新型コロナウイルス感染と味覚検査と嗅覚検査について

いくつかのニュースで味覚や嗅覚の変化が感染に気づくきっかけになったという話が出回っているようです( 4/1 確認。但しニュースは削除される恐れがあります。)。

阪神選手
茂原・松戸の大学生
英国鼻科学会の声明
NBAゴベール選手
キラメイジャーレッド

弊社では官能評価パネルの選抜・管理用の味覚検査・嗅覚検査のサービスを提供しておりますが、このような医療目的での使用は目的外となります。

しかし、ご相談がありましたので当社の見解を述べたいと思います。

まず、正常な味覚・嗅覚の基準があるかというと難しいところです。
例えば弊社のTT式味覚検査では、通常の社会生活を送っている方を対象に検査を実施しています。健康な方と考えて良いと思います。そのような方々でも1つも正解しない場合があります。しかし、全不正解の方々が生活で困っているかというとそうではありません。

医療目的の検査、例えばテーストディスクはどうでしょうか?
かなり濃度の濃い条件まで検査しますので、病気と判断されるような味覚異常も判断することができます。

それではこのような味覚検査を使って、コロナウイルスの感染を検出できるのでしょうか?
現時点で感染者のデータがあるわけではないので推測になりますが、おそらく感染者は「いつもと違う」レベルでの違和感を感じたものと思われます。

絶対的な味覚感度というよりは、個人の味覚感度が大きく変化したと推測します。
つまり、もともと味覚感度の高い方(センシティブな方)が「いつもと違う」と感じたとしても、絶対的な感度としては病気と判断されるようなレベルにない可能性があります。

もし、感染時の味覚感度が病気と判断されるようなレベルにまで鈍化するのであれば、医療目的の検査(テーストディスク、電気検査、オルファクトメーター等)が有効だと考えます。
一方、病気と判断されるようなレベルにまで鈍化せず、相対的な感度の低下だとすれば、一回だけの検査で検出することは難しいです。通常時(健康時)の味覚検査の結果と感染時の結果を比較して判断する必要があります。

また、人の味覚や嗅覚は時々刻々と変化しています。空腹や満腹、感情の起伏、環境の変化などに影響を受けます。

検査で判断をする場合、通常のばらつき(変動)を把握し、その上でそのばらつきを超えた変化があったときに「いつもと違う」と判断できます。
しかし、感染したときの味覚の変化が、通常のばらつきの範囲内であった場合は、味覚検査によって感染を検出することは難しいでしょう。

コロナウイルスと味覚嗅覚との関係性について、徐々に研究の結果が報告されています。

キングス・カレッジ・ロンドンの研究者が新型コロナの症状を追跡するアプリを通じてデータを収集し、インターネットで分析結果を報告

このニュースを見ると客観的な味覚検査ではなくても、自己申告でも有効な判断方法となりそうです。 下記はイタリアの病院でのインタビューに基づく結果です。

Self-reported olfactory and taste disorders in SARS-CoV-2 patients: a cross-sectional study (フリーPDFあり)

表1の概要のみですが、59名中の結果:

味覚異常および/または嗅覚障害あり:20名(33.9%)
味覚異常 5名(8.5%)
味覚消失 1名(1.7%)
嗅覚障害 3名(5.1%)
無嗅覚症 0名(-%)
混合味覚と嗅覚障害 11名(18.6%)・・・混合障害の各症状を合計

論文中で下記のテストに言及があります。弊社でも採用を検討したことがありますが、すでに日本ではOSITが開発販売されていたのでOSITを使用していました。現在はOSITが一般的に購入できないのでOpenEssenseを使用しています。

嗅覚識別検査(SmellIdentificationTest:Doty)の臨床応用
※ペンシルバニア州SIT(Smell identification test)

我々が官能評価パネルを訓練する際に、「感じる・感じない」など自己申告というのは信用しません。実際に特定の物質を添加したサンプル溶液を提示し、自己申告(感じる・感じない)の結果とブラインド(3点試験法、違うものを選ぶ)で比較すると大幅に異なっています。上記のインタビュー論文でも66%は味覚・嗅覚異常を感じていません。

しかし、今回のような緊急事態では妥当性や精度を議論している場合ではないのかもしれません。

インタビュー論文でも「impossible to perform a more structured questionnaire associated with validated tests (i.e.Pennsylvania smell identification test) 」と述べており、客観テストの実施は現実的ではないのでしょう。

日々の食事で、ご家族の皆様が味やにおいについて普段と違う様子があったら、コロナウイルスを疑った方が良いかもしれません。
また、料理人(お母さんなど)は気づきにくいので、料理を食べる側も「あれ、いつもと味付けが違う」と思ったら気をつけてください。

現在の状況から言えば、違和感を感じただけで医療機関を訪れるのは得策ではなさそうです。厚生労働省の相談・受信の目安に準じた行動をお勧めします(今後、目安が変わる可能性もありますので随時情報を確認してください)。

また、味覚嗅覚異常を感じた場合は耳鼻咽喉科を受診されると思いますが、診療所ごとに受け入れ状況が異なります。先に電話するなどして確認してから受診するようにしましょう。

早く不安のない社会になることを祈念しております。

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在宅・遠隔による官能評価の実施方法

新型コロナウイルスによる様々な影響が各方面に出ております。
東京都には外出自粛の要請が出され、在宅勤務者が増えております。

メーカーの商品開発者やマーケティング担当者は事態の変化に即座に対応することが求められています。

現在、感染拡大を防ぐため避けるべき状況は「3つの密」と言われています。

密集、密閉、密接

会場調査(CLT;Central Location Test)や集合型の官能評価は、まさに避けるべき状況の一つと言えます。その為、集合型の官能評価の案件自体が実施できない状況です。

実施するとしたら、自宅調査(HUT; Home Use Test)または非集合型官能評価となります。

在宅勤務の社員やリクルート会社を通じてモニターの自宅に商品やサンプルを送付して、試用の上で回答します。

通常HUTは、普段通りの使い方をしてもらった上での使用感などの評価をしてもらうのが目的です。
その為、使い方などの指示は少なくし、要因の統制は最小限とします。結果、様々な使用環境・状況など実態に即した評価が得られるのが特徴です。

一方、会場調査は指定した場所に集まってもらい、運営側の意図する方法に基づき指定されたとおりに評価をします。

双方、メリットデメリットがありますが、会場調査では「様々な要因を厳密に統制できること」が一番のメリットです。
会場調査ができない場合にHUTを代替手法として取り入れる場合、この点を十分注意する必要があります。
なぜならHUTは、様々な要因を厳密に統制できません。

例えば、HUTで商品の食べる順番を指定した場合でも、その通りに実施する方もいればそうでない方もいます。
HUTでも統制自体は可能ですが、「厳密な」統制は難しいのです。

一方で、HUTを(集合型)分析型官能評価の代替として考えたとき下記の3点に注意して実施します。

1.実施方法:半統制型の実施(使用する順番、使い方など一部を指定する)。
2.回答方法:パソコンやスマホを使う。また、統制した内容が守られているかチェックする(サンプルコードの表示だけではなく入力させる)。
3.解析方法:分析型官能評価として実施した場合でも嗜好型官能評価のような解析とする※。

※訓練されたパネルで行う分析型官能評価ではパネリスト効果を固定効果(fixed effect)として解析することが多いですが、遠隔実施の場合は訓練されたパネリストであってもパネリスト効果を変動効果(random effect)として解析する。

各社の状況によりますが、在宅業務を行っている場合にインターネットに接続して回答サイト(アンケートサイトやWeb型官能評価ソフト)にアクセスが許されていない場合も多いようです。

これに対してはソフトウェアごとに対応は異なりますが、例えば弊社のmagicsenseではソフトウェア自体をメールで送付し、ネットに繋がないパソコンで回答を記録し、結果をメールで返信することができます。
FIZZにはFIZZmobileというシステムがあり、持ち出して評価することが可能です。

まとめます。

現状、集合型の官能評価を実施するのは当分は難しそうです。
そこで遠隔で評価を実施するHUT型(ホームユーステスト)の官能評価が当面は有効です。
遠隔実施の場合は、実施の教示、回答方法、そして解析方法を変更することで十分に実施することが可能です。
ソフトウェアは多くの場合は遠隔実施が可能です。

早く不安のない社会になることを祈念しております。

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無料セミナー「R:とりあえず始めてみたいR(1人1台PC)

一般向けに募集を公開いたしました。官能評価に限らずマーケティングデータにも活用できる内容となっております。

【概要】
マウスで操作できるRコマンダーを使用してRの操作方法を習得します。
Rのインストールから基本操作までを実際にパソコンを操作しながら覚えていきましょう。

基本操作ではRコマンダーとFactoMineRパッケージを使ってポジショニングマップの作成を行います(解析手法は「主成分分析」です)。
本セミナーではExcelを中心としてデータハンドリングを行う「仲介法」をご紹介します。Excelでデータを用意し、Rで主成分分析の結果を出力、その結果をExcelでグラフ化(ポジショニングマップ)します。

【プログラム】
1.R概要
2.Rのインストール方法(インターネットorオフライン)
3.Rの起動と終了
4.基本操作(仲介法の説明)
5.ワーク:ポジショニングマップ作成

【募集詳細】
募集人数:5名
持ち物:筆記用具(※当方で用意したパソコンを使用します)
料金:無料
場所:成美教育文化会館(西武池袋線東久留米駅 徒歩5分)日時:
2020年2月6日 13:30-15:30(2時間)
※セミナー終了後、16:00までワークや質疑応答致します。

【お問合せ・申込み先】
お申し込みはこちらフォームからご応募ください。実施日が近づいてきておりますので先着順となります。

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令和元年2019年を振り返る:官能評価関連の動向

今年も残すところあと数日となりました。
今年の官能評価関連の状況を振り返りたいと思います。

1.Pangborn2019の開催
2.ラピッドメソッドの定着化
3.Rの浸透
4.ISO・JIS関連の更新情報

1.Pangborn2019の開催

今年はエジンバラでPangbornが開催されました。若干日本企業の参加数が減少していますが、多くの企業様がポスターや講演では活躍されておりました。
また、楽天リサーチが企業展示されていたのが印象的でした。国内のリサーチ企業がさらに参加されることを期待しております。

2.ラピッドメソッドの定着化

NappingやCATAをはじめとしたラピッドメソッドが定着し始めているようです。以前は新しい手法への興味として実施する方もいましたが、最近は普段使いの手法としてお使いになる方が増えてきています。特にNappingは紙と定規があればできます。また、CATAはアンケートソフトのマルチプルアンサー機能(MA)で回答できるので、気軽に始められます。

一方で、FIZZも完全対応とまでいかず、適切な解析ツールがないのが課題です。

3.Rの浸透

前述の影響かもしれませんが、フリーウェアの「R」の利用が浸透してきています。企業のパソコンにフリーウェアをインストールするのは申請や許可が必要なため、中々簡単に使えないという声が多かったのですが、最近は簡単に許可が出ているようです。その為、自分のパソコンにRを入れて解析を行う方が増えてきています。マニアなソフトから一般人向けのソフトになりつつあるように感じております。
利用者はRstudio派とRコマンダー派が多く、R本体のみという方もいらっしゃいます。
弊社では官能評価パッケージのSensoMineRをお勧めしているためRコマンダーを利用することが多いです。

Rの利用はコマンド入力が壁となっているようです。
使いやすさが今後の普及の鍵でしょう。

4.ISO・JIS関連の更新情報

2019年のISO更新情報です。

ISO3103はお茶サンプル準備の規格が更新されました。
ISO16820は逐次法の規格です。識別法の新アプローチがこちらにも適用されました。
ISO20613は品質管理の規格です。品質管理(QC)の規格がなかったのが意外です。

【更新】
●ISO 3103:2019(1stEd. 1980)
Tea – Preparation of liquor for use in sensory tests
発行年月日: 2019-12-09

さまざまな種類のカメリアシネンシスベース(Camellia sinensis-based tea)のお茶の商業取引の増加を反映するために改訂が行われました。 このドキュメントでは、現在の国際標準(黒と緑)があるお茶を、同じハードウェアを使用して共通のフレームワークで評価することができます。

●ISO 16820:2019(1stEd. 2004)
Sensory analysis – Methodology – Sequential analysis
発行年月日: 2019-10-03

Thurstonianδアプローチの使用に関する情報と新しいリファレンス[7]の引用が5.1に追加されました。

【新規】
●ISO 20613:2019(1stEd.)
Sensory analysis – General guidance for the application of sensory analysis in quality control
発行年月日: 2019-02-28

品質管理(QC)における官能分析プログラムに関するガイドラインを提供します。
QC用途の工場内官能分析に限定されています。
QCの特徴としてリファレンスやキャリブレーションといった再現性を確保するための方法が記載されています。

2019年の個人的なニュースとしては、8年ほど使っていたメインパソコンをこの年末に変えることにしました。
今でも普段使いとしては全く問題ありませんが、技術の進歩は目覚ましく、新しいほうが安くて速いということでこの年末に入れ替えを実行しました。ディープラーニングに使っていたちょっと型落ちのパソコンをリニューアルしました。
ベンチマークソフトの結果、あまりの速さに驚いてしまいました。
今回のブログは入れ替えたパソコンで書いております。

さて、今年も残すところ4日を切ってしまいました。
皆様、良いお年をお迎えください。

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回答用紙が大好きな方へ:OCRとマークシート

皆さんは官能評価の回答方法に用紙を使っていますか?
それともパソコンですか?

近年はFIZZやMagicSense、Compusenseなどのソフトウェアを使ったパソコン回答が増えているので、用紙方式は少ないように思われがちですが、実態は未だに多くの企業の現場では回答用紙が使われています。

回答用紙のデメリットは、データ解析のためにデータ化(データ入力)が必要な点です。このデータ入力がなければパソコンよりも使いやすい方法だと思います。

FIZZにはFIZZ FORMというバージョンがあり、FIZZで印刷した 回答用紙をスキャナーで読み取るとデータ化することができます(OCR)。しかし、ブースを増やしたFIZZネットワークに比べれば安いですがまぁまぁの金額です。

そこでお勧めしたいのがマークシート読取ソフトです。
様々なメーカーからソフトウェアが出されていますが、近年では業務用システムではないパッケージ品(2万円~)でも十分な精度が出せるようになってきています。用紙作成はワードやExcelで作成して普通用紙に印刷するだけです。あとはオートフィーダー付きのスキャナーがあれば完璧です。オフィスなら複合機があるので大丈夫でしょう。

似たような方法として手書き文字を読み取るOCRソフトも出ていますが、読取の精度や回答の簡便性ではマークシート方式の方をお奨めします。

マークシートなので5件法などは簡単にできますが、無段階のラインスケール方式は難しいでしょう。しかし、工夫次第では可能です。

例えば横方向に99段階のマークシートを並べて「疑似ラインスケール」として回答し、スキャン・読み取りします。多少の設定は必要でしたが、コストと精度を考えればなかなかのパフォーマンスです。 弊社で試したところ結構うまくいきました。

回答人数が多い嗜好調査CATA法などはマークシートに向いた手法です。それに加えて5・7・9件法のような評点法ラインスケールもマークシートで使えるとあっては、用紙好きの方には朗報でしょう。

用紙方式は自由記述やメモ書きなど、想定外の情報が商品開発に役に立つことがあります。ソフトウェアでもメモ機能がありますが、用紙に書くような気軽さはありません。

官能評価ソフトを買うほどではないが、官能評価業務を合理化したい方は「マークシート読取ソフト」をお奨めします。

次回は今年最後の投稿になる予定です。

告知:2020年2月6日に開催の無料セミナー情報を「官能評価でアール」(要メンバー登録)に掲載しました。R未経験者向けの内容です。ご興味のある方はログインして閲覧ください。

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マーケティングリサーチのJIS規格「JIS Y 20252」が制定

「市場・世論・社会調査及びインサイト・データ分析」の国際的な品質管理規格であるISO 20252がJIS規格「JIS Y 20252」として制定されました。

経産省ニュースリリース

官能評価では嗜好調査に関するISO規格「ISO11136」がありますが、より大きな括りであるマーケティングリサーチではこのISO 20252が一般的です。

今回、日本のJIS規格として制定されたことで多くのリサーチ会社が適用してくると思われます。またJIS認証と同時にISO認証と同等とみなされるので、海外展開を図るリサーチ会社にとってはチャンスですね。

日本のリサーチ業界の団体である日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)では「JIS Y 20252 の理解と遵守を全正会員社にお願いするとともに、官公庁を含むクライアント向けに品質管理の取り組みをよりいっそうアピールしていく」(引用)方針とあります。JMRAは日本の主要なリサーチ会社が正会員・賛助会員となっている団体ですので、業界の方向としてはJIS Y 20252が普及していくのでしょう。

JMRAでは、このJIS制定に伴いJMRAでは記念講演を11/11に開催します。
参加費無料というのがうれしいですね。

また、11/11までにJIS規格書を購入すると期間限定割引があるそうです。
ご興味のある方はこの機会にいかがでしょうか。

ちなみにISO規格のISO 20252邦訳版を購入すると42284円(税込)ですので、JIS版のJIS Y 20252(定価9900円税込)をお勧めします。

今回はマーケティングリサーチに関わるJIS規格「JIS Y 20252」をご紹介しました。

最後に弊社の11月の予定を紹介します。
11/17:官能評価学会にブース出展
11/28:他社主催(東京・半蔵門)のセミナー講師※
※Rの入門編です。SensoMineR・sensR・tempRを紹介します。ご興味ある方はご連絡ください。主催者をご紹介します。

11/17の官能評価学会ではアンケートシステムをご紹介します。ぜひお立ち寄りください。

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Napping(ホリスティック法)の座標データ取得方法

NappingやSortingはホリスティック法と呼ばれ、総合的・全体的(Holistic)な評価方法として用いられます。
プロダクトマップを作る方法としては早く簡単なので、ラピッドメソッドとも呼ばれます。

最近、実務でホリスティック法を使う企業が増えてきたと感じています。今年夏頃に官能評価学会の企業部会がテーマとして取り上げたのも大きいのでしょう。

ホリスティック法はパネリストが行う評価方法は記述型官能評価(DA)に比べて簡単なのですが、データの解析が厄介です。

ホリスティック法のデータ解析にはMFA、GPA、STATISなどが使われます。MFAなどの手法は、複数のマップから平均的マップ(「コンフィグレーションマップ」または「コンセンサスマップ」などと呼ばれます)を計算します。得られたマップがいわゆる「プロダクトマップ」として使われます。

SensoMineