す・ご・い ヒト達

■□■□■□■官能評価TT通信No.14■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネルの選抜」です。

官能評価では、評価するヒトをパネル(評価者)といいます。一方、品質管理としての官能評価(つまり、官能検査)の中では「検査員」という言い方が一般的です。

品質管理としての検査員と、商品開発などに関わるパネルでは求められる能力と水準が異なります。

パネルに求められる能力はつぎの5つです。
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
4. 表現力
5. タフネス(耐久性)

これらの能力は目的によって水準が変わります。

まず、品質管理のための検査員は、
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
5.   タフネス(耐久性)
の4つが強く求められます。

商品開発関連ならば、
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
4. 表現力
の4つです。

比較すると最初の3項目は同じですが、最後の一つだけが異なります。これは商品開発ではタフネスはいらないというのではなく、要求度が品質管理の場合に比 べて低いということです。当然、品質管理の検査員でもクレームの原因を探る場合など表現力が求められます。ただ、その頻度と要求のレベルが異なるというだ けです。

やはり目的に応じて要求水準を定めて、目的に合ったパネルを選抜するのが良いでしょう

もし目的に合わないパネルを選抜すると3つの懸案が持ち上がります。
1. 目的を達成できない(業務を遂行できない)
2. コストがかかる(選抜のコスト、教育のコストなど)
3. モチベーションダウン

1と2はわかりやすいと思います。
1については、能力のないパネルを採用すれば業務を遂行出来ないのは当然です。仮に、そのパネルを教育しようとするとコストがかかります。逆に、 全てを兼ね備えた人材を探そうとあらゆる人材にテストを受けてもらうとすれば、選抜のためのコストは非常に大きくなってしまいます。また、ハードルが厳し いのでコストの割りには合格者も少ないです。

最後の問題は結構根深いです。不適切なパネル選抜が行なわれた場合、3者の立場でモチベーションが落ちてしまいます。

第1に、採用した担当者です。計画していた品質検査や官能評価が適切に実施できないとなると業務は滞りますし、上司に怒られる かも知れません。これなら社内の話で済みますが、市場に不良品が流通しようものなら会社の信用の失墜に繋がります。担当者にとってはパネル選抜の失敗は、 モチベーションが落ちる原因になります。

第2に、採用されたパネルです。能力が無いので仕事が出来ません(但し、多くの場合、官能評価を実施する側が気兼ねして毎回参 加してもらっているようです)。評価の場が能力を活かせる場ではなくなり、帰りにもらえるお茶菓子が楽しみになってしまいます。そうなるとずるずる評価に 参加はするけど貢献はない状態になります。この状態では能力が上がることはないでしょうから、さらに悪循環が続きます。

最後は、官能評価の経験が少ない会社で起こりやすいのですが、マネージャーの官能評価に対するモチベーションが落ちてしまいま す。官能評価を導入しようと頑張っているが、結果が出てこない。ヒトを集めてみたけれど、やる気がない。部下(担当者)もやる気をなくしている。これだっ たら官能評価をやめてしまって機械に頼ってしまったほうがよいのではないか。など、すっかりやる気をなくしてしまいます。

さて、このような問題をはらんだ「パネルの能力と要求のアンマッチ」ですが、ほとんどの場合、事前の計画を綿密にすることで防げます

1つのプランで行動しようとするとこのようになってしまいます。そこで、パネル選抜の計画にはいくつかのオプション(代替案)を持つようにしましょう。理想とする第1案があり、現実的な第2案、そして想定できる最悪の第3案を作ると良いです。

そして、要求される能力と水準を明確に認識し、それにあった選抜テストを実施・評価することが大切です

一度、パネル選抜のプロセスを見直してみませんか?

ではまた!

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官能的企業

■□■□■□■官能評価TT通信No.13■□■□■□■

今回のテーマは「官能評価の適用分野」です。

官能評価を使う商品といえば何でしょうか?

食品?化粧品?自動車?音響機器?

弊社でご相談を受けるのは、やはり食品・飲料分野が圧倒的に多いです。

私がはじめて官能評価を知ったのは輸送業界の技術者としてでした。その為か、官能評価が食品・飲料に限った技術だとは思っていません。しかし、一般的には官能評価は食品や飲料に限られた技術と言う考えに偏っているようです。

実際のところ、官能評価はどのような業界・分野で利用されているのでしょうか?

官能評価を採用している企業を知ることは簡単ではありませんが、ある程度知ることは出来ます。

例えば、日本の官能評価の草分け的存在である日科技連では2001年まで毎年「官能検査シンポジウム」を開いていました。そこでの発表を「官能検査シンポジウム報文集」として編集・発行していました。

この論文投稿からどんな企業や業界が官能検査・官能評価に興味を持っていたのか検索して見てみましょう。この報文集(1~31回)に論文などを投稿してい たのは、91社です。ちょっと荒っぽい検索をしたので同じ会社を2回数えていることもあり、検索からもれた企業もあるでしょうから概算で80社ぐらいで しょうか。

