるので上司の評 価も高くなるようなきがします(気のせいでしょうか。いつか上司の方にアンケートを取ってみたいです)。ところで、評点法が扱う尺度はどのレベルですか?

これはパネルの能力に依存します。つまり、パネルに一つのサンプルを9段階スケールで評価してもらったとき(絶対評価もしくは独立評価)、そのパネルが3と4の間隔、6と7の間隔を適正に判断して回答していれば「間隔尺度」であるといえるます。

しかし、昨日今日実験に参加した人が正しく判断できますか?

実験のために急遽社内から集めてきた場合、ほとんど無理でしょう。この場合に得られたデータは「順序尺度」、場合によっては「名義尺度」として扱うべきで す。そしてデータの種類が変われば、それに合った分析方法を採用することになります。しかし、集められたデータを丸めて分析するというのは実務的ではあり ますが、事後対策でしかありません。

基本的な調査設計の考え方は、調査目的を明らかにする分析方法を検討し、その分析をするために必要なデータの特性(種類、数など)を決めるべきです。

そこで官能評価実施者は、官能評価の信頼性を高めるために「計測器(パネル)の信頼性」と、得られたデータの属性に合った適切な分析を選択することを十分検討することが必要です。「間隔尺度」を使う実験者はパネルについては十分な注意を払って実験を行なうべきです。

私は、パネルの素性や能力がわからないときは「2点識別法」だけを使うことがあります。「2点識別法」は2つのサンプルの一方を選ぶ方法です。「2点識別法」はサンプルが2つだけですが、複数のサンプルの場合困ってしまいます。

その時には、「2点識別法」を何度も繰り返してサーストンかブラッドレーの「一対比較法」に発展させて複数のサンプルを評価します。もちろん、 シェッフェの一対比較法(その他の変法)でもよいのですが、評点を全く用いずに「AかB」という単純な選択だけで分析できるので官能評価をやったことがな いなど、分析者も評価者も初心者な時、シンプルなこの方法は重宝します。

精度には問題はあるのでしょうか?

これについては、採点法と他の手法(順位法、2点比較、1:2、一対比較など)を比較したところ、精度に変わりはないとする研究もあるようです (P699「新版官能検査ハンドブック」、オリジナル論文F.J.Pilgrim(1955),E.F.Murphy(1957))

個人的な意見として、高度な統計手法を使うより、シンプルであっても適切な手法を用いることの方が重要だと考えています。信頼の出来ないデータを 積み重ねてもノウハウの蓄積にはなりません。調査のコストや労働力を考えると、資源の無駄遣いともいえるでしょう。まぁ、雇用の確保のために官能評価を行 なっているなら別ですが・・・

ちょっとパネルの重要性から議論がずれてしまいましたが、官能評価の急所はパネルにあるということは充分理解していただけたと思います。

では、また!

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続・官能評価とJIS・ISO規格

■□■□■□■官能評価TT通信No.3■□■□■□■

さて、第3回目のテーマは「続・官能評価と規格」です。

前回は、官能評価にまつわる規格の概要と企業の規格導入理由について考えてみました。引き続き、今回も規格について考えてみたいと思います。今回は、企業にとって官能評価の規格導入の判断方法、そして導入するならどの規格に準拠させるべきか、この2点について検討します。

まず、官能評価に規格の導入は必要かどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。

これを考えるためには、3つの要因を検討する必要があります。1つ目は内的要因で、現在の官能評価の知識・経験・ノウハウのレベルで す。自信を持って結果を公表できるレベルにある企業ならば、現時点において規格の導入は必要ないでしょう。一方、官能評価を行なっていない、もしくは行 なっているものの、結果に自信がないような場合は、規格に沿った実施を行なうことは充分有効です。一つの基準として、ISOやASTM、JISなどの規格 に比べて技術が劣っていると考えるならば、規格を導入を検討したほうがよいでしょう。

2つ目は相対要因として製品やサービスの業界内シェアを検討します。業界内で独占状態にある企業ならば、強い立場で今の方法を 続けることが出来るからです。逆に、技術があってもシェアが低い場合は、相対的な交渉力が低くなるため、独自の技術では取引先に受け入れられないこともあ るでしょう。強い立場にいるならば、規格の導入はそれほど検討しなくてもよいと考えても良いでしょう。一方、弱い立場にいるならば、選択に迫られます。顧 客の求める方法か、規格の導入か。これは、最後の要因で判断します。

最後は外的要因である、取引先の多様性です。取引先が多様化するほど、相手の要求にあわせた方法で報告・表示する必要が出てき ます。取引先と当方の力関係が均衡していると仮定して、取引先が増えれば増えるほど、報告や表示も多様になり、それだけの労力=コストがかかります。しか し、規格を導入すれば、取引先の増加しても一貫した方法で表示や報告が出来るるのでコストが抑えられます。つまり、多様な取引先を持つ企業は規格の導入を 検討したほうがよいといえます。取引先のカウントには潜在的な取引先も含めた方が良いでしょう。

2つ目の要因で「弱い立場」となった企業の場合ですが、当該企業が多様な取引先を持とうと考えるならば、規格の導入をすべきでしょう。現代は、い つ取引を切られてもおかしくない経済状況にあります。少数大口顧客に依存したしくみを続けていけば、取引を縮小されたときに対応できなくなってしまいま す。どんな状況でも新規顧客を開拓できるような共通の方法(=規格)を使っていたほうが有利だと言えます。

また、技術があって国内のシェアはトップであったとしても、海外展開を視野に入れている企業ならば、対象国・対象企業が採用している規格の導入に迫られるかもしれません。状況を勘案して意思決定します。

このように3つの要因を検討した上で、規格の導入を判断します。方法として、X軸にシェア、Y軸に技術レベルの2次元のマップに自社をプロット し、自社の取引先数を円の大きさで表示します。このとき、技術レベルのY軸を上が低レベルとして図表を描くと、右上に近く、大きな円を描く企業ほど規格の 導入が必要と判断できます。

さて、規格を導入すると決まったとして、どの規格を採用すればよいのでしょうか?

取引先が何らかの規格を指定しているならば、それに従うべきです。しかし、漠然と規格の導入を考えているならば、現在や将来の取引先がEU寄りか、米国寄りであるかを分析して決めるのがよいでしょう。もし、EU寄りならばISO、米国寄りならASTMです。

さて、全く制約条件がない企業はどうすればよいのでしょうか。つまり、相手から要求もされていないし、取引先も日本企業ばかりだという企業です。 そういう企業ならばJIS規格を導入することをお勧めします。現在ではISOにも準拠してますから、将来的にISOへの完全準拠もスムーズにできます。

規格について2回にわたって述べましたが、最終的な狙いは「信頼性のある結果を得る」ことと、その結果を「相手に理解してもらう」ことです。独自の方法は、信頼性がある結果を得られても、独創性が強すぎれば相手に理解してもらうのに非常に手間がかかります。特に、ビジネスの世界では時間が勝負です。信頼のある結果を、容易に、短時間で理解してもらうことが重要です。これを実現するための方法として「規格の導入」を述べてきました。

次回は、「パネルの重要性」について述べてみたいと思います。

では、また!

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官能評価とJIS・ISO規格

■□■□■□■官能評価TT通信No.2■□■□■□■

さて、第2回目のテーマは「官能評価と規格概論」です。
(本稿では、規格という言葉を「標準(standard)」「規格(regulation)」も包括した広い意味で使っています。また、一部ではデファクトスタンダード(実質上の標準)も包含しております。これらの違いは別の機会に述べたいと思います)

官能評価で規格といえばJISISOが一般的です。この他、ASTMBCOJも よく利用されています。日本の規格であるJISでは、1979年にJISz9080官能検査通則として初めてまとめられました。JISにおける官能評価は JISz9080(方法)とJISz8144(用語)が対象となります。当時の編集には早稲田大学や慶応義塾大学といったアカデミックと、日産自動車・雪 印・味の素・高砂香料などの企業が名を連ねています。しかし、時代の変化や技術の進歩とともに改訂の必要が出てきました。そして2004年には実に25年 ぶりの改訂が行われ、この改訂によって国際規格のISOに準拠する形となりました。

改訂に携われた井上教授(千葉県立衛生短期大学)は、JISは工業品を対象としており、食品分野で発展してきた官能評価はJASとの兼ね合いがあり、両者の整合を取りながらまとめるのが大変だった、と改訂の苦労を述べられていました。

組織の保守性に、改訂までに25年もかかった理由がありそうですね。

さて、海外に目を向けてみると国ごとに規格が存在します。しかし、ほとんどの規格がISOに準拠しているので、実質的にはISO規格が最も普及していると考えるのが妥当でしょう。

現在、ISOが官能評価についての規格を定めたものには26種の規格があります。この内で最も古い規格が1977年のISO3591 「Sensory analysis—Apparatus—Win-tasting glass」です。最初の規格が、テイスティング用ワイングラスというところは、さすがヨーロッパ圏の規格のような気がします。

このように、官能評価にも様々な規格があります。

ところで、企業では法的拘束力がないような規格でも採用し、運用しています。

どんな事情があるのでしょうか?

一般的には内的な理由と外的な理由があげられます。

まず、内的な理由には2つ考えられます。
1つは、新規参入などの場合に自社独自の規格を作るノウハウ・知識がない場合です。
もう1つは、ノウハウや知識はあるものの人、カネ、時間などの資源を低く抑えるために外部の規格を導入する場合です。規格には新技術も盛り込まれてきますので、技術開発の資金がない場合でも技術を導入することが出来ます。

例としてCDやCDプレーヤーの規格があげられるでしょう。これを開発するには莫大な資金とノウハウが必要ですが、規格利用者はその開発コストを抑えながら、この技術を導入できるのです。国としても経済の活性化につながれば規格作りの投資はペイできるのです。

次に、外的な理由ですが3つ考えられます。
1つ目は、顧客側からの絶対要求項目をクリヤーするためです。顧客の側で、購入の前提として規格の適用を求められているような場合です。かなり強制力の強い理由といえます。

2つ目は規格の適用が利用者の利便性を向上させるためです。パソコンが普及した現在では様々なソフトウェアがありますが、操作に関して規格が決め られているわけではありません。しかし、普及している規格を採用することで、利用者は取扱説明書を端から端まで読まなくても大体の操作が出来るようになっ ています。このように規格の採用が絶対ではないものの、採用によって顧客の利便性の向上につながり、また自社製品の売上につながる場合は規格を採用するこ とが多いです。

3つ目はマーケティング戦略として導入するという考えです。特にブランド戦略の一部として捕らえているところが多いようです。近年の環境意識の高 まりにあわせ、ISO14000の取得をするというのも、この一つでしょう。環境意識の高まりがあり、それに対して環境保全を推進する企業としての姿勢を ISO14000の取得という目に見える形で表現し、認知度の高まりや企業イメージの定着を狙っています。食品業界におけるHACCPもそうかもしれませ ん。本来ならば、食品の安全を考えた上でのHACCP導入であり、副次的効果としてマーケティングに利用するのがあるべき姿とは思いますが、これは別の機 会に述べたいと思います。

大まかに言って以上のような理由や目的から規格を導入することが多いようです。一方で、ISO9000や14000に見られるように取得後の維持費と効果がつりあわないために取りやめるところも出てきています。

規格の導入は企業の運命を担っているともいえるので、十分な検討が必要です。

今回は、規格の概要と企業の規格導入理由について考えてみました。

引き続き、次回も規格について考えてみたいと思います。官能評価の従事する方にとって規格の導入は必要か、そして導入するならどの規格に準拠させるべきかを検討します。

では、また!

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ソフトウェア

★★★★★★★官能評価TT通信No.1★★★★★★★

さて、本日のテーマはソフトウェアです。

皆さんは官能評価を実施する際にどんなソフトウェアを利用していますか?

ソフトウェアの使いどころとして、回答時と解析時の2ヶ所があげられます。最もシンプルなのが、回答時には解答用紙に記入してもらい、エクセルに入力して、解析をエクセルで行うというものでしょう。これは解析時のみソフトを利用した例です。

次のステップとしてお金をかけるとなると、一般的には解析ソフトの向上でしょう。エクセルでマクロを組んだり、SASやSPSSなどの統計専用ソ フトを導入したりします。この他の統計ソフトとしては、SAS社のJMPや日科技連JUSEなどもあります。これらのソフトウェアは解析を主眼に置いたも のです。

しかし、調査後に紙からデータを入力するのは大変ですし、写し間違える可能性もでてきます。そこで、データの入力から解析を一貫して行えるソフト が求められてきます。米国ではSIMS2000やCompsenseFiveなんかが有名です。これらのソフトウェアはLANを構築し、回答者がタッチパ ネル型の端末から回答を入力し、サーバーでデータを収集、解析するというタイプです。SIMSについては分かりませんが、Compsense社のサイトで 公開されているユーザーをみると、日本でもマクドナルドやキッコーマンなど大手が名を連ねています。どちらのソフトも世界的に利用されているようです。ま た、米国の官能評価技術者の求人募集を見ると、SASやSPSSにならんで、SIMSやCompusenseのPCスキルも望まれています。

SIMS・Compusenseの官能評価専用ソフトとSPSSなどの統計ソフトとの違いは一貫性にあります。前者は調査設計から、調査実施、解 析までを一貫して行えます。調査設計の時点で規格(ASTMなど)から外れた設計が出来ないように規制する機能もあります。入力時点では、回答者が直接コ ンピューターに入力するため、集計の即時化や回答にあわせてその後のテストを切り替えることも出来ます。もちろん、解析も出来ます。ただし、SPSSもそ うですが単独では決められた解析しか出来ません。オプションで解析ツールを導入することで様々な解析が行えるようになります。

どちらを使うかは利用レベルによると思いますが、入力が多いような部署(官能評価室)などでは専用ソフトの利用が効果的でしょう。入力が多く、さらに高度な解析も行う場合には、専用ソフトと統計ソフトの併用が一般的です。でもこれはお金のある大企業だけの話ですが・・・。

専用ソフトウェアの導入には問題も指摘されています。WEBサイトのアンケート調査でもしばしば議論されますが、回答の信頼性の確保が出来るのか どうかは、もうしばらく研究が必要でしょう。最近見た例では、0を中心とした7ポイントスケールの回答画面がありました。0を境界線として左右で色を分け ており、色による心理的影響の有無が懸念されます。影響がある場合、その尺度が順序尺度なのか間隔尺度なのか検討した上で分析することが必要でしょう。

しかし、便利であることは間違いありません。特徴を理解した上で、ソフトウェアは上手に使っていきたいものですね。

第一回は「官能評価ソフトウェア事情」でした。では、また来週!

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