センサリーの4S

■□■□■□■官能評価TT通信No.22■□■□■□■

さて、今回のテーマは「4S」です。

官能評価では様々な要因が絡み合っていて、全部の要因に注意を払っていては前に進みません。そこで重要なポイントだけを押さえて実施していくことも実務者としては必要です。弊社では官能評価を実施する上で重要となるポイントの頭文字をとって、『センサリーの4S』と呼んでいます。

『センサリーの4S』
1.Subjects(パネル)
2.Scale(モノサシ)
3.Sample(試料)
4.Situation(場所・状況)

注記:現在では2つ目をScaleではなく、ScoreCardとしています。

第1に、Subjects(パネル)です。これはブログでも何回か書いていますが、パネルの能力如何で評価の結果が大きく変 わってしまいます。本来、評価設計の順番としては「知りたいこと」を知るための評価を企画し、その評価に必要なパネルをリクルートしてくるのが適当だと思 います。しかし、現実には社内のパネル使用が前提ということが少なくありません。そのため、利用できるパネルの能力や人数が決まることで他の項目を検討し ていくというのが実践的です。

第2に、Scale(モノサシ)です。普通、定規(モノサシ)は誰でも対象物を測ることができます。ところが官能評価のモノサ シは使う人(パネル)によって使えたり、使えなかったりします。官能評価では、相対評価と独立評価(絶対評価)がありますが、相対評価はおおむね誰でも使 えます。しかし、独立評価(絶対評価)はパネルの評価能力がないと使えません。パネルの能力に合わせた評価尺度(モノサシ)を使うことが大切です。

第3に、Sample(試料)です。官能評価では統制困難な要因が多くあります。その中でも試料の影響が大きいですから可能な 限り統制したいものです。但し、現実的には非常に困難が伴います。人工的に調製できる場合は良いのですが、海産物・農産物など官能評価実施者の思い通りの 試料を集めることが出来ないことがあります。これ以外でも社内的事情から、有り合わせの試料で評価をすることもあるでしょう。しかし、せっかく手間をかけ てデータを取るのですからエネルギーを注いで試料を準備するようにします。

第4に、Situation(場所・状況)です。官能評価を「どこで」「どんな状況で」行なうのかは、評価目的(知りたいこ と)で決まります。一般的に2つの状況が考えられます。1つは、実施者側が場所を提供する場合。もう1つは評価者側で確保する場合です。前者は評価室や会 議室で実施するような場合です。要因とする属性を絞込み、環境などの要因を統制することが出来ます。後者は自宅に持ち帰って評価してもらうような場合で す。あまり属性は絞り込まず、各要因の統制よりも実際の使用環境を再現することに重きをおいた設計です。どちらの場合でも大切なのは「その場所で評価を実施することで、知りたいことを知ることができるのか」を問うことです。

以上の4つのポイントを押さえれば、全くおかしな評価にはならないはずです。また、この順番も重要な順に並べていますので順にチェックしていくことをお奨めします。

当たり前のことしか並んでいませんが、当たり前のことをするのが難しいのも事実です。

弊社では、官能評価の経験が少ない方に対しては、常にこの『センサリーの4S』を念頭において評価の実施をするように言いま す。この手の頭文字(例えばQCの『5S』、マーケティングの『4P』など)はありふれていますが、非常に便利なツールだと思います。一度覚えたら忘れな い程度の簡単なチェックリストで、情報の抜け漏れを防いでくれます。私も『センサリーの4S』は未だに使っていますし、報告書を書くときは『5W2H』に気をつけています。

皆さんも手軽に官能評価のクオリティーチェック、してみませんか。
今回は『センサリーの4S』でした。
ではまた!

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虎のANA

■□■□■□■官能評価TT通信No.21■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネル訓練環境」です。

このブログでもパネルの重要性は述べてまいりました。特にその中でも分析型パネルは訓練が欠かせません。しかし、専従パネリストを持つ企業は一握りの企業だけです。中小企業や小規模で官能評価を行なっている担当者はどのようにパネルを訓練していけばよいのでしょうか。

目的や精度に応じて様々な状況が考えられますので、一般論として訓練のためにどのような環境を提供していったらよいのかを考えてみたいと思います。

専従ではないパネリストの場合、評価会の実施は基本的に彼らの意欲に支えられています。そこで彼らの意欲を高めつつ、能力も高めていく環境や方法が必要です。そこで私たちが考える「分析パネルの能力を引き出す条件」は次の3つです。

1.能力を客観的に評価する
2.能力を向上させる環境を提供する
3.嗜好性や感情に関わることを評価しない

まず、第1の「客観的能力評価」はいうまでもありません。基準を決め、誰もが納得いく判断・評価をするというものです。味覚や嗅覚などの感覚は絶えず変化 しており、様々な要因に影響を受けます。パネリストの社内選抜において1度きりの検査で落とされた方が「あの時は調子が悪かった」と泣きついて参加を希望 されたとしても、これは断るべきでしょう。もし、これでその人が採用され、同様の状況で落ちた人がいたら担当者の印象も悪くなりますし、選抜検査自体の信 憑性も疑われてしまいます。選抜に限らず、能力の評価は可能な限り数値などで客観的に提示することが重要です。

弊社では、定性評価の客観性を補完するため、表現した全てをテキストデータ化し、テキストマイニングによって客観性を高めております。

第2の「環境の提供」については官能評価担当者だけでは出来ない問題があります。評価会への参加のため、業務を一時抜けなければならないとしたらその部署の同僚の支援が必要になります。ここでは官能評価担当者側で提供できる環境に付いて考えてみます。

私がお奨めするのが、パネリストが訓練したい時にいつでも訓練できる環境を提供することです。パネリストは自己の能力開発に興味があります。それ を客観的に評価・フィードバックする環境を作り出せば、ゴルフのスコアに執着するお父様方のようにヒマさえあれば素振りしてくれることでしょう。

もう一つメリットがあります。パネリストと官能評価担当者のコミュニケーションが密になることによって情報量が変わってきます。

ぜひ、出入り自由なパネルトレーニング室の開設はいかがでしょうか?

そして、最後が「嗜好性や感情には触れない」ということです。これは担当者側が気をつけなければならないと思います。プロフェッショナルパネリス トなら『そんなことで気にしていたら仕事にならん』のですが、専従ではない、官能評価に詳しくないパネリストだと気を悪くします。仮に聞く場合も「○○さ ん」ではなく、「性別○、年齢△才、の代表者として来ていただいた○○さん」として聞いたほうが良いでしょう。個人と属性を切り離すことによってクッショ ンが出来ます。

以上、3つの条件について書きましたが、やはりお奨めは「出入り自由なパネルトレーニング室」です。場所が余分に必要となるので中小企業ではイタイと思うのですが・・・。

今回は「パネル訓練」でした。
ではまた!

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官能評価って人体実験なのかも

■□■□■□■官能評価TT通信No.20■□■□■□■

さて、今回のテーマは「実験計画法」です。

官能評価を行なう上で実験をどう行うかという実験計画法は避けて通れません。今回は実験計画法の概要について述べたいと思います。

まず、実験計画法の基本はフィッシャーの3原則として知られています。
1.反復(replication)
2.ランダム化(randomization)
3.局所管理(local control)

実験計画には2つの目的があります。
1.条件の均一化(乱塊法、ラテン方格法、ブロックデザイン(IBD,BIBD))
2.実験回数の削減(直交法、ラテン方格法、BIBD)

実験を行なう上でベタな方法といえば、全ての組み合わせについて実施する方法です。
全ての組み合わせを行うということは情報量が多く分析から得られることも多いのですが、要因が増えた時にコストや実験管理の問題が出てきます。
単純に3水準3要因として、3の3乗で、27実験が必要です。
もう一つ要因を増やすと、3の4乗となり、81実験が必要になります。
繰返しデータも欲しいなんて言い出したら大変なことになってしまいます。こうなってくると実験ごとの局所管理が出来るのかという問題が出てきます。毎日1 実験を行なったとしても約3,4ヶ月かかります。四季の彩りが豊かな日本ですが、もし季節変動があるとすれば最初にやった実験と最後の実験では条件が異な ることになります。

そこでまず第一の「条件の均一化」ということを考えます。

仮に条件の均一化が計れたとして次の問題は、企業がそんなに時間とお金をかけていられないということです。(無論、担当者もそう思うでしょう)

そこで第二の目的である「実験回数の削減」をすることになります。

ですからお金に余裕があって、いつでも完璧に環境を再現できる実験室をお持ちで、実験回数を減らす必要がないなら、実験計画法なんて知らなくてもいいのです(極端ですが)。

現実的にはそんなことはなく、あらゆる制約の中で実験を進めていかなくてはなりません。

ゆえに実験計画法を理解し、実践する必要が出てくるのです。

もちろん全てにおいて良いことばかりではありません。実験回数の削減をするということは精度を落とすということになりますし、分析から得られる情報量も減ってしまいます。一般的には3因子以上の交互作用は小さいので考慮しませんが、もしかしたら・・・ということもあります(設計時点に適切な知恵があれば避けられるはずなのですが)。

具体的な実験計画法については少ない紙面でどこまで説明すればよいか悩んでしまったので、扱わないことにしました。

その代わりおすすめの入門本を2,3お知らせしておきます。

永田靖著「入門実験計画法」は非常にわかりやすく、かつモデル式も記載されておりベーシックな一冊だと思います。但し、ハードカバーの教科書っぽ さが嫌という人もいます。そこで、分散分析と実験計画法を理解する上では大村平著「実験計画と分散分析のはなし」でじっくりと1歩1歩進むのも良いでしょ う。薄いので通勤途中でも読めます。但し、計算機前提なのでエクセル派の方はニ見・西著「課題解決のための実験計画法」(?・?)が良いと思います。分析 ツールやエクセル関数を使いながら理解できますし、ルーチンな評価だったら作ったシートをそのまま業務で使えます。

官能評価では疲労や繰返しが出来ないなどの制約が多くあります(例えば、私はビールののどごしの評価は1回目でアウトです。のどごしですから飲ん でしまいますので、あっという間に酔ってしまいます)。実験計画法は、このような制約の中で実験回数を減らし、しかし情報量は維持するといううれしいツー ルです。一方で多少の勉強が必要なのもまた事実です。しかし、身につければ非常に強い武器となってくれると思います。

ぜひ、利用してみてはいかがでしょうか。
今回は「実験計画法」でした。
ではまた!

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今週のランキング情報

■□■□■□■官能評価TT通信No.19■□■□■□■

今回のテーマは「順位データの活用」です。

官能評価を行なう時、尺度を意識することは非常に重要です。その後の解析手法に影響を与えますし、そもそも尺度によっては分析できないこともあるからです。

尺度には4つの種類がああリます。
1. 名義尺度(nominal scale)
2. 順序尺度(ordinal scale)
3. 間隔尺度(interval scale)
4. 比尺度(rational scale)

比尺度は、比率が確保されており四則計算が出来るので様々な解析に用いることが出来ます。一般に多変量解析に用いることのできる尺度は間隔尺度と比尺度です。実際、一番用いられているのが間隔尺度ではないでしょうか。

その間隔尺度は、まさにその名前の通り等間隔性が確保されていることが前提となります。9ポイントスケール(1,2,・・・8,9)であれば、1と2の間 と8と9の間の間隔が等しくなければなりません(この等しいというのも精度にこだわりだすと非常に厄介ですが、ある程度の等間隔性を確保していると考えて ください)。以上のことを保証する尺度を開発するにはコストがかかります。

また、いくつかの分析では前提条件として「正規分布」であることが求められることがあります。通常は正規分布であると仮定して分析を行なっておりますが、中には正規分布しないものもしばしば見受けられます。

そこで正規分布していなくても分析できる方法はないかというとあるんです。それが「順序尺度」(順序データ)です。統計に詳しい人なら今更でしょうが「ノンパラメトリック」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは母集団の分布が特定できない(正規分布しているかどうかわからない)ときに用いられる手法です。

この他、尺度がきちんと検証されていなければ等間隔性の確保は難しいでしょう。そして、あまりトレーニングされていないパネルで実施することもあります。トレーニングを受けていないパネルによる評価でも等間隔性を確保するのは困難です。

順序データはデータ収集後の柔軟性が高い手法です。狙って取られることはもちろん、実際の業務の中では間隔尺度でデータを収集し、分析の時点で順序データ化することもあると思います。このようにデータを取ってからの柔軟性もあります。

なかなか尺度開発・パネル育成に時間やお金をかけられないことも多いと思います。

忙しい業務の中で、母集団の正規分布・尺度の等間隔性・パネルの能力などに不安がある時は、順序データを活用していくことをおすすめします。

今回は「順序データの活用」でした。
では、また!

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EDではない

■□■□■□■官能評価TT通信No.18■□■□■□■

さて、今回のテーマは「探索的データ解析法(EDA)」です。

一般に「統計学」というと確証的データ解析法(Confirmatory data analysis; CDA)のことを指します。CDAは仮説やモデルを立て、データで検証するのが基本的な考え方です。しかしながら、CDAはモデルが必要であることや外れ 値に対する影響が強い(抵抗性が弱い)ことなどの弱点もあります。そもそも情報の少ない初期のフェーズでは最適なモデルを作ること自体が困難です。

そんな中で柔軟にデータを解析する方法が模索されてきました。

1960年頃にJohn.W.Tukeyによって提唱され「Exploratory Data Analysis」(1977, Addison-Wesley Publishing Co.)というそのものタイトルで探索的データ解析法(Exploratory Data Analysis;EDA)が出版されました。

近年の統計ソフトの機能向上と低価格化に伴い、EDAが急速に発達してきました。「データマイニング」にもつうじる考え方で、ビジネスの現場では急速に取り入れられています。

EDAの特徴は4つです。
1.ロバストネス(抵抗性が強く、強健な手法)・・・異常値の影響を受け難い「中央値」を使う。例)中央値分散分析
2.残差分析・・・モデルへの当てはまり度合いを評価した後、残差を分析することによってより良いモデルを構築する
3.データ変換による再表現・・・べき乗や対数、比率変換などのデータ変換によってデータの潜在的パターンを見つけ出しやすいよう構造を再表現する
4.データの視覚化(ビジュアル化)・・・データの視覚化によって妥当性の確認や新たなパターンの発見に役立ちます。

官能評価に限らず、ビジネスでは仮説検証型(CDA型)のデータ解析よりもEDAやデータマイニングのように探索型の需要が高まっています。商品 が多様化し、プロダクトライフサイクルが短くなり、モデル(仮説)を作って検証してから商品化というのでは遅いと考えられているからかもしれません。

最近の統計ソフトは探索型を指向したものが多く出回っています。例えば、SPSSではメニューに【分析】→【記述統計】→【探索的】というコマンドがあります。またSAS社のJMPは探索的データ分析ツールであることを前面に押し出しています。

各社様々な手法やグラフを提案していますが、奥野忠一氏が7つ道具として次の手法を挙げています(もとはTukey【前述】が提唱したものですが奥野氏がまとめたものを引用いたしました)。
1.幹葉表示(Stem and Leaf display)・・・ヒストグラムに代わる手法
2.要約値(Letter value display)・・・平均値・標準偏差に代わるもの
3.箱ヒゲ図(Box whisker plots/Box plots)・・・分布形と“外れ値”の図的表現
4.X-Y表示(X-Y plotting)・・・散布図に代わるもの
5.抵抗性のある直線回帰(Registant line)・・・回帰直線の代用
6.中央値分散分析(Median polish)・・・二元配置分散分析に代わるもの
7.時系列データのならし(Smoothing)・・・移動平均に代わるもの
(出典:奥野忠一著「現代統計実務講座別冊テキスト-探索的データ解析法-」p15)

EDAをやってみたいという方、厳密な手法についての議論は脇に置いて、まずはデータをグラフ化して、いろんな視点で眺めるのが良いと思います。

グラフィカルな統計ソフトを用いて、その中で習得していくのが得策です。

但し、EDAは統計知識があって初めて活用できる手法だと思います。CDA(確証的データ解析法)を補完する手法として取り入れていくのが良いでしょう。

官能評価でも探索的な評価の需要が高まっています。今後の流れとして目が離せません。

ではまた!

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官能のおへや

■□■□■□■官能評価TT通信No.17■□■□■□■

さて、今回のテーマは「評価室」です。

官能評価室に関してはISOではISO8589「官能試験-試験室の設計の一般指針」(邦訳なし)で規定されています。

弊社ではクライアント先で評価を実施することもありますが、上記ISO8589に基づき独自のチェック表をつくり事前に確認しています。

例として、分析型評価を行なう評価室のチェック項目を挙げてみます。

A.環境条件
1.ロケーション
2.温度と湿度
3.ノイズ
4.臭い
5.装飾
6.照明

B.ブース
最低限3室、通常5~10室
0.9m(幅)×0.6m(奥行き)

C.準備室
1.評価室のすぐ近くに置くこと
2.評価者が評価室に行くために準備室を通らないこと
3.床や天井、備品は臭いなどを容易にメンテナンスできるような材料であること

環境条件については、各項目について3レベル(A,B,C)に分類し記録します。環境条件を記録しておくことで社内外のデータ比較や過去のデータ比較をする際に役立ちます。

特に過去の評価事例と異なった結果が得られたとき、その原因がどこにあるのかを特定できないと過去の評価データが活かされません。

せっかく時間とお金をかけて取ったデータです。活かしたいものです。

官能評価は、評価の実施プロセスを克明に残していく(管理していく)ことが重要です。論文でも評価手法や分析手法について紙面を割くより、具体的な実施のプロセスを記載して欲しいと思います。なぜなら、官能評価の肝は実施プロセスにあるからです。

論文は別としても、会社の資産として評価データを生かすためにはパネルの状況や評価環境、つまり評価室の状況も記録しておくことが大切です。

あらたに評価室を設けるのは難しいですが、レイアウトや備品を考慮することで評価環境を改善することが出来ます。

ISOや書籍を読むことでも充分これらの知識は得られると思います。(弊社でもこれら相談に乗っております)

ぜひ、環境改善でよいデータを集めてください。

今回は「評価室」でした。
ではまた!

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売上激増!官能評価

■□■□■□■官能評価TT通信No.16■□■□■□■

さて、今回のテーマは「営業から見た官能評価」です。

皆さんのところでは官能評価の結果をどのように使っているのでしょうか。

商品開発では官能評価の結果を営業に伝えて営業支援をすることもあります。今回は営業側から見たとき、どんな情報が欲しいのかを考えます。

まず、営業の仕事はなんでしょうか?

営業の仕事とは売ることです。

しかし、「買ってくれ」「はい、わかりました」とは行きません。
そこで商品やサービスの良さを説明して購入者にメリットがあることを説明します。

ところがこのメリットというヤツが曲者です。なぜなら常に変化していくからです。

そこでプロダクトライフサイクルの推移の中で求められる要素(メリット)を考えてみましょう。
1.機能
2.付加価値
3.デザイン
4.エモーション(経験価値)

先の2つは商品そのものの有形の価値で、後の2つは商品に付随する無形の価値です。

「健康食品」を例に説明します。
まず、「健康のための改善効果がある」という機能を満たして販売されます。この時点では「味」にあまり拘らなくても機能を売りに販売することが出来ます。(『1.機能』の利益訴求)

次に、いくつかの競合がでてくると機能だけでは売上に伸び悩みが出てくるため、「味」をよくします。なぜなら、いくら健康に良くても続けられなければ効果 は薄いし、何よりも不味いものは口にしたくないのが人情でしょう。それを解決するために「味の改善」された商品が市場に出回ります。(『2.付加価値』の 利益訴求)

さて、味も良くなってくると今度は「見栄え」が気になります。いわゆる「デザイン」です。私たちは社会生活を送る上で毎日移動を繰り返して生活しています。その中で食品も「持ち運び」されることが多くなり、他人の目に触れることも多くなるでしょう。必然的にデザインの良し悪しが購入決定の要因に関わってきます。(『3.デザイン』の利益訴求)

効果があり、味も良く、デザインもいい。でも、そんな商品が一杯になったら、また利用者は購入の要求を厳しくしてきます。それがエモーションです。感性マーケティングとか、経験価値マーケティングなどといわれるアプローチです。わかりやすい例では、マスターカードのCMで流れている「プライスレス」 というやつです。祭りなどで見かける「チョコバナナ」は昔からこのアプローチではないでしょうか。どう見てもバナナにチョコをかけただけなのですが、祭り などでは値段が高いにもかかわらず売れています。なぜでしょうか?この解釈として購入者は「チョコバナナ」を買っているのではなく「チョコバナナを買った 祭りの思い出」を買っているのだとするのがエモーショナルマーケティングのアプローチです。(『4.エモーション』の利益訴求)

さて、営業の話からプロダクトライフサイクルの話へと飛んでしまいましたが、ここで話を営業に戻しましょう。

営業の仕事は売ることです。
ところが消費者はプロダクトライフサイクルの中で様々なことを要求してきます。
同時に競合が次々と現れてきます。
そこで営業は次のことをしなくてはなりません。
1.消費者の要求を満たしていることを説明すること
2.競合商品より価値があることを説明すること

ここで営業が官能評価に求めるのは何でしょうか?
上記2項目そのものです。つまり、
1.消費者の要求を満たしていることを説明できるデータ・資料
2.競合商品より価値があることを説明できるデータ・資料

ということです。

例えば、官能評価実施者が論文を書いてジャーナルに記載されたとして研究の進歩を喜ぶかもしれませんが、営業サイドではそのジャーナルを持って営業に行けることを喜ぶのです。このように成果が各々の目的を満足していれば良いのですが、一方の満足で終わってしまうとギクシャクしてしまいます。
評価実施者は、
「この研究成果の意義をなぜ営業はわからないんだ」
営業は、
「そんな研究成果じゃインパクトが薄いんだよ」
と。

企業という組織の中で活動していることを考えると、相互のコミュニケーションの機会を増やして組織の最適化を進めていくべきでしょう。

このブログの読者は官能評価の実施側の人が多いと思います。そこで、お奨めしたいのが
「営業が欲しがるデータを取れ!」
です。様々な組織構造があるので一概には言えませんが、他部署で欲しがるデータを取れる官能評価部隊は周りのサポートも得られるため良いサイクルで回っています。

社内の営業をお客様と思えば、お客様が求めていることに答えていくのも必要なことです。

ぜひ、社内のお客様も満足させてやってください。

今回は社内のお客様、営業サイドから見た官能評価について述べました。
では、また!

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おいしいから売れない?

■□■□■□■官能評価TT通信No.15■□■□■□■

さて、今回のテーマは「“おいしい”と“売れる”」です。

おいしい商品が全て売れる商品だったらどんなに楽でしょうか。しかし、現実はそう簡単ではありません。もちろん、おいしい商品のほうが売れる可能性は高いのですが、強力な要因とはいえません。

理由は2つです。
1つは、顧客が購入を決定する際に「おいしい」という要因が必ずしも決め手になっていないことです。値段で購入するヒトもいるし、パッケージやCMの効果で購入を決めているかもしれません。

もう1つは、食品のほとんどが試用なしで購入を決める商品であることです。大手の新商品ならば、試食をすることもあるでしょうが、ほとんどの新商品は試食 なしで購入するか否かを決めなければなりません。つまり、新商品の購入決定に「おいしい」かどうかは関係ないといえます。「おいしい」が要因となって売れ るのは再購入に限ってということになります。
※消費者の購買行動についてはマーケティングか、そのものずばり「消費者行動」の本を参照ください。あまりに膨大なのでとてもじゃありませんが紙面が足りません。

では、なぜ企業はおいしい商品を創る必要があるのでしょうか。
味なんて売上に関係ないかもしれないのに・・・。

理由は3つです。
1.企業としての存在意義
2.顧客のロイヤリティーを高める
3.長期的売上の向上

1つめの「企業としての存在意義」とは、つまり「あなたの会社が無くなって困るヒトがいますか?」という問いにはっきりと「はい」と答えられると いうことです。おいしくない商品、似たような商品、ありふれた商品ならば明日会社が無くなっても世の中のヒトは困らないでしょう(残念ながら、それが現実 です)。実際、海外の安い商品に押されて淘汰されていくのではないでしょうか。食を扱う企業として生き残っていくために最低限「おいしさ」という価値は提 供して行くべきでしょう。

2つめの「顧客のロイヤリティー」とは、お客様がどれだけあなたの会社の商品に忠誠を持っているかということです。ロイヤリティーを形づくるのは 「信用」です。「ブランド」と言い換えてもいいでしょう。食品は「安全」とか「生命」にかかわる商品ですから、特に信用は大切な要因です。先ごろの牛乳 メーカーの不祥事は「信用」を損なった例といえるでしょう。その結果は言うまでもありません。

3つめの「長期的売上の向上」はロイヤリティーの向上の結果ともいえます。ロイヤリティーの向上によって、顧客は試食なしに新商品の購入を決めて くれます。そしておいしい商品ならば、リピーターになってくれます。リピーターの増加は売上の向上だけではなく利益率も高めます。新規顧客を一人増やすの にかかる費用は、リピーター維持にかかる費用をはるかに上回ります。広告費用を押さえ、同じ売上を確保できるのですから利益率が高まるのは当然です。

おいしい商品をつくることの意義は見い出していただけたと思います。

ところで文頭にも書きましたが、おいしい商品だから売れる商品とは限りません。しかし、おいしい商品を創る意義はあります。

では、おいしい商品売れる商品にするにはどうすれば良いのでしょうか。

それは、官能評価の成果をマーケティングに反映することです。
つまり、官能評価とマーケティングの融合です

おいしい・まずいは官能評価の分野です。これを売れる仕組み造り、つまりマーケティングに組み込んでいくことで「おいしい商品」が「売れる商品」に変わっていきます。

官能評価がなかったらどうなるでしょうか?