【検索結果】(91件ヒット;(株)をキーワードで検索)
麒麟麦酒(株)、鈴木自動車(株)、明治製菓(株)、味の素(株)、武田薬品工業(株)、富士写真フィルム(株)、日本油脂(株)、日本配合飼料 (株)、日本電気(株)、日本鋼管(株)、日本化薬(株)、日本ペイント(株)、日本ビクター(株)、日本ゼオン(株)、日本コロムビア(株)、日産自動 車(株)、藤沢薬品工業(株)、藤倉電線(株)、東洋情報システム(株)、東洋工業(株)、東洋レーヨン(株)、東洋ベアリング製造(株)、東京食品 (株)、東京芝浦電気(株)、田辺製薬(株)、帝人(株)、帝国人造絹糸(株)、長谷川香料(株)、蝶理(株)、朝日麦酒(株)、大日本塗料(株)、倉毛 紡績(株)、雪印乳業(株)、森永乳業(株)、森永製菓(株)三村、森永製菓(株)、新日本製鐵(株)、新電元工業(株)、松下電器産業(株)、松下通信 工業(株)、小川香料(株)、小西六写真工業(株)、鹿島建設(株)、山水電気(株)、三洋電機(株)、三共(株)、高砂香料工業(株)、協和醗酵工業 (株)、花王石鹸(株)、塩野香料(株)、塩野義製薬(株)解析センター、塩野義製薬(株)、旭化成工業(株)、レック(株)、ライオン歯磨(株)、ポー ラ化成工業(株)研究所、ポーラ化成工業(株)、ブリヂストンタイヤ(株)、パイオニア(株)、トヨタ自動車工業(株)、ダイハツ工業(株)、セーラー万 年筆(株)、ジョンソン(株)、サントリー(株)、サンスター歯磨(株)、クノール食品(株)、キューピー醸造(株)、キャノン(株)、キッコーマン醤油 (株)、キッコーマン(株)、エーザイ(株)、いすゞ自動車(株)、いすゞ自転車(株)、IFF日本(株)、(株)保谷硝子、(株)博報堂、(株)日立製 作所中央研究所、(株)電通、(株)竹中工務店、(株)第二精工舎、(株)全研、(株)小林コーセー、(株)資生堂横浜研究所、(株)資生堂、(株)桜町 工業所、(株)安川電機製作所、(株)リコー、(株)ユニパック総合研究所、(株)ヤクルト本社、(株)ダスキン、(株)ジスト(以上、91件ヒット)

どうですか?

予想以上に食品飲料以外の企業が多いことに驚くかもしれません。なかには「博報堂」などもあり「なぜ?」と思うかも知れません。

しかし、これらの企業が名前を連ねていることは全く不思議でもなく、逆に80社程度しか名前が出ていないことに違和感を感じます。

なぜか?

それは企業が扱う商品・サービスなどは人間が使うモノだからです。どんなに機器上のデータが良くても、モノの良し悪しを判断するのは人間です。人間が良いと思わなければ購買意欲に繋がっていきません。

商品やサービスを開発し、生産、販売するには人間の視点でモノづくりをしていかなければなりません。

そんな時、人間の感覚器を用いる官能評価の技術は大いに役立つでしょう。

また企業では多角化により新たな事業分野に進出することもあると思いますが、官能評価の適用範囲は広く、官能評価の知識・経験・ノウハウなどは将来にわたって活かせます。

官能評価とは縁が無いと思っている業界の方も、この奥深い世界へ入ってみてはいかがでしょうか。

今回は官能評価の適用業界を調べてみました。
ではまた!

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官能工作員

■□■□■□■官能評価TT通信No.12■□■□■□■

今回のテーマは「オペレーション」です。

官能評価では設計とパネル育成に議論が集中してしまいますが、良いデータを取るには官能評価を実施する「オペレーション」も非常に重要な要因です。

例えば「食品の温度」を変数として、温かい時と冷めた時の味を評価する場合を考えてみましょう。設計はバッチリです。実験計画法に基づき、合理的な実験を考えています。

しかし、実施の際、作業者の不手際で温かいまま提供すべき試料が冷めて提供されてしまうことがあります。これでは、いくら適切な実験計画であっても良いデータを取ることは出来ません。

計画者(評価の実施を設計するヒト)と作業者(試料の作成・供給などを行なう評価業務の裏方さん)が同一人物ではない場合にしばしば起こります

一般に、官能評価従事者と言えば、
1.官能評価技術者(計画者)(評価を設計し、分析、報告などを行なう総合技術者)
2.パネリスト(試料を味わい、スケール評価や描写・記述などを行なうヒト)
3.オペレーター(作業者)(評価実施の際に試料を作成したり、パネリストに試料を供給するなどアシスタント業務を行なうヒト)

通常は1と2について議論されます。セミナーなどは1の官能評価技術者に対して、2のパネリストの選抜・訓練について議論や教育などが行なわれます。

実務上では同一人物が1と3の役割を兼ねることが多いですが、実際は複数のオペレーターで行ないます。一人では同時に出来ることに限界があり、温度の管理など容易に変化する要因の統制が難しくなるからです。

では、手伝って欲しいオペレーターと手伝って欲しくないオペレーターの違いはなんでしょうか?ここで「手伝って欲しいオペレーター」について考えてみましょう。
【手伝ってほしいオペレーター】
1.評価の目的を理解している
2.目的を達成する複数の方法を知っている
3.2の方法をスムーズに実施できる(経験がある)
4.評価当日に実施する内容を知っている
5.評価実施の際に発生する諸問題の解決案・代替案を適時実施できる

つまり、「手伝って欲しいオペレーター」とは、
「設計者が欲しいデータを取れるオペレーター」
といえるでしょう。

しかし、いつでも素晴らしいオペレーターばかりとは限りません。そこで事前の準備としてシュミレーションをしっかりやることが大切です。私の言う「しっかり」とは、箸の上げ下げまで指示・訓練することです。

ボランティアで手伝ってもらう場合にはイヤな顔をされるでしょうが、そこは業務に対する情熱を伝えて理解してもらうしかありません。

パネル育成と同様にオペレーター育成も官能評価では大切であることを再認識していただければと思います。

今回は「オペレーション」についてでした。
では、また!

