しゃーない社内

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.30◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回のテーマは社内パネルです。

官能評価を実施するにあたってパネルを募集する一番手っ取り早いのが社員およびその家族(学校なら学内の生徒)だと思います。

今回は社内パネルのメリットデメリットと制度として導入する際のポイントをご紹介します。

まず、社内パネルのメリットデメリットについてです。
ここでパネルについてもう一度確認しておきましょう。パネルの種類は大きく2つに分類されます。

1.分析型パネル(専門パネル、?型パネル)
2.嗜好型パネル(一般パネル、?型パネル)

企業の社内パネルで一番多いのが、2つ目の嗜好型パネルです。
評価のねらいが、好きか嫌いか、売れるかどうかを知りたいということです。
そもそも嗜好型の官能評価は、標本調査の理論(サンプリング)の考え方を基本とすべきですが、如何せんコストがかかります。大手のマーケティングカンパニーならいざ知らず、中小企業ではなかなか市場調査にお金を出すのは難しいでしょう。
そこで、一般消費者を対象に調査を実施するよりも安いコストで行える社内パネルによる嗜好評価が行われているのが実情です。

ところが、社員および社員の家族が嗜好や購買意識について聞かれた場合にバイアスがかかることがあります。バイアスには自社商品を買わないと回答する訳に はいかないということもありますし、逆に自虐的に自社商品を低く評価するということもあります。どちらかというと規模の小さい企業では前者が、規模の大き い企業では後者が出やすいようです。これは回答の匿名性に起因するバイアスと考えられます。人数が多いと匿名性が確保される(と思う)のでネガティブな回答でも書くことができます。しかし、人数が少ないと誰が書いたか特定されてしまうのでネガティブな回答が書きにくいのではないでしょうか。

社内パネルのデメリットは「(嗜好評価における)バイアス」です。

一方、社内パネルにはそれを補って余りある大きなメリットがあります。
それが「特定分野の商品知識・経験」です。

この商品知識や経験が活きるのが分析型の官能評価です。
分析型の官能評価では評価物の特性を的確に識別したり、表現したりする能力が求められます。これらの能力は日常生活で身につくものではありません。
しかし社員は自社商品や周辺・類似商品を試す機会が多く、知識経験は申し分ありません。そもそも入社するくらいですからその分野に多少なりとも興味を持っており、興味のない人に比べて情報量が格段に多くなります。

社内パネルのメリットは「分析型パネル」として使うときに発揮されます。

つづいて、社内パネルを新たに構築する際のポイントを挙げます。

1.目的をはっきりさせる
2.パネル制度と企業文化は両輪(形骸化を防ぐ)
3.マネジメントは成果が出るまで時間がかかることを理解する(ただし、その成果は大きなものとなるでしょう)

第1のポイントは、前述のメリットを活かし、デメリットを抑制するために大切です。実際には社内パネルで嗜好評価も行うと思いますが、一度は一般消費者の結果と社内評価の結果を比較をしておくことが大切です。両者にどのくらいの乖離があるのかを知っておくことは、その後の社内評価の結果を見るときの参考になります。
ですが、お奨めは分析パネルとして管理・育成していくことです。

第2のポイントは、パネル制度と企業文化です。社内に評価員制度を設けたいというご相談をいただきますが、社内パネルが機能し始めるには企業文化として浸 透しなくてはなりません。なぜなら、社内パネルは業務を一時中断して評価に参加することもありますが、上司がその価値を認めていなければ参加しにくくなり ます。場合によっては評価参加者が「サボりやがって」と白い目で見られることもあります。成果をあげている企業では評価業務に理解があるため、評価への参 加率が高まり、精度のよい結果が得られます。よい商品が開発され、それに参加したパネルは尊敬の眼で見られます。これが良循環となって、さらに良いデータ、良い商品、良いパネルが生まれるのです。

しかしながら企業文化の浸透には時間がかかります。

そこで最後のポイントは、マネジメントレベルの方は成果が出るまで時間がかかることを理解することが必要となります。企業文化だけでなく、官能評価技術の向上、ノウハウの蓄積にも時間がかかります。

思い出してみてください。IT導入のときにも目に見える成果が出るまでに時間がかかりませんでしたか?

今回は社内パネルのメリット・デメリット、およびパネル構築にあたってのポイントをご紹介しました。

パネル選抜・訓練・管理にあたってはISO8586-1,2に詳しく記載されております。
弊社ではISOに基づいた制度の導入支援をしております。
お困りの際にはご相談ください。

今回はここまで。では、また!

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ふるぃそふと

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.29◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回は官能評価につかえるフリーソフトをご紹介します。
というのも、いざ「官能評価を導入しましょう」となっても担当者からソフトがないという声をしばしば聞くからです。

官能評価を実施するにあたって必要なソフトウェアをプロセスに添って見てみましょう。(紙の回答用紙を前提としてます)

1.評価設計…表計算ソフト
2.結果の入力/集計…表計算ソフト、データベースソフト
3.結果の分析…表計算ソフト、統計ソフト
4.結果の報告…表計算ソフト、プレゼンテーションソフト

評価設計のプロセスでは、実験計画を検討・設計する為に使います。シンプルな計画の場合は、乱数を用いて試料の提示順を検討します。その 際、エクセルなどの表計算ソフトなら乱数を発生させることが出来るので便利です。もちろん、専用のソフトウェアを使えばもっと合理的な計画を簡単に設計す ることもできますが、導入時のコストを抑えることを考えれば、表計算ソフトで十分です。あと、実験計画法に関する多少の知識があればまったく問題なしで す。

次に、結果の入力集計プロセスでは、データの入力と論理チェックをします。ランダムコードを付けている場合はデコードすること も必要でしょう。データの入力はメモ帳等でも出来ますが、デコード・論理チェックすることを考えると表計算ソフトが良いでしょう。また、データを蓄積する ことを考えるならばデータベースソフトへの入力を検討しても良いかもしれません。エクセルでは1シートで約65000行までしかデータを入れられませんか ら(それでも十分な量ですが)、何年にもわたってデータ蓄積を検討しているならば、入力はデータベースソフトを使った方が安心です。一般に官能評価のデー タ数はマーケティングデータに比べて少ないことを考えると、このプロセスも表計算ソフトで十分です。

3番目のプロセスは、結果の分析です。このプロセスこそ、多くの人が苦手とする統計処理をする段階です。同時にソフトウェアが 必要と考えられているプロセスです。ここでは基礎統計量の計算から多変量解析まで目的に応じて分析します。分析手法に応じて必要なソフトウェアは変わって 来ますが、表計算ソフトの関数を組み合わせることで十分対応できると考えています。プログラミングの知識と統計の知識がある方ならば、エクセルのマクロを 自分で組んでもいいでしょう。しかし、現時点で知識が乏しいならやめておいた方が無難です。出来上がるまでの時間を考えると気が遠くなります。もちろんや りたいと言うのを止めませんが…
つまり表計算ソフトを使えるのは基本的な分析までと考えておいた方が良いでしょう。やはり多変量解析を使いたい方は専用のソフトウェアを使うのが賢明です。

最後は結果の報告プロセスです。官能評価のやりっぱなしは資源の無駄遣いですし、担当者の努力をアピールする機会を失ったこと になります。やはり実施したならば報告書なりの形にし、上司(もしくはお客様)に報告すべきでしょう。ここでは文字とグラフ・図が描けるソフトウェアが必 要です。報告と言えばプレゼンテーションソフトです。パワーポイントなどですね。残念なことにプレゼンテーションソフトのグラフ機能は、表計算ソフトや統 計ソフト(グラフ機能付)に機能やカスタマイズの点で劣ります。一方、統計ソフトで報告書まで書くのは不便ですし、表計算ソフトはパソコンでの閲覧に限っ ては見難いでしょう。個々の特徴を生かして、プレゼンテーションソフトをベースに、統計ソフトや表計算ソフトでグラフや図を作成して貼り付けるのが良いで しょう。もちろんイラストレーターやフォトショップなどデザイン系のソフトを使ってかっこよく仕上げるのも報告書の価値を高める方法として良いですね。し かし、「官能評価を導入する」上で必要最小限のソフトウェア環境はプレゼンテーションソフトと表計算ソフト・統計ソフトです。

さて、各プロセスで必要な作業とソフトウェアの種類を説明しましたが、多くの場合は次の3種類の市販ソフトで行っています。

1.表計算ソフト⇒エクセル
2.統計ソフト⇒SPSS/JMP/エクセルアドイン
3.プレゼンテーションソフト⇒パワーポイント

では、上記と同じ環境をフリーソフトで実現するお奨めソフトが次の3つです。

1.表計算ソフト⇒OpenOffice Calc
2.統計ソフト⇒R
3.プレゼンテーションソフト⇒OpenOffice Impress

もちろんフリーソフトは海外も含めたくさんあります。しかし、情報アクセスの容易さや書籍等の学習環境を考えれば上記のソフトがお奨めと言えます。

弊社では官能評価を導入するお客様の状況や目的に合わせて投資を低く押さえる提案をしております。
通常マイクロソフトオフィスはインストールされている場合が多いのでエクセルとパワーポイントだけで開始します。

次にどうしても多変量解析も行いたいと言う場合に限って、まずは市販のソフトウェアをお奨めし、資金面で折り合いがつかなければRを導入してます。

Rは無料なのに豊富なパッケージがそろっており、書籍やWEB上の情報も充実しています。サポートやバージョンアップのことを考えると市販ソフトがよいのですが、高いのが難点です。
Rをお奨めするもう一つの理由は市販のS-PLUSなどS言語への移行がしやすいと言う点です。S-PLUSは官能評価のみならずさまざまな調査・分析を進めるにあたって強力なソフトウェアです。

最後に便利なマクロソフト(自動化ソフト)をご紹介します。
定型的な評価が多い場合は、分析手順もルーティンとなってきます。エクセルなどオフィス製品にもマクロという自動化できる機能がありますが、アプ リケーション間の制御が出来ません(少なくとも私の知識では)。そこで簡単に複数のアプリケーションでも自動化できるソフトをご紹介します。UWSCというフリーウェアのマクロソフトです。
書籍も出ているので学習環境は良いとおもいます。。

最後に、官能評価を業務に取り入れていく上で複雑な統計処理が出来るソフトウェアは必須という訳ではありません。複雑な統計分析は結果の読み取りを難しくします。
笑い話ではありませんが、各データにつけた『No.』を統計ソフトにぶち込んで、出力された平均値を見て「これは何を意味しているのか」と聞かれたことがあります。どこから説明しようか悩みましたが(笑)
統計ソフトは分析手法の適・不適を判断するまでにいたっておりません。数値があればとりあえず計算できてしまいますので結果が出力されます。しかし、その結果を読み取れなければただの数字の羅列に過ぎません。

ソフトウェアよりも実施計画やオペレーション、パネルマネジメントに資源を配分することをお勧めします。

今回は官能評価を導入するに当たり、まずプロセスごとに最低必要なソフトウェアをご紹介しました。次に一般的な市販ソフトとお勧めするフリーソフトをご紹介しました。

紹介ソフト一覧
1.表計算ソフト⇒OpenOffice Calc
2.統計ソフト⇒R
3.プレゼンテーションソフト⇒OpenOffice Impress
4.マクロソフト⇒UWSC

基本的に弊社の官能評価導入サービスはこれらの流れに沿っています。詳しくは弊社までお問い合わせください。

今回はここまで。では、また!

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イッツイがアッツイ

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.28◆◇◆◇◆◇◆
官能評価でしばしば用いられるシェッフェの一対比較法にはいくつかのバリエーションがあります。オリジナル(原法とよぶ)と、3つのバリエーション(変法とよぶ)の4つがあります。

【シェッフェのバリエーション】
1.シェッフェの原法(順序考慮する、パネル考慮しない)
2.芳賀の変法(順序考慮しない、パネル考慮しない)
3.中屋の変法(順序考慮しない、パネル考慮する)
4.浦の変法(順序考慮する、パネル考慮する)

バリエーションの違いは、順序効果やパネルの能力を考慮するかどうかです。気をつけなければいけないのが、「考慮しない」となっていても「効果がない」というわけではないので、あらかじめ順序効果があるとわかっている場合は、順序を考慮する(1)や(4)の手法を選択する必要があります。

さて、シェッフェの一対比較法では想定しているモデルというものがあります。数学モデルというと面倒くさいので飛ばしてしまいがちですが、考え方を理解する上で非常に役立ちますので飛ばさずよんでみてください。

今回はもっともシンプルな芳賀の変法を例に考えて見ましょう。芳賀の変法は順番による効果やパネルの能力を考慮しない場合です。
回答者は1対の試料(つまり2つの試料)を比較したときの評点を回答します。この回答を手始めにモデルの説明をして見ましょう。

試料Aと試料Bを一対による比較評価します。
A→Bの順で評価します。順番による変化を考慮していないのでB→Aという順番での評価はしません。ここで回答するのはBに対する「Aの評価」であることに注意してください。一般的な評価方法では次のような評点を付与します。

「A」は「B」に比べて○○・・・+2点
「A」は「B」に比べて少し○○・・・+1点
「A」は「B」と同じくらい・・・+0点
「A」は「B」に比べて少し××・・・-1点
「A」は「B」に比べて××・・・-2点
※一般に○○と××は対になった評価用語を入れる。対になっていないと尺度が一次元(直線上に)にプロットできないことがある。
(例)固い⇔やわらかい、 長い⇔短い

さて、この評価を実施して次のような結果が得られたとしましょう。

X=評点

この数値は次のように分解できます。

X=AのBに対する値(α)+誤差(ε)

いま、一番知りたいのはα:AのBに対する値です。もちろんこのままでもいいのですが、一般的には分散分析によって検定を行います。その際、誤差に対してαの不偏分散が大きいと値が有意でないものと判断されてしまいます。

そこで、αをさらに切り分けます。というのはこの値(α)には組合せ効果(γ)も含まれているからです。組合せ効果を切り分けたのが次の式です。

X=AのBに対する値(α’)+組合せ効果(γ)+誤差(ε)

これが「芳賀の変法」のモデル式です。正しくは次のように表記します。

芳賀の変法のモデル式

上式は、試料Aの試料Bに対する評価をしたl人目の評点χを表します。
官能検査ハンドブックなど専門書では試料を次のように記載しています。
試料A→「Ai」…先に評価する試料。
試料B→「Aj」…後に評価する試料。

最後にもう一度、なぜ値の切り分けをするのか考えて見ましょう。

これは検定の誤りに対処するためです。検定の誤りには2つのタイプがあります。

1.第1種の過誤(type ? error, error of the first kind)
2.第2種の過誤(type ? error, error of the second kind)

第1種は関係が無いのに関係があると判断してしまうことです。(=本当は有意では無いのに有意と判断)
第2種は関係があるのに関係が無いと判断してしまうことです。(=本当は有意なのに有意では無いと判断)

官能評価の場合、有意な結果を得たいと考える状況が多いと思います(品質管理としての官能検査の場合はこの限りではありません)。また、社内で実施する場 合は人員を確保するのが難しくデータ数nが少ないことが多いでしょう。n数が少ないと有意と出にくい傾向があります。しかし、せっかくの評価の結果ですか ら得られたデータは十分に活用したいと思うのが担当者の心情では無いでしょうか。

もし値の切り分けをしなかった場合、本当は有意なのに「有意で無い」と判断される第2種の過誤が起こり得ます。もったいないですよね。でも、値の切り分けをして本当の主効果だけで検定ができれば「有意である」と判断されるかもしれません。
つまり、値の切り分けによって検定の誤りが抑えられ、情報を十分に活かした正しい結果が得られます。

この後は個々の対象間の検定に入っていきます。対象間の検定では多重比較や最小有意差(l.s.d)によるものなどがあります。

再び、セミナー告知です。

弊社では「官能評価入門セミナー」を開催いたします。
テーマは「一対比較法」です。一対比較法のなかで代表的なサーストン法と今回説明したシェッフェ法を詳しく解説いたします。また、検出力やサンプル数の考え方など初級者から上級者まで満足できる内容となっております。
セミナーの翌日から一対比較法を実施できるスキルを身につけられます。

ぜひ、ご参加ください。セミナー情報はこちらです。

さて、今回は「シェッフェの一対比較法」というテーマで4つのバリエーションと、バリエーションのひとつである「芳賀の変法」のモデル式の意味、そして検定の誤りについて解説いたしました。

今回はここまで。では、また!

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独り善がりと見比べる

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.27◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回のテーマは「比較評価と独立評価」です。

官能評価には、評価する際の基準が2つあります。それが「比較評価(相対評価);Comparative assessment」と「独立評価(絶対評価); Independent assessment」です。

ここで「JISZ8144官能評価分析-用語」から用語の定義を引用してみましょう。

比較評価とは、「目の前の試料と試料との直接的な比較によって、評価者がそれらの関係を判定する方法である。試料間の差異が評価されることになり、同じ評価者の能力であっても独立評価よりも試料間の微細な差を識別できる。

独立評価とは、「比較の試料又はコントロールを置かずに評価する方法である。この場合の判断の基準は、過去の経験の積み重ねによって 記憶の中に形成された評価者の内的基準である。この基準との比較判断がこの評価方式であり、経験の積み重ねがない試料に対しては(評価が)困難となること が多い。」
※カッコ内は筆者加筆

比較評価は試料試料の直接的な評価により、独立評価は評価者個人の内的基準試料の 評価によるということです。つまり、どちらも比較なのですが比較対象が異なるといえます。独立評価の比較対照である内的基準は、個々人の経験によって異な りますし、一個人でも変動することがあります。これに対し、試料と試料を比較する比較評価では、個々人の経験に依存することなく評価することが出来ます。

これらの2基準には各々特長があります。

まず、独立評価の特長をあげてみましょう。
1.(比較評価に比べ)多くのサンプルを評価できる
2.(比較評価に比べ)多くの属性を評価できる
3.数量データが得られる※
※手続きや手法によってはカテゴリカルデータとして扱うのが適当な場合があります。

つまり、独立評価はセッション1回あたりの情報量が多いといえます。

では、一方の比較評価はどうでしょうか。
1.(同じ能力者ならば)独立評価より試料間の微細な差を識別できる
2.(手法によっては)数量データが得られる
3.再現性が良い

一般に、比較評価は情報の質が高いといえるでしょう。

両者を比較した上で、私は「比較評価」の採用をおすすめします。
理由は次の3つです。

1.再現性がよい(情報の質が高い)
2.初期投資の低さ
3.長期的なデータ資産の価値

まず、第1の再現性の良さは、情報として必須だと思います。無論、独立評価でも再現性を確保することは可能ですが、コストの面からお奨めしません。

第2のメリットは初期投資の低さです。独立評価をきちんと実施しようとするとパネルの選抜・訓練・管理、評価用語・尺度の構築など実用に耐えられるようになるまでに投資が必要です。そこで明日からでも使えるデータを取れる比較評価は、初期投資を抑えられるのです。

最後のメリットは、データ資産としての価値が高いことです。得られたデータは将来にわたって生かすことが可能です。また、独立 評価は尺度を作ってから実施するのですが、比較評価のいくつかの方法(サーストンの一対比較法など)は、それ自体が尺度を作るプロセスです。つまり、比較 評価のデータ資産はそのまま独立評価に移行しても活用できるといえます。

以上のメリットから「比較評価」をお奨めします。

いざ、比較評価といってもいくつか手法があります。代表的な手法を見てみましょう。
1.識別試験法(2点試験法など)
2.順位法
3.一対比較法

以上のような手法がありますが実施目的によって適否があります。一般には大きく2つの目的に分けられるでしょう。
1.サンプルの識別
2.サンプルの記述

さて、この二つの目的を満たし、かつ、簡単で質の良いデータを得られる方法はあるのでしょうか?

あります。それが「一対比較による官能評価」です。

例えば、
識別試験として、「2点試験法」
パネル能力の試験として、「2点試験法」or「一対比較法」
商品の特性記述として「一対比較法」
官能属性と分析機器の相関「一対比較法によって得られた数量データ」+「機器データ」
マーケティング分析「多変量解析手法と一対比較によってえられた数量データ」
などなどが出来るようになります。

なお、順位法は扱えるサンプルが一対比較法に比べて多いのが特徴ですが、扱える属性が少ないという問題があります。マーケティングへの応用を念頭において一対比較のほうが有効と判断しました。

特にサーストン法による一対比較法は、AかBかを選ぶ「2点試験法」と同じ方法を繰り返すだけで数量データが得られる優れた手法です。結果だけな らエクセルだけで十分です。また、どちらかを指し示すだけでよいので子供でも実施できます。チャイルドマーケティングにはもってこいの手法です。

最後に、どの手法でも実施上の制約や前提条件があります。ご多分に漏れず一対比較法でも前提条件がありますので注意が必要です。

さて、セミナーの告知です。

弊社では「官能評価入門セミナー」を開催いたします。
今回のテーマは「一対比較法」です。一対比較法のなかで代表的なサーストン法とシェッフェ法を詳しく解説いたします。おまけで一対比較によるコンジョイント分析も紹介します。初心者から上級者まで満足いただける内容です。
セミナーの翌日から一対比較法を実施できるスキルを身につけられます。

ぜひ、ご参加ください。セミナー情報はこちらです。(リンク切)

さて、今回は「比較評価と独立評価」というテーマで比較評価をメリットをお伝えしました。そして比較評価の代表的手法「一対比較法」についても言及いたしました。古い手法だといわれますが、よいものはよいのです。

今回はここまで。では、また!

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ラインスケート用の道具(誤)

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.26◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回のテーマは「簡易デジタイザー」です。

最近お問い合わせいただく官能評価にはラインスケールを用いたものが増えてきています。よく見かけるQDA法はラインスケールを用いています。ASTM規 格のQDA用ラインスケールならば150mmラインを、測り方によっては0.1mm単位で数値化できますので多変量解析など多様な分析が出来るのが魅力で す。

そんな中、みなさんはラインスケールのデータエントリーはどのように行ってますか?
紙媒体で解答してもらった場合はそこから定規を当てて読み取ることもあるでしょうし、余裕のある企業ですとデジタイザーなどを利用しているかもしれません。

今回は手計測・手入力を行っている方に「簡易デジタイザー」をご紹介します。

必要なのは次の物だけです。

1.パソコン(エクセルインストール済み)
2.スキャナー(注:ADF付だとさらに便利です)
3.画像計測ソフト(例 フリーウェア「!0_0! Excel 長さ・面積測定 Free Ver 2.00」など)

おそらく企業の方でしたらパソコンとスキャナーはそろっているでしょう。これにフリーウェアの画像計測ソフトを組み合わせれば準備完了です。基本的には新たな投資はゼロだと思います。

基本的な流れは次のとおりです。
1.解答用紙をスキャナーで読み込み、画像化する。
2.画像計測ソフトを立ち上げ、画像を読み込む。
3.基準長さを設定し、解答チェックまでを計測。
4.表示された長さを別の集計シートにコピー。

これだけです。

もし、長さの信頼性を確認したければ数箇所を定規等で実測し、ソフトウェアの算出した数値と比較してみてください。誤差が大きい場合は実測値と算出値の比を係数t(t=実測値÷算出値)として算出値を補正してください。

ラインスケールの計測回数は「サンプル数×パネル数×評価項目(=評価用語)×繰返しの数」だけ計測しなければなりません。3品目を3人のパネル で30項目を1回だけ評価した場合でも270ラインを計測することになります。とてもじゃありませんが定規で測っていたのでは手間がかかりますし、読み間 違いも起こりやすくなります。

ラインスケールを多用するようでしたらタブレット型のデジタイザーを購入したほうがよいでしょうが、専用デジタイザーとなると10万円以上します。それを考えると(ほぼ)投資ゼロで導入できる今回の「簡易デジタイザー」はお奨めです。

今回はここまで。それでは、また!

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味覚検査は見えるか?

◆◇◆◇◆◇◆官能評価TT通信No.25◆◇◆◇◆◇◆

さて、今回のテーマは「味覚検査」です。

分析型の官能評価を実施する前には必ずといっていい程、そのパネルの能力を評価してから本番の官能評価に入ります。食品・飲料関係ならば、それが「味覚検査」になります。

一方で嗜好型の官能評価では事前の検査を実施しているところは少ないようです。特にリサーチ会社の消費者モニターはいきなり商品を評価するというのが少なくありません。
嗜好型評価の場合、パネルの味覚の良し悪しも含めて「好き・嫌い」を調査しますので、パネルの味覚はあまり重要視されておりません。

しかし今回はあえて、
「嗜好型評価でも事前の味覚検査を実施すべし!」
と、声を大にして述べたいと思います。

弊社では官能評価に参加するパネルは分析型・嗜好型に関係なく、全員弊社の味覚検査を受けていただいています。同時にマーケティングデータを取ることもあります。

そこからわかってきたことは、「ある味覚特性をもった人間には嗜好に特徴がある」ようなのです。まだ、充分なデータがそろっていないので更に検証を進める必要はありますが、どうやらブランドなどを隠した状態、つまり「味」だけの嗜好には本人の「味覚特性」が影響していそうなのです。

一方で、パネルはトレーニングによって味の識別能力が向上します。では、味覚がよくなったり悪くなったりしたらその人の嗜好も変わるのか?

残念ながらわかりません。

今後の研究課題ではありますが現実を見てみると、わずかな違いを識別する凄腕の料理人が、子供の頃に食べたカツ丼が未だに大好きということがあります。ま た、訓練されたパネルと訓練されていないパネルでは嗜好評価には同様の傾向を見出すことが出来ます。これが社内の分析型パネルを使って、嗜好型評価を行な う正当性を裏付けているデータです。(以前紹介した古川秀子著「おいしさを測る」にも書いてあります)

どうやら人の嗜好は「味覚の良し悪し」には関係ないようです。
しかし、「味覚の特性」はそうでは無さそうなのです。

弊社では「味覚特性」を把握するためにいくつかの手法を用いていますが、弊社で販売している「TT式味覚検査」でもそのいくつかが盛り込まれています。

例えば今回発売したキットにも含まれていますが「5味の識別錯誤傾向」です。
これは五味の識別検査で誤った回答をした場合、「何と何をまちがったのか」を表記しています。これによって「苦味を酸味と間違える人」とそうでな い人に違いがあるのかが容易に分析できます。これに各パネルのマーケティングデータを融合することで、嗜好と味覚特性の関連性を見ることが出来ます。

この切り口を用いて弊社パネルで実施した調査では、いくつかの組み合わせで差異を見出すことが出来ました。

これらの研究が進んで、「ある味覚特性を持った人」には「こんな商品がお奨め」などということが出来るかもしれません。

但し、消費者の購買行動には味だけではなく、ブランドやデザイン、マーケティングによるところが少なくありません。しかし、味とマーケティングを分離することで、より定量的なマーケティング活動が出来ると考えています。

例えば「新商品の販売不振がなぜ起こったのか?」という場合を考えてみましょう。

これまでで言えば、商品開発部門と営業・マーケティング部門が責任を擦り付け合っていました。商品開発側は「味はいいのに、売り方が悪かったのだ」と言い、営業サイドは「あんなにプロモーションしたのに売れないのは、味が悪いからだ」と。
味とマーケティングを分離するとは、単純に言えば銘柄を隠して購買意欲を測り、銘柄を明かして購買意欲を測ったその差が「味以外の購買動機要因(マーケティング要因)」ということになります。

このように官能評価をしっかりと導入していくことで、これらの原因を明確に把握し、次の商品に生かせるようになります。

近年、様々な方面で数値化が進んでいます。英語や入学試験のほかにも転職偏差値や恋愛偏差値などお目見えしております。「味の偏差値」にも拍車がかかる2006年になるのではないでしょうか。

それでは、また!

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効果まんTEN

■□■□■□■官能評価TT通信No.24■□■□■□■

さて、今回のテーマは「10の効果」です。

実験計画や、試料の提示を検討する上でいくつか考慮すべきことがあります。官能評価ならではのポイントです。取り除ける影響はできる限り取り除いて、正確なデータを取るように務めたいものです。

今回は心理的効果・生理的効果にはどのようなものがあるかをご紹介します。中・上級者には退屈かもしれませんが、概要のみにとどめたいと思います。

データに影響を及ぼす効果には生理的なものや心理的なものがあります。今回は主な10個の効果を紹介します。

1.記号効果・・・試料の性質に関係なく、記号に対する嗜好によって判断を決定する傾向
2.順序効果・・・複数の刺激を評価する際に、後の刺激を過大もしくは過少に評価する傾向
3.位置効果・・・試料の性質に関係なく、試料の置かれた位置によって選ばれる傾向
4.練習効果・・・練習によって評価者の判断が変化すること
5.避連続性/避対称性(弊社造語)・・・試料の性質に関係なく、判断が連続性や対象性をもつことを避ける傾向
6.期待効果・・・評価者が何らかの先入観が判断に影響を及ぼすこと
7.順応・・・評価者の刺激に対する感受性が無意識に調整されること
8.対比効果・・・複数の刺激を評価する際に、一つの刺激が他の刺激の反対の性質を強める傾向
9.疲労・・・刺激に対する感受性が継続的負荷によって低下すること
10.連想/共感覚・・・一つの感覚刺激(色、音、香りなど)が刺激となって他の感覚刺激が生ずること

以上ですが、主な効果について簡単に事例を含めて説明します。

記号効果とは、試料の性質に関係なく、記号に対する嗜好によって判断を決定する傾向です。例えば3つの試料に「1」「2」「3」と番号を 振ったときに試料の違いに関わらず「『3』が好きだから『3』を選ぶ」という傾向です。国内外で様々な検証がなされており、ISOが試料の記号に推奨する 『3桁ランダムコード』はその対策といえます。3桁の場合でも、「184」(いやよ)などの意味が取れるコードや、「117」(時報の電話番号)など特定 の意味を持つコードは避けたほうが良いでしょう。

順序効果とは、複数の刺激を評価する際に、後の刺激を過大もしくは過少に評価する傾向です。対比効果に似ていますが、対比効果は同時比較を 含んでいるのに対し、順序効果は時間的な順序をもった効果を指します。対策には評価の間にリンス(Rinse)すること(「水で口ゆすぎ」をしたり「無塩 クラッカー」を食べる)や、実験を評価の順番が均一になるように計画するなどがあります。

位置効果とは、試料の性質に関係なく、試料の置かれた位置によって選ばれる傾向です。3点試験法ならば、3試料を直線上に並べてしまうと真中の試料が品質に関係なく選ばれてしまうことが報告されています。対策には実験方法で行なう方法や評価者に訓練を施すのが良いでしょう。

練習効果とは、練習によって評価者の判断が変化すること。トレーニング期間ならばありがたい効果ですが、評価セッションの間に判断に変化が 生じるのは好ましくありません。トレーニングをして判断が安定したところで一気に評価を終えてしまうのが良いと思います。テスト前に練習試料を与える方法 がありますが、疲労(後述)が高まるので可能な限り本当に評価したい物以外は評価したくないので実験計画で対処することが多いです。

避連続性/避対称性とは弊社の造語ですが、試料の性質に関係なく、判断が連続性や対象性をもつことを避ける傾向です。例えば評点法で1が続いたり、2点試験法で右左右左のように一定のパターンが見られたとき、それを避けようとするなど。教示方法や実験計画によって対策します。

期待効果とは、評価者が何らかの先入観が判断に影響を及ぼすことです。テスト前に品質や特性に影響を及ぼすと思われる情報が得られた場合、 判断が無意識にその期待にこたえてしまうことがあります。価格や製造方法などがわかっていると「高いものは良い」「特許製法だから良いはず」などに影響を 受けることがあります。マーケティング手段としては有効ですが、官能評価的には影響を排除すべきです。

順応とは、評価者の刺激に対する感受性が無意識に調整されることです。わかりやすいところでは、暗いところから明るいところに出たとき、最 初はまぶしいが徐々に調整されて見やすくなる明順応がああります。刺激が強いほど、味覚ならば濃度が大きいほど順応がおきやすくなります。また、感覚の中 で嗅覚が最も順応が起こりやすいといわれています。たしかに、臭いのある部屋に入ったときは気になるのに、すぐに気にならなくなるのも順応のためですね。
芳香剤のあり方として、臭いを消すのも一つのアプローチですが、順応の時間を限りなくゼロにできれば臭いを感じさせないという目的を達成できるかも・・・(余談です)

対比効果とは、複数の刺激を評価する際に、一つの刺激が他の刺激の反対の性質を強める傾向のことです。同時に刺激を与える場合を同時的対比、時間的前後関係がある場合は継時的対比といいます。
順序効果は継時的対比の一種だと考えていますが、厳密な違いについては私の不勉強のため分かりません。分類上の問題だと思うので、実務上は同じものとして対策しています。

疲労とは、刺激に対する感受性が継続的負荷によって低下することです。疲労には精神疲労と身体疲労があり、表出する事象は様々です。弊社で はモチベーション低下は精神疲労の一種として検討しています。個人的には、身体疲労の測定の方が比較的容易で、精神疲労の測定はまだまだ未知の領域だと考 えています。

最後は連想/共感覚について。これは一つの感覚刺激(色、音、香りなど)が刺激となって他の感覚刺激が生ずることです。匂い(嗅覚)をかいでイメージ(視覚)が浮かんだり、音(聴覚)を聞いて色(視覚)をイメージするなどがあります。
応用例として音感トレーニングでは音名と色をリンクさせて覚える方法があります。食品の例では、白みがかったコーヒーと黒いコーヒーでは、黒い コーヒーを見た瞬間に「ブラック、苦そうだな」と想起させてしまったり、白みがかったコーヒーを見て「ミルク感があって甘そう」と考えてしまうことで判断 に影響が出てしまうことがあります。対策として、色付きライトによるマスキングするのが良いでしょう。

今回は項目を羅列した感がありますが、とりあえず頭に入れておくだけでも良いと思います。多くの効果は、実験計画で対策できることが多いです。ま た、いくつかの効果は互いにトレードオフの関係になっていますから、事例ごとに目的や制約条件の中で個別に判断していくのがよいでしょう。

今回は「10の効果」というテーマで心理的効果・生理的効果の代表的なもの10個をご紹介いたしました。

それでは、また!

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基礎が大事って言うけど・・・

■□■□■□■官能評価TT通信No.23■□■□■□■

今回のテーマは「基礎解析」です。

「基礎解析」といっても数学の科目ではありません。

官能評価に限らずあらゆるリサーチなどは解析し、何らかの知見を得るためにデータを取ります。ところが苦労して取ったデータも解析如何で間違った結論が導 かれてしまうことがあります。データの取りっぱなしは資源のムダですが、間違った結論は大きな損失を生み出すことがあります。調査の結果を信じて新しい製 造ラインを造って新商品の発売をしたのに、まるっきり売れないとなったら、まだデータの取りっぱなしの方がましです。

そんなことにならないよう、解析の基礎的なところを押さえておくことが大切です。

ここで解析全てについて語ることは出来ないので、今回は解析を始めるにあたってのポイントを述べたいと思います。もちろん調査の狙いや方法によって様々なバリエーションがありますが、一般論としてお読みください。

大原則は「『単純』から『複雑』へ」です。

解析の原則はシンプルな解析から始めることです。具体的には1つの変数について基礎統計量を分析するところから始めます。以前データの種類にはい くつかあるとお話しましたが、今回は2つに分けて説明します。1つは数量データ、もう1つはカテゴリデータです。まず、得られたデータが数量データなら3 つの数値を把握しましょう。

1.平均値(Mean)
2.中央値(Median)
3.最頻値(Mode)

ご覧の通り英語にすると頭にMがつくので私たちは「3M」と呼んでいます。「スリーエム」だとポストイットの方を思い浮かべてしまうので、「さんえむ」と読んでます。解析担当者からレポートがあがってきたとき、
「この項目の3Mはどうだった?」
なんて使い方をしています。

この3つ数値は特色や特徴を大雑把につかむのに適しています。我々がよく目にする例は、クラスの男女の身長を比較する時なんか「平均」を使 いますね。平均といっても計算方法によって算術平均や幾何平均、調和平均があります。我々が一般に言う「平均」は算術平均といって、全部足して、データの 数で割ったものです。他の平均については、統計入門の本には書いてあると思いますので、算出方法や特徴などを調べてみてください。

この他、中央値最頻値も見逃せない数値です。中央値はデータを大きさの順番に並べた時、真中に来る数値です。 偶数の時は真中2つの平均値をつかいます。最頻値はもっとも多い数値です。例えば、5カテゴリスケールで評価をしたら (1,1,2,2,3,4,4,4,4,4,5)だったとしましょう。4が最も多いので最頻値は「4」になります。

以前、EDA(探索的データ解析法)でお話しましたが、探索的に解析を進める場合は中央値が有効です。パネルにばらつきがあるときなど平均値を使うと大きく数字を振ったパネルの影響を強く受けてしまいますが、中央値だと影響が小さくなります。

さて、データの特色をつかむ方法がもう一つあります。皆さんもよく使っていると思います。先の3つ数値(3M)は「数量データ」にしか使えませんが、この方法はカテゴリデータにもつかえます。というか、カテゴリデータはこの方法しかありません。

それは「比率」です。「パーセント(%)」ともいいますね。

パーセントの計算は説明するまでも無いでしょう。これによってデータの大雑把な特徴をつかむことが出来ます。

このような数値でデータの大雑把な特徴をつかんだら、もうちょっとミクロの視点でデータを見てみましょう。つまり、「ばらつき」です。仮に平均が同じでも(5,5,5)と(4,5,6)では内容が違います。

このバラツキを表わす数値には標準偏差や変動係数などいろいろなものがあります。
が、ここでは「ヒストグラム」だけを取り上げます。

何はともあれ「ヒストグラム」を作りましょう。そして「眺め」ましょう。

なぜ「眺め」るのか?

実はこの後の解析を進めるときに「何か変だな」と気がつくための準備なのです。

例えば、正規性を前提とした分析を行なう際にデータが正規分布しているかどうかを確認します。機械的に「正規性の検定」をすることは出来ますが、 それだけで良い分析になる訳ではありません。ヒストグラムを見て、パラメトリック分析でやるのかノンパラメトリック分析でやるのか、検定の結果を参考にす ることは出来ますが最後に決めるのは人間にしか出来ません。

統計ソフトはボタン一つでずらーーーっと計算結果が出てきます。何らかのミスでデータが書き換えられてしまっても気が付かないことがあります。以 前、未熟な私は手で遊んでいたボールペンの先でキーボードを押してしまって、データに無駄な数字が加わったのに気が付かずに分析したことがあります。これ に気がついたのは、1変数での基礎統計量とヒストグラムの傾向がイメージに残っており、分析の結論に違和感を感じたからでした。

基礎分析は後々まで大きな影響をもってきます。そして後の分析手法の選択の鍵を握っています。

結果知りたさに、この基礎分析をないがしろにしてしまう場面に遭遇します。私も他人のことは言えず「とりあえずピーシーエー!」など、ついやってしまいます。
※ピーシーエー・・・Principal Component analysisの略でPCAと表記する。主成分分析のこと。

しかし、基礎分析はデータを有効活用するために、そして分析の無駄を省くために必要です。

最後に原則をもう一度。

「『単純』から『複雑』へ」

単純に1変量で分析を始め、
もうちょっと複雑になって2変量、
さらに複雑に多変量。

というようにシンプルな解析を積み重ねていけば多変量解析などの複雑な解析でも恐れることはありません。場合によっては知りたいことはシンプルな解析だけでわかってしまうこともあります。

恐いのは「ブラックボックスに踊らされること」です。

今回は解析始まり「基礎解析」のポイントを述べました。

では、また!

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センサリーの4S

■□■□■□■官能評価TT通信No.22■□■□■□■

さて、今回のテーマは「4S」です。

官能評価では様々な要因が絡み合っていて、全部の要因に注意を払っていては前に進みません。そこで重要なポイントだけを押さえて実施していくことも実務者としては必要です。弊社では官能評価を実施する上で重要となるポイントの頭文字をとって、『センサリーの4S』と呼んでいます。

『センサリーの4S』
1.Subjects(パネル)
2.Scale(モノサシ)
3.Sample(試料)
4.Situation(場所・状況)

注記:現在では2つ目をScaleではなく、ScoreCardとしています。

第1に、Subjects(パネル)です。これはブログでも何回か書いていますが、パネルの能力如何で評価の結果が大きく変 わってしまいます。本来、評価設計の順番としては「知りたいこと」を知るための評価を企画し、その評価に必要なパネルをリクルートしてくるのが適当だと思 います。しかし、現実には社内のパネル使用が前提ということが少なくありません。そのため、利用できるパネルの能力や人数が決まることで他の項目を検討し ていくというのが実践的です。

第2に、Scale(モノサシ)です。普通、定規(モノサシ)は誰でも対象物を測ることができます。ところが官能評価のモノサ シは使う人(パネル)によって使えたり、使えなかったりします。官能評価では、相対評価と独立評価(絶対評価)がありますが、相対評価はおおむね誰でも使 えます。しかし、独立評価(絶対評価)はパネルの評価能力がないと使えません。パネルの能力に合わせた評価尺度(モノサシ)を使うことが大切です。

第3に、Sample(試料)です。官能評価では統制困難な要因が多くあります。その中でも試料の影響が大きいですから可能な 限り統制したいものです。但し、現実的には非常に困難が伴います。人工的に調製できる場合は良いのですが、海産物・農産物など官能評価実施者の思い通りの 試料を集めることが出来ないことがあります。これ以外でも社内的事情から、有り合わせの試料で評価をすることもあるでしょう。しかし、せっかく手間をかけ てデータを取るのですからエネルギーを注いで試料を準備するようにします。

第4に、Situation(場所・状況)です。官能評価を「どこで」「どんな状況で」行なうのかは、評価目的(知りたいこ と)で決まります。一般的に2つの状況が考えられます。1つは、実施者側が場所を提供する場合。もう1つは評価者側で確保する場合です。前者は評価室や会 議室で実施するような場合です。要因とする属性を絞込み、環境などの要因を統制することが出来ます。後者は自宅に持ち帰って評価してもらうような場合で す。あまり属性は絞り込まず、各要因の統制よりも実際の使用環境を再現することに重きをおいた設計です。どちらの場合でも大切なのは「その場所で評価を実施することで、知りたいことを知ることができるのか」を問うことです。

以上の4つのポイントを押さえれば、全くおかしな評価にはならないはずです。また、この順番も重要な順に並べていますので順にチェックしていくことをお奨めします。

当たり前のことしか並んでいませんが、当たり前のことをするのが難しいのも事実です。

弊社では、官能評価の経験が少ない方に対しては、常にこの『センサリーの4S』を念頭において評価の実施をするように言いま す。この手の頭文字(例えばQCの『5S』、マーケティングの『4P』など)はありふれていますが、非常に便利なツールだと思います。一度覚えたら忘れな い程度の簡単なチェックリストで、情報の抜け漏れを防いでくれます。私も『センサリーの4S』は未だに使っていますし、報告書を書くときは『5W2H』に気をつけています。

皆さんも手軽に官能評価のクオリティーチェック、してみませんか。
今回は『センサリーの4S』でした。
ではまた!

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虎のANA

■□■□■□■官能評価TT通信No.21■□■□■□■

さて、今回のテーマは「パネル訓練環境」です。

このブログでもパネルの重要性は述べてまいりました。特にその中でも分析型パネルは訓練が欠かせません。しかし、専従パネリストを持つ企業は一握りの企業だけです。中小企業や小規模で官能評価を行なっている担当者はどのようにパネルを訓練していけばよいのでしょうか。

目的や精度に応じて様々な状況が考えられますので、一般論として訓練のためにどのような環境を提供していったらよいのかを考えてみたいと思います。

専従ではないパネリストの場合、評価会の実施は基本的に彼らの意欲に支えられています。そこで彼らの意欲を高めつつ、能力も高めていく環境や方法が必要です。そこで私たちが考える「分析パネルの能力を引き出す条件」は次の3つです。

1.能力を客観的に評価する
2.能力を向上させる環境を提供する
3.嗜好性や感情に関わることを評価しない

まず、第1の「客観的能力評価」はいうまでもありません。基準を決め、誰もが納得いく判断・評価をするというものです。味覚や嗅覚などの感覚は絶えず変化 しており、様々な要因に影響を受けます。パネリストの社内選抜において1度きりの検査で落とされた方が「あの時は調子が悪かった」と泣きついて参加を希望 されたとしても、これは断るべきでしょう。もし、これでその人が採用され、同様の状況で落ちた人がいたら担当者の印象も悪くなりますし、選抜検査自体の信 憑性も疑われてしまいます。選抜に限らず、能力の評価は可能な限り数値などで客観的に提示することが重要です。

弊社では、定性評価の客観性を補完するため、表現した全てをテキストデータ化し、テキストマイニングによって客観性を高めております。

第2の「環境の提供」については官能評価担当者だけでは出来ない問題があります。評価会への参加のため、業務を一時抜けなければならないとしたらその部署の同僚の支援が必要になります。ここでは官能評価担当者側で提供できる環境に付いて考えてみます。

私がお奨めするのが、パネリストが訓練したい時にいつでも訓練できる環境を提供することです。パネリストは自己の能力開発に興味があります。それ を客観的に評価・フィードバックする環境を作り出せば、ゴルフのスコアに執着するお父様方のようにヒマさえあれば素振りしてくれることでしょう。

もう一つメリットがあります。パネリストと官能評価担当者のコミュニケーションが密になることによって情報量が変わってきます。

ぜひ、出入り自由なパネルトレーニング室の開設はいかがでしょうか?

そして、最後が「嗜好性や感情には触れない」ということです。これは担当者側が気をつけなければならないと思います。プロフェッショナルパネリス トなら『そんなことで気にしていたら仕事にならん』のですが、専従ではない、官能評価に詳しくないパネリストだと気を悪くします。仮に聞く場合も「○○さ ん」ではなく、「性別○、年齢△才、の代表者として来ていただいた○○さん」として聞いたほうが良いでしょう。個人と属性を切り離すことによってクッショ ンが出来ます。

以上、3つの条件について書きましたが、やはりお奨めは「出入り自由なパネルトレーニング室」です。場所が余分に必要となるので中小企業ではイタイと思うのですが・・・。

今回は「パネル訓練」でした。
ではまた!

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