キャッチコピーの例を考えるなら、商品の特性を適切に反映していないコピーが出来上がります。
苦味が弱いのに「ビターな○○」
甘いのに「甘味を押さえた○○」など

ウソのコピーは顧客からの信用を損ないます。
逆にコピーが商品の特徴を適切に説明していれば、顧客が購入に必要な情報を提供できたことになります。情報が適切で、顧客が購入に満足すれば、広告に対する信用も企業に対する信用も高まります。

商品が氾濫する今の世の中で、顧客に適切な情報を伝えるのも企業側の責任です。そのために官能評価の成果や知識は十分生かせるはずです。
残念なのは、多くの企業で官能評価の成果が研究開発・商品開発で止まっていることです。

マーケッター、営業、官能評価技術者の各者が歩み寄って、相互の情報交換をすることでもっと官能評価の成果を活かせるようになるでしょう。

ちょっとしたこと、例えば官能評価の順序効果を応用して、試食の順番でどっちがおいしく感じるかを伝えるだけで、営業部隊は喜んでくれますよ。

今回はマーケティング寄りのお話でした。
ではまた。

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す・ご・い ヒト達

■□■□■□■官能評価TT通信No.14■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネルの選抜」です。

官能評価では、評価するヒトをパネル(評価者)といいます。一方、品質管理としての官能評価(つまり、官能検査)の中では「検査員」という言い方が一般的です。

品質管理としての検査員と、商品開発などに関わるパネルでは求められる能力と水準が異なります。

パネルに求められる能力はつぎの5つです。
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
4. 表現力
5. タフネス(耐久性)

これらの能力は目的によって水準が変わります。

まず、品質管理のための検査員は、
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
5.   タフネス(耐久性)
の4つが強く求められます。

商品開発関連ならば、
1. 識別能力
2. 感度
3. 安定性
4. 表現力
の4つです。

比較すると最初の3項目は同じですが、最後の一つだけが異なります。これは商品開発ではタフネスはいらないというのではなく、要求度が品質管理の場合に比 べて低いということです。当然、品質管理の検査員でもクレームの原因を探る場合など表現力が求められます。ただ、その頻度と要求のレベルが異なるというだ けです。

やはり目的に応じて要求水準を定めて、目的に合ったパネルを選抜するのが良いでしょう

もし目的に合わないパネルを選抜すると3つの懸案が持ち上がります。
1. 目的を達成できない(業務を遂行できない)
2. コストがかかる(選抜のコスト、教育のコストなど)
3. モチベーションダウン

1と2はわかりやすいと思います。
1については、能力のないパネルを採用すれば業務を遂行出来ないのは当然です。仮に、そのパネルを教育しようとするとコストがかかります。逆に、 全てを兼ね備えた人材を探そうとあらゆる人材にテストを受けてもらうとすれば、選抜のためのコストは非常に大きくなってしまいます。また、ハードルが厳し いのでコストの割りには合格者も少ないです。

最後の問題は結構根深いです。不適切なパネル選抜が行なわれた場合、3者の立場でモチベーションが落ちてしまいます。

第1に、採用した担当者です。計画していた品質検査や官能評価が適切に実施できないとなると業務は滞りますし、上司に怒られる かも知れません。これなら社内の話で済みますが、市場に不良品が流通しようものなら会社の信用の失墜に繋がります。担当者にとってはパネル選抜の失敗は、 モチベーションが落ちる原因になります。

第2に、採用されたパネルです。能力が無いので仕事が出来ません(但し、多くの場合、官能評価を実施する側が気兼ねして毎回参 加してもらっているようです)。評価の場が能力を活かせる場ではなくなり、帰りにもらえるお茶菓子が楽しみになってしまいます。そうなるとずるずる評価に 参加はするけど貢献はない状態になります。この状態では能力が上がることはないでしょうから、さらに悪循環が続きます。

最後は、官能評価の経験が少ない会社で起こりやすいのですが、マネージャーの官能評価に対するモチベーションが落ちてしまいま す。官能評価を導入しようと頑張っているが、結果が出てこない。ヒトを集めてみたけれど、やる気がない。部下(担当者)もやる気をなくしている。これだっ たら官能評価をやめてしまって機械に頼ってしまったほうがよいのではないか。など、すっかりやる気をなくしてしまいます。

さて、このような問題をはらんだ「パネルの能力と要求のアンマッチ」ですが、ほとんどの場合、事前の計画を綿密にすることで防げます

1つのプランで行動しようとするとこのようになってしまいます。そこで、パネル選抜の計画にはいくつかのオプション(代替案)を持つようにしましょう。理想とする第1案があり、現実的な第2案、そして想定できる最悪の第3案を作ると良いです。

そして、要求される能力と水準を明確に認識し、それにあった選抜テストを実施・評価することが大切です

一度、パネル選抜のプロセスを見直してみませんか?

ではまた!

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官能的企業

■□■□■□■官能評価TT通信No.13■□■□■□■

今回のテーマは「官能評価の適用分野」です。

官能評価を使う商品といえば何でしょうか?

食品?化粧品?自動車?音響機器?

弊社でご相談を受けるのは、やはり食品・飲料分野が圧倒的に多いです。

私がはじめて官能評価を知ったのは輸送業界の技術者としてでした。その為か、官能評価が食品・飲料に限った技術だとは思っていません。しかし、一般的には官能評価は食品や飲料に限られた技術と言う考えに偏っているようです。

実際のところ、官能評価はどのような業界・分野で利用されているのでしょうか?

官能評価を採用している企業を知ることは簡単ではありませんが、ある程度知ることは出来ます。

例えば、日本の官能評価の草分け的存在である日科技連では2001年まで毎年「官能検査シンポジウム」を開いていました。そこでの発表を「官能検査シンポジウム報文集」として編集・発行していました。

この論文投稿からどんな企業や業界が官能検査・官能評価に興味を持っていたのか検索して見てみましょう。この報文集(1~31回)に論文などを投稿してい たのは、91社です。ちょっと荒っぽい検索をしたので同じ会社を2回数えていることもあり、検索からもれた企業もあるでしょうから概算で80社ぐらいで しょうか。

【検索結果】(91件ヒット;(株)をキーワードで検索)
麒麟麦酒(株)、鈴木自動車(株)、明治製菓(株)、味の素(株)、武田薬品工業(株)、富士写真フィルム(株)、日本油脂(株)、日本配合飼料 (株)、日本電気(株)、日本鋼管(株)、日本化薬(株)、日本ペイント(株)、日本ビクター(株)、日本ゼオン(株)、日本コロムビア(株)、日産自動 車(株)、藤沢薬品工業(株)、藤倉電線(株)、東洋情報システム(株)、東洋工業(株)、東洋レーヨン(株)、東洋ベアリング製造(株)、東京食品 (株)、東京芝浦電気(株)、田辺製薬(株)、帝人(株)、帝国人造絹糸(株)、長谷川香料(株)、蝶理(株)、朝日麦酒(株)、大日本塗料(株)、倉毛 紡績(株)、雪印乳業(株)、森永乳業(株)、森永製菓(株)三村、森永製菓(株)、新日本製鐵(株)、新電元工業(株)、松下電器産業(株)、松下通信 工業(株)、小川香料(株)、小西六写真工業(株)、鹿島建設(株)、山水電気(株)、三洋電機(株)、三共(株)、高砂香料工業(株)、協和醗酵工業 (株)、花王石鹸(株)、塩野香料(株)、塩野義製薬(株)解析センター、塩野義製薬(株)、旭化成工業(株)、レック(株)、ライオン歯磨(株)、ポー ラ化成工業(株)研究所、ポーラ化成工業(株)、ブリヂストンタイヤ(株)、パイオニア(株)、トヨタ自動車工業(株)、ダイハツ工業(株)、セーラー万 年筆(株)、ジョンソン(株)、サントリー(株)、サンスター歯磨(株)、クノール食品(株)、キューピー醸造(株)、キャノン(株)、キッコーマン醤油 (株)、キッコーマン(株)、エーザイ(株)、いすゞ自動車(株)、いすゞ自転車(株)、IFF日本(株)、(株)保谷硝子、(株)博報堂、(株)日立製 作所中央研究所、(株)電通、(株)竹中工務店、(株)第二精工舎、(株)全研、(株)小林コーセー、(株)資生堂横浜研究所、(株)資生堂、(株)桜町 工業所、(株)安川電機製作所、(株)リコー、(株)ユニパック総合研究所、(株)ヤクルト本社、(株)ダスキン、(株)ジスト(以上、91件ヒット)

どうですか?

予想以上に食品飲料以外の企業が多いことに驚くかもしれません。なかには「博報堂」などもあり「なぜ?」と思うかも知れません。

しかし、これらの企業が名前を連ねていることは全く不思議でもなく、逆に80社程度しか名前が出ていないことに違和感を感じます。

なぜか?

それは企業が扱う商品・サービスなどは人間が使うモノだからです。どんなに機器上のデータが良くても、モノの良し悪しを判断するのは人間です。人間が良いと思わなければ購買意欲に繋がっていきません。

商品やサービスを開発し、生産、販売するには人間の視点でモノづくりをしていかなければなりません。

そんな時、人間の感覚器を用いる官能評価の技術は大いに役立つでしょう。

また企業では多角化により新たな事業分野に進出することもあると思いますが、官能評価の適用範囲は広く、官能評価の知識・経験・ノウハウなどは将来にわたって活かせます。

官能評価とは縁が無いと思っている業界の方も、この奥深い世界へ入ってみてはいかがでしょうか。

今回は官能評価の適用業界を調べてみました。
ではまた!

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