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学びのロードマップ

■□■□■□■官能評価TT通信No.11■□■□■□■

さて、今回のテーマは「官能評価の学習法」です。

新入社員が配属されたり、社内の異動があったりして、新しく官能評価業務に携わる方々も多いと思います。そこで今回は学習法について述べたいと思います。

まず、官能評価に限らず何かを習得するには押さえるべきポイントがあります。今回は3つのポイントについて述べてみたいと思います。

さて、ここでポイントを紹介する前に確認しなければならないことがあります。

それは「官能評価は技術である」ということです。

技術であるということは、頭を使った学習だけではなく、肉体を使った反復練習が必要です。つまり、料理人の包丁使いと同じように反復練習が必要なものであるということです。個人的には、官能評価技術者は職人の一種と考えています。

そんな官能評価ですが、佐藤信氏は官能評価は次の3つの知識領域から成り立っていると述べています。

1. 統計学
2. 心理学
3. 生理学

全ての分野のプロフェッショナルになる必要はありませんが、基礎知識は押さえておきたいところです。

学習のポイントは次の3つです。なお、番号は優先順位を、そしてカッコの中は学習全体に対する比率を表わしています。
【学習のポイント】
1. 商品知識をしっかり身につける(50%)
2. 統計学の基礎を身につける(30%)
3. 効率的な情報収集力を身に付ける(20%)

まず、第1の学習のポイントは、
商品知識をしっかり身につけること
です。

まず、商品知識を最初に、そして半分の力を注ぐのには理由があります。それは食品や車などモノを製造・販売する会社は、その会社の商品を売らなけ ればなりません。そのためには商品知識は欠かせません。そして商品知識は、その会社や業界でなければ得られない情報がたくさんあります。無論、官能評価を 計画・実施する上で商品知識は不可欠です。

まずは、しっかりと商品知識を身につけましょう。

それでは商品知識だけ学習していればよいのか?

残念ながらそれだけでは不十分です。言うまでもなく、官能評価は商品知識だけでは実施できないからです。佐藤氏の言うとおり、統計・心理・生理学などの知識が必要です。

もちろん、お金に余裕があるのなら専門家を使うことも出来るでしょう。しかし、専門家を有効に活用するには最低限の基礎知識が必要です。彼らの能力を引き出し、自分が本当に解決したい問題を処理させるにはコミュニケーションツールとしての基礎知識が必要なのです。

日常でも感じることがあるのではないでしょうか。自分の全く知らない分野の話を聞いている時、日本語で会話しているのに理解できない(私は法律の 話を聞いているときにこうなります)。質問しようにも何を聞いてよいのかわからない。質問をしてみたら、的外れな質問だったらしく相手が困ったような顔を している。

このような場合、相手にこちらが本当にして欲しいことをしてもらうのは難しいでしょう。

ここで第二のポイント「統計学の基礎を身につける」が必要になります。

統計を学習する理由として大きく2つあります。
1つは、コミュニケーションツールとしての統計知識です。他の人と官能評価について話をするとき、相手の言っていることを理解し、こちらの伝えたいことを正しく伝えるには非常に重要です。

もう一つの理由は、自分で官能評価を実施するための統計知識です。得られたデータを分析するには欠かせません。学習レベルとしては、統計学のベーシックな本だけでも充分大丈夫です。いきなり多変量解析に行くのではなく、このような基礎を固めたほうが後々の学習の伸びも変わるでしょう。

ところでパソコンと統計ソフトの普及で、統計なんて勉強しなくても良いのではないかと言う考えがあります。しかし、残念ながら知りたいことを自動 的に教えてくれるソフトはまだありません。利用者が知りたいことを知るために必要なデータを意識的に集め、分析手法を指定しなくてはなりません。

その為、知りたいことを知るためにはどんな分析が必要なのか、そして、その分析をするにはどんなデータが必要なのかを実施者が判断しなくてはならないのです。

統計学習のレベルについては基礎に集中すべきだと考えています。理由は、官能評価はデータ取りの比率が大きく、高等な分析を行なうのはきちんとしたデータが取れるようになってからでも遅くないからです(TT通信No.9を参照)。

高等な統計手法を使うよりも理解できる手法で、信頼性と妥当性のあるデータを取り、適切な分析を経て正しい結論を導くことの方が大切だと思います。

最後の学習のポイントは「効率的な情報収集力を身に付ける」です。
心理学などよりも、先に情報検索を持ってきたのには2つの理由があります。

1つは、今直面している問題を解決するには、似たような事例を探し出し、そこから解決策を探ると言う方法が有効だからです。そのためには類似の研 究事例を探してくる情報検索・収集能力が必要です。もしかしたら、知りたいことがそこに載っているかもしれません。インターネットなら無料、もしくはわず かな料金で知ることが出来ます。これを利用しない手はありません。

もう1つは、誰も解決してない問題を解くためです。先の理由は、手っ取り早く問題解決をしようという短期的視点でしたが、こちらの理由は、長期的 な視点での理由です。ある程度、目の前の問題が解決されていくと、誰も解決していない問題に直面します。このような問題を解決するにはいろんな情報に当た り、新しい手法や考え方を取り入れていく必要があります。このような状況では「おすすめの本」などというガイドブックはありません。自らが解決しなくては ならないのです。

長期的・短期的視点からも情報検索・収集能力というのはマスターすべきでしょう。

以上、3つのポイントに力を注ぎ、余力で心理学、生理学といった分野を必要に応じて学習するというのがよいでしょう。

3つのポイントを押さえてから心理学や生理学を学習するとすごく分かりやすいです。特に統計の知識は役立つでしょう。なぜなら、心理学や生理学の 知識の多くは統計的手法によって積み重ねられているからです(例外として、事例が少ない、もしくは稀にしか起こらないような事例を対象とした研究には、 ケーススタディなど統計処理を用いないものもあります)。

最後に、実際に官能評価をやってみることを強く勧めます。

困ったら外部のセミナーや研究会などで聞くのも良いですね。

今のところ、官能評価の学習の機会が少ないのが残念です。新しい手法についての日本語のテキストも少ないようです。(学習の仕方については新版官能検査ハンドブックp8が参考になりますが、時代に則していないように思います)

久しぶりでしたので、長くなってしまいました。
ではまた!

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こんにゃく

■□■□■□■官能評価TT通信No.10■□■□■□■

今回のテーマは「翻訳語」です。

このブログを読まれている方はどのような仕事をされているのでしょうか?商品開発?品質管理?マーケティング?いろいろだと思います。

さて、今回は特に商品開発に関わるヒトへのお話です。

商品開発は大変な仕事です。大きな会社では細分化されていますが、普通の企業では担当者がリサーチ、マーケティングプラン、製品仕様の決定など何でも屋のようだと思います。

こなすだけでも大変な仕事なのに、売れなければ評価されません。これはルーティンワークのように、決められた仕事をこなせばよいという類のものとは違います。

そんな(厳しい)商品開発に関わる部署で官能評価を利用する場合、いくつかの用途・目的が考えられます。例えば、

A.コンセプト決定
B.仕様決定
C.品質規格決定

などがあります。会社によっては、コンセプトはマーケティング部が決めて、仕様が商品開発部、規格は生産技術部というのもあるでしょう。分類についてはあまりにも多様な形態があるので、大まかに商品開発に関わる部署と考えてください。

とにかく、商品開発のプロセスにおいて様々な用途・目的がありますが、官能評価を用いる際には注意が必要です。

なぜなら、コンセプトを決める時と規格を決める時では具体性も違いますし、信頼性のレベルも異なります。

規格は品質を決める重要な要素です。規格を決める数値は、当然品質に影響し、コストにも大きく跳ね返ります。必要以上に厳しい規格はコストをアッ プします。ゆるい規格ですと不良品まで市場に流れてしまいます。コストは企業側の問題ですが、不良品はお客様に迷惑をかけてしまいます。クレームが発生 し、企業の評判も落としてしまいます。

用途によって官能評価で明らかにするものは大分異なります。運用する上で十分理解することが重要です。

さて、先ほどの目的ABCをもう一度見てみましょう。これはある順番に並べています。

A.コンセプト決定
B.仕様決定
C.品質規格決定

もうお分かりですね。商品開発のプロセスです。Aは開発初期~Cは開発後期(販売前)という具合に開発プロセスのフェーズ順になっています。(実際はもっと複雑ですが・・・)

あるフェーズで得られた情報を生かすためには、次のフェーズ用に情報を翻訳する必要があります。

具体的に考えてみましょう。

A.コンセプト(ここでは味のコンセプト、つまり風味に限定します)
飲料の新製品の風味の調査を行い、現製品より「さわやかな味」が好まれていることが分かりました。

よって、現行製品を「さわやかな味」に改良することにしました。

B.仕様決定
さて「さわやかな味」を作り出すにはどうすればよいのでしょうか。
酸味を加えるのか、甘味を抑えるのか、両方を調製するのか。それとも加工方法で対応するのか。官能評価を行なって決めるとしても、要因(Factor)をある程度絞らなくてはなりません。

このフェーズでは「さわやかな味」に影響する要因を知らなければ仕様に落とし込むことはできません。

多くの場合、開発者は経験的に「さわやかな味」を作り出してしまいます。「さわやかな味」を「原材料」などに翻訳しているのです。別の言葉でいえば、「さわやかな味」と「原材料」との間の関係が分かっているといえるでしょう。

このような能力はプロの調理人も持っているのではないでしょうか。いわゆる職人たちです。

しかし、職人に頼ってしまうのはどうでしょうか。そもそも官能評価を導入する意味合いは、職人がやってきたことを定量化し、客観化・普遍化することです。

この前提で考えると企業の商品開発部としては、AとBの翻訳語、つまり相関関係を明らかにしておくことは欠かせません。

ノウハウとは、これら情報の質と蓄積量であると言えます。

ちょっと長くなってしまいました。

今回は商品開発におけるフェーズ間翻訳語の必要性を述べました。

では、また!

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C&A

■□■□■□■官能評価TT通信No.9■□■□■□■

今回のテーマは「データ収集と分析」です。

皆さんは官能評価を設計・実施する際にどちらに力を入れていますか?

無論、どちらも大切というのはわかりますが、あえて順位をつけるならば、です。

実務レベルで見る限り、私は「データ収集」に力を入れるべきだと考えてます。

ここで理想的なデータ収集が出来たと仮定しましょう。

同じ実験下では全く同じデータが得られ(信頼性)、そのデータが知りたいことを的確に表わしている(妥当性)としましょう。そして、得られたデータは比尺度(四則計算が出来る)として1次元性を完全に満たしているとします。(真の値を知ることが出来ると考えます)

この場合ならデータ分析の上手下手によって得られる情報量が変わってきます。つまり、データ分析の重要性が高いといえるでしょう。(データ分析が優位

次は、自然科学的な物理量の測定を考えましょう。例をあげるなら、マイクロメーターでサンプルの長さを測るというのはどうでしょう。同じ実験下で、偶然誤差のみのバラツキ(対処できないバラツキ)を有するデータを得られるとしましょう。

この場合、データは誤差論に基づいて一定の処理をすれば、前述の理想状態と同じようにデータ分析によって情報量が変わりますので、これもデータ分析の重要性が高いといえます。しかし、理想状態に比べればデータ収集の重要性も上がってきますので収集・分析が同位としましょう。

最後は現実的な官能評価の場合です。

データの信頼性はどうでしょうか?人間は疲労がありますし、体調や感情など変化する要因はいくらでもあります。パネル内部のバラツキもありますし、パネル間のバラツキもあります。

妥当性の問題も小さくありません。あるパネルが「甘さ」という質問に食品から受けた「コク」という刺激の強度を回答し、別のパネルは「うま味」の 刺激を「甘さ」と認知したとしましょう。パネル同士が別の刺激を評価しているようなデータの平均や分散を算出しても、知りたい結果は得られません。これは ノントレーニングの一般パネルの例ですが、トレーニングを受けた分析パネルにおいても妥当性の問題を完全に無くすことは、コストとの兼ね合いからいっても 難しいです。

この他、官能評価は人間を介するため複雑な要因が絡み合っています。そのため、系統誤差を特定し、これを高度に統制することが難しくなっていま す。(系統誤差の定義は残念ながら分かりません。本や人によって定義が異なっているようです。良い定義を知っていたら教えてください)

以上のような特徴をもつ官能評価では、データ収集が高い重要性を持っています(データ収集の優位)。

高額な多機能統計ソフトによる分析も面白いですが、データ収集にもお金と時間をかけてみてはいかがでしょうか。

まぁ、上司は嫌がりますが(笑)

今回は、あえてデータ収集と分析に優先順位をつけてみました。誤解のないように付け加えますが、分析も大事ですよ!

では、また!

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調査あれこれ

■□■□■□■官能評価TT通信No.8■□■□■□■

今回のテーマは「調査の種類」です。

調査にはその目的によっていくつかの種類に分類できます。今回は一つの分類法を紹介します。

今回紹介する分類法は、調査の目的によって3つに分類する方法です。一般的には調査対象への理解・知識の程度によって分けることが出来ます。次の3つです。

1. 探索的調査
2. 記述的調査
3. 説明的調査

「探索的調査」は、新たな現象や対象など未知のものについて新たな視点を得ることを目的とした調査です。この調査では「何が問題か」すら把握できていない状況で行なわれます。調査対象への理解や知識が最も少ない状況で行なう調査です。QCなどでいう「現状把握」に近いですね。
「記述的調査」は、調査対象や現象を正確に表現したり、詳細な姿を描くことを目的としています。官能評価では「風味特性」を記述的調査で表 現することも多いと思います。ある程度の知識が蓄積されている状況です。官能評価でいうなら、ある種の飲料の風味特性ではテクスチャーは関係が無いと分 かっており、事前に調査項目から除外するなどの判断が出来るレベルです。
最後の「説明的調査」は、現象などの因果関係を説明し、予測や原因究明することを目的としています。官能評価では、風味特性とリピート率(予測)、もしくはクレームと生産地(原因究明)などの例があげられます。

(理解や知識が小)「探索的調査」→「記述的調査」→「説明的調査」(理解や知識が大)

どれが良い悪いということはないのですが、一般的には説明的調査が望まれます。特にアカデミックでは説明的であることの方が重要視されています。 なぜなら、調査というのは何らかの問題や疑問を解決したいという欲求から始まっており、調査ではこれらを解決するための因果関係を明らかにすることを目的 としています。

また、企業で行なう調査も「おいしい商品」だけではなく「何度も購入してもらえる商品」を作りたいと考えます。風味特性を記述するだけではなく、風味特性と購買行動に結び付けたいと考えるでしょう。
その結果、購買行動に関連する因果関係、つまり説明的調査を重要視することでしょう。

よって、一般的には理解の深まりとともに説明的調査を行なうことが望ましいといえます。

しかし、官能評価では記述的調査が多いように感じます。風味特性を明らかにする調査は、食品の風味を記述する調査、つまり記述的調査ということで す。これ自体は品質管理や各種規格の設定において必要なことです。しかし、マーケティングを目的として官能評価を利用しようとしたとき、記述的調査だけで は不十分です。

マーケティングの究極目的は「売れるしくみ作り」です。

問題のある例を考えてみましょう。

ある飲料メーカーA社が、競合他社含めた飲料の風味特性を明らかにして、これをマッピングしました。これをもとに、次のような意思決定をしたとします。
「B社の持つシェアNO1のポジションに我々も攻め込むぞ!」
などなど・・・。リエンジニアリングの名のもとに類似の商品が開発・販売されたとします。

さて、ここで問題なのが売上高を説明する変数との因果関係を明らかにしないまま決断したことです。

確かに風味特性がそっくりな商品が出来たとしましょう。しかし、それが売れるかどうかは別問題です。なぜなら、消費者が「味」で買っているのか、パッケージのかっこよさで買っているのか、どんな要因で購入しているのか分からないからです。

ここで話している内容は、とても常識的な話です。「それぐらいわかってる」という声も聞こえそうです。ところが、ひとたび机上を離れ、官能評価の 現場に行けば、何のための官能評価を行なうのか明確に認識しないまま、実施されていることが少なくありません。今回テーマとして調査の種類を取り上げた理 由はここにあります。

調査の目的を認識し、これに合致した調査の種類を採用しなくては官能評価の成果を生かせません。

ちょっと今回は長くなりましたがまとめます。

●調査の種類には調査の対象への理解度によって次の3つに分類できます。
1. 探索的調査
2. 記述的調査
3. 説明的調査

●調査の種類は調査の目的によって決まる
(記述的調査から予測はできない)

以上です。

では、また!

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官能進捗管理技術(センサリー・プロジェクト・マネジメント)

■□■□■□■官能評価TT通信No.7■□■□■□■

さて、今回のテーマは「プロジェクトマネジメント」です。

官能評価でプロジェクトマネジメント?
「なぜプロジェクトマネジメント?」というヒトもいるでしょうし、「そうそう、大事だよね」というヒトもいるでしょう。

そもそもプロジェクトとは何か?そしてプロジェクトをマネジメントするプロジェクトマネジメントとは?
本稿の最大の目的である「プロジェクトマネジメントを官能評価に適用するポイント」は?

以上の3つについて述べたいと思います。

さて、プロジェクトとはなんでしょうか?
「ハロプロ」
「プロジェクトX」
「サンデープロジェクト」
ちなみにgoogleで「プロジェクト」を検索すると約9,680,000ヒットと表示されました。「官能評価」が約89,100ヒットですから、約100倍のサイトがある計算になります。

ここで、プロジェクトの定義を見てみましょう。
「独自の製品やサービスを創造するために実施される有期的な業務」(PMBOK2000日本語版用語集p210)
これは米国団体PMIが編纂しているPMBOK(Project Management Book Of Knowledge)に記載されている定義です。このPMBOKはプロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードとして利用されています。 ISO10006「Quality management systems — Guidelines for quality management in projects 」(2003)やANSIのベースとなっています。ポイントは「独自性」と「有期性」です。

プロジェクトは、一般には建設業界やIT・システム業界、自動車産業などで利用されています。しかし、「ハロプロ」の例のようにプロジェクトとは 企業でなくともよいし、営利目的でなくてもいいのです。定義を見ていただければ分かるように「独自性」があって、「有期性」(=〆切り)があればプロジェ クトなのです。

さて、官能評価はプロジェクトでしょうか?
定義に照らしてみれば分かるように、官能評価やマーケティングなどのリサーチはプロジェクトです。まず第1要件の「独自性」は、リサーチでは必須 です。既に分かりきったことをリサーチするヒトはいません。となれば、リサーチには常に「独自性」が認められます。次に、第2要件の「有期性」ですが、こ れも常識的に締め切りがあります。また、多くのリサーチでは「今」を対象にしています。未来の予測を目的としていても、リサーチ自体は「今」を対象に実施 します。「今」の状態を定義付ける前提条件が変わらない期間という意味でも、締め切りがあるのです。

以上から、官能評価もプロジェクト志向のタスクであるといえます。

次に、「プロジェクトマネジメント」とはプロジェクトを成功に導くためのマネジメントのことです。一応定義は、
「プロジェクトの要求事項を満足させるために、知識、スキル、ツールおよび技法をプロジェクト活動へ適用すること」(PMBOK2000日本語版用語集p212)
となってます。決して、コンサルタントの金儲けのネタじゃありませんし、知識として貯えるものでもありません。会社が導入したからやるなんてのもナンセンスです。

ところで「マネジメント」自体の定義が多様なのでわかり難いと思いますが、P.F.ドラッガー著「マネジメント」は非常に明確にマネジメントを解き明かしています。但し、分厚い2冊(上・下)なのでエッセンス版がお勧めです。

話がそれましたが、プロジェクトマネジメントとは実際に行動し、プロジェクトを成功に導く体系なのです。

プロジェクトマネジメントについて詳細な話に入るとこのブログが大著になってしまうので、要点だけかいつまんで説明しましょう。

ポイントは3つです。
1. 成果物志向
2. 計画的
3. フィードバック

さて、官能評価への適用の各ポイントを考えてみましょう。
第1の「成果物志向」とは、「このプロジェクトの成果物は○○である」と認識し、アウトプットとして形にすることです。「○○を知りたい」という根源的な狙いは必要なのですが、その結果を成果としてどのような形にするのかを事前に明確にするのです。

例として、「計画時点では『調査計画書』という成果物である」と定義します。

しばしば、調査はしたけどレポートにもまとめず、調査員の満足で終わっている例があります。官能評価であれば、レポートという成果物にすることが多いでしょう。もしかしたら、論文として提出することかもしれません。

しかし、ポイントは「こうしたい」というあいまいな欲求ではなく、成果物として具体的な形にすることです。

第2の「計画的である」ということは、事前に実施から分析まで決めておくということです。これはプロジェクトマネジメントに関わらず、仮説検定を前提とした調査では先に決めておくことが大切です。

普通、○○分析をして、先に決めたハードルをクリヤーできなければ棄却、クリヤーすれば採用、ということを事前に決めますね。検定では、仮説なし に既存のデータから有意差がある組み合わせを見つけてきてもそれを「有意である」ということは言えないのです。実務レベルで見てみますと、データを集めて から「どうやって分析しよう???」と悩んでいることもあるようです。しかし、それは検定の考え方からも、マネジメント的にも間違った考え方です。

計画的に行なうメリットは、「どこに問題があったか?」がはっきりします。場当たり的にやっていくと、リサーチ設計に問題があったのか、実施に問題があったのかが分からなくなります。ということは、失敗から学ぶことが出来ません。フィードバックが効かなくなりますね。

最後のポイントは、その「フィードバック」です。
プロジェクトマネジメントでは「教訓(lessons learned)」といいます。要は、経験から学び、過去より向上しましょうということです。品質管理でも「PDCAサイクル」をまわすといいいますが、同じことですね。

通常、個人が経験から得た知識は個人に蓄積されていきます。しかし、企業では個人のノウハウを多くの人々で共有したいところです。官能評価も職人芸的なところが多分にありますが、後々のためにも経験から得られた教訓を文書や映像などで残しておくことが大切です。

論文などを見ても、官能評価で最も重視すべき方法論については詳細に議論されていないものがおおく、あまり実務の参考にはなりません。参考書も一般化されているのでそのまま適用できないことの方が多いと思います。

独自のフィードバックシステムをつくり、見えない財産「ノウハウ」を蓄積することをお勧めします。

以上、今回の話をまとめましょう。
・官能評価もプロジェクトである
・プロジェクトは次の3つのポイント抑えるとうまくマネジメントできます。
1. 成果物志向
2. (事前)計画的
3. フィードバックのしくみ

今回はポイントだけを述べましたが、官能評価では技術も大切ですが、マネジメントも大切です。マネジメントによっては官能評価の結果も活きます し、無駄になることもあります。マネジメントのポジションにある人はプロジェクトマネジメントを意識していただけると良いのではないでしょうか。実施担当 者においては、どうやったらうまく回るのかを考える上でプロジェクトマネジメントの知識は大いに役立つと思います。

ぜひ、官能評価にプロジェクトマネジメントを活かして下さい。

では、また!

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あさって、アセッサー、あせった

■□■□■□■官能評価TT通信No.6■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネルは何人?」です。

官能評価で問題になるのは、やはりパネルの問題が多いようです。特に人数に関する問題は頻繁に聞かれます。

大手の企業では専門パネルのほかにも、社内公募の一般パネルを有しています。一般パネルで3、40名というところもあります。おそらくもっと多い ところもあるでしょう。これらは例外であり、多くの企業では数人のパネルで切り盛りしています。実務的には4、5名などという話もききます。

さて、今回のテーマの「パネル人数」ですが、
「3人でデータを取ったけど統計処理してもいいの?」
「パネルを募集したいけど、何人募集すれば良いですか?」
などの声が聞かれます。

どうやって決めたらよいのでしょうか?

ここで、パネルの人数を考える時には2つのことを検討しなくてなりません。
(1)調査の種類と(2)利用できるパネルの能力です。

調査の種類は2つあります。嗜好型調査分析型調査です。嗜好型の調査ならば、パネルの能力を気にせず、アンケート調査と同じようにサンプリングの問題になります。サンプリングの話はアンケート調査などの本に詳しくかかれているので割愛します。
さて、商品開発部門などで行なわれる調査には分析型の調査が少なくありません。そして、皆さんが困っているのも分析型の官能評価だと思います。

そこで「分析型の官能評価」を対象に検討を進めましょう。

次に検討するのは(2)「利用できるパネルの能力」です。
その前に「分析型パネルと嗜好型パネルの境界」という問題が立ちはだかります。そこで、両者の境界を確認しましょう。

以前書きましたが、分析型パネルは「計測器」です。電子計測器でも何回か測定します。何故でしょうか?それは計測には必ず誤差が含まれるからです。
もし、世の中に「真の値」を測れる機械があるならば、複数回測定する必要はありません。一回測れば「真の値」がわかるのですから。ところが残念な ことに「真の値」を一回の計測で表示できる機械は存在しません。それどころか、我々は「真の値」を知ることすらできないのです。私たちとしては、せめて 「真の値に近いもの」を知りたいと考えます。そのための手法が確率であり統計です。

ここでサンプルや評価用語、環境などがすべて同一条件として統制されている前提で話を進めます。すると「真の値」を知るためには次のバラツキが邪魔なことに気が付きます。

1. 計測器毎のバラツキ
2. 計測器個体のバラツキ

1つ目のバラツキは、パネルAさんとパネルBさんのバラツキといえます。二人の感覚の違いが原因です。2つ目のバラツキは、パネルAさん自身のバラツキです。体調の変化や疲労、興味などの理由でバラツキます。
実は分析パネルと嗜好パネルの最も大きな違いは、これらのバラツキの大きさの違いです。(もちろん、記述的な能力なども重要なのですが今回は分か りやすくするために識別・判別能力という意味での分析パネルに限定して話を進めます。また、前述のように評価用語に対する認識などの他の要因も統制されて いるとの前提です)

つまり、分析型パネルと嗜好型パネルの境界とは、同一刺激に対する反応のバラツキの差であるといえます。

次は、分析的な調査のパネル数を決めるには「利用できるパネルの能力」を知らなければ決められません。つまりパネル管理です。具体的には、パネル 毎の能力のバラツキを定期的に測って記録しておき、調査に必要な精度に照らし合わせて必要なパネル数を計算します。初めて募集する時や記録を残していない 時は、とりあえず一般評価者(=嗜好型パネル)として扱うのが適当です。

さて、利用できるパネルの能力がわかったとしましょう。
本来ならば、パネルのバラツキ(=能力)から必要なパネル人数を計算したほうが良いでしょう。ところが、実際に計算すると予想以上にパネル人数が必要なことに気が付きます。そもそもパネル能力の結果からパネル人数を算出すること自体、現実的じゃありません。

そこでお勧めは「規格に準拠した人数を使う」というものです。ここではISOを例に話を進めます。
ISO6658(具体的には各手法の標準を参照。例えば2点識別法ならISO5495)では各評価手法に必要な人数を規定しています。たとえば、
2点識別法では、
7名のエキスパート(Expert)
もしくは、
20名の適正評価者(Selected Assessor)
もしくは、
30名の評価者(Assessor)
を要求しています。なお、評価者の区分ですが、ISOではパネルを5段階に定義し、これを3つのクラスに区分しています(参照ISO8586-1,2)。
A.Assessor
-Naïve Asessor(1)
-Initiated Assessor(2)

B.Selected Assessor(3)

C.Expert
-Expert Assessor(4)
-Specified Expert Assessor(5)
(カッコ内の数字が大きいほど特定の分析に適した分析パネルということになります)

Selected Assessor(適正評価者)以上が分析型パネルといえるでしょう。

(1)調査の目的と(2)利用できるパネルの能力の二つからパネルの人数を決める方法を検討しました。その上で、規格を用いることを提案いたしました。

まとめると、
1. パネルを能力別に区分し、
2. 規格で決められた人数を使う
ということです。

誤解されたくないのですが、アカデミックな調査や、民間企業でも研究所など調査の質を重視するところではこんな決め方はするべきではないと考えてます。私がここで提案しているのは、中小企業が少ない投資で最大限の結果を得る方法です。

最後に、パネルの区分について付け加えておきます。
これまでもパネルを区分する用語として「分析型」「嗜好型」等を使いました。「一般」「専門」という区分。そして今回はISOに基づく区分をご紹 介しました。混乱してしまうかもしれませんが、「分析型」「嗜好型」という区分は調査目的で決まる区分です。分析型パネルであっても嗜好型の調査に嗜好型 パネルとして参加することもあります。また、「専門」「一般」という用語は統一されていませんが、業務として評価業務を行なっているパネルを「専門パネ ル」といっているようです。一方、ISOによる区分は能力区分といってよいでしょう。

違いを理解した上で調査目的に合ったパネル人数を決めたいものです。

では、また!

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スケールもインポータント!

■□■□■□■官能評価TT通信No.5■□■□■□■

さて、第5回目のテーマは「モノサシの重要性」です。

前回はパネルの重要性を述べましたが、同様に「モノサシ」も重要です。「パネルの重要性」は官能評価において特筆すべき項目です。一方、「モノサ シの重要性」は様々な分野で述べられているので割りと知られていることでしょう。マーケティング調査や組織調査でも様々なモノサシが使われています。しっ かりとした設計がされている調査票(アンケート用紙)では、信頼性・妥当性の高い質問項目が並んでいます。

マーケティングや組織調査で回答する人は、基本的に回答の経験に関係がありません。つまり、回答者は回答経験やその人自身の回答安定性を事前に確かめられることはないのです。

ここで、官能評価の回答者には2種類があります。1つは嗜好型パネル。もう1つは分析型パネルです。前者は、マーケティングや組織調査の回答者と同じ考え方で良いでしょう。つまり、回答経験や回答の安定性よりも、母集団を代表するサンプル(標本)であるかどうかが求めらます。

後者の分析パネルは測定器です。測定器に求められる機能は、再現性・反応性・耐久性などがあります。分析パネルに求められる要件項目は、各種機器センサーに求められる要件項目と同じです。違いといえばそのレベルだけでしょう。

非常に非人間的な表現をしてしまいましたが、本質だけを書き上げるとこのような表現になってしまいます。しかし、パネルは人間であり、機械のように扱うことはできません。パネルマネジメントの問題は、別の機会に述べたいと思います。

以上のように官能評価の回答者には、回答能力が求められる分析型と、回答能力が求められない嗜好型があります。

つぎに「モノサシ」ですが、モノサシは「一般化(Generalization)の対象レベル」で区分できます。一般的なモノサシで重要なことをみながら、「一般化」の意味を考えてみましょう。

(1) 測定に信頼性・妥当性がある
(2) モノサシの利用者が測定値を読み取れる

1点目は理解できると思います。当然、測定毎に値が変わってしまってはモノサシとしての役割を果たせません。同じモノを測ったら同じ測定値を表示するのがモノサシの役割ですからね。

さて、2点目については説明が必要かもしれません。距離を測るセンサーを例に考えて見ましょう。このようなセンサーでは距離電圧の変化として出力しているだけです。電圧の変化だけでは利用者は何のことかさっぱり分からないでしょう。しかし、そこに翻訳語を挟んでやると、電圧が距離に置き換えられ、利用者は距離として読み取ることが出来ます。

ここで電圧の変化を表示しているレベルを「一般化レベルが低い」と言い、距離で表示されたレベルを「一般化レベルが高い」 といいます。しかし、このレベルというのは一般化の対象を人間とした場合です。もし、対象をコンピュータとしたら電圧であっても充分一般化レベルが高いと いえます。(パソコンに詳しい人なら、プログラミング言語の違いと言い換えれば分かりやすいでしょう。対象を人間とした場合の、機械語よりC言語、C言語 よりベーシック言語ということになります)

一般化の対象の違いによって、一般化のレベルは変わるんですね。

さて、官能評価で「一般化レベルが低い」モノサシは、分析パネルが使うモノサシにあたります。分析パネルは独自の表現で「清涼感のある」「華やか な」「ウッディーな」などと表現・評価します。一般化レベルが低いので、分析パネル同士では意味が一貫していますが、回答経験のない一般の人(=嗜好パネ ル)では意味がバラバラになってしまいます。しかし、分析パネルに分析目的で使用するには全く問題がありません。(ちょっとわかり難いですが・・・)分析パネルを対象として、高いレベルで一般化されているとも言い換えられます。

一方、分析パネルの間で信頼性が高いモノサシであっても嗜好パネルにそのまま同じ質問が使えるとは限りません。例えば、香りの評価で「ウッディーな」とい う用語を「森林の中の臭い」と捉える人もいるでしょうし、「ログハウスの中の臭い」かもしれません。最近は自然と触れ合うことも少なくなっているので 「ウッドパネル調の壁紙の臭い」を「ウッディー」と表現する人がいないとは限りません。つまり、回答者間の捉え方に一貫性がなく、モノサシとして利用する には事前の調査やサンプリングの仕方を十分検討しなければなりません。アンケート調査で用いられる質問は、これらを十分に検討された物を使います。つま り、回答経験を問わない一般人を対象として、高いレベルで一般化されているといえるでしょう。

モノサシを使う人(=調査・実験計画者)は、そのモノサシが「誰」を対象に、どのくらい「一般化」されたものかを十分検討した上で使うことが必要です。また、官能評価ではモノサシを一般化することも大切ですが、パネルをモノサシに合わせる訓練(分析パネルの訓練)も大切です。

つまり、官能評価ではモノサシとパネルは表裏一体なのです。両方の信頼性を高めていかないと信頼できる結果は得られないということですね。

ちなみに適性検査などで、「管理職を対象に調査した職務適性」をそのまま大学生の適職判断に使用している例を見かけたことがあります。管理職を対 象に一般化された職務適性傾向は、管理職という母集団に属する人にしか使えません。大学生の職務適性を判断するには、大学生を母集団としてサンプリングさ れた標本で調査が行なわれていなければ信用できないことになります。

診断・判断モノを読むときは、前提条件を理解した上で結果を読んでください。

ところで、恋愛や相性判断でそこまでこだわるのはつまらないかもしれませんね。

では、また!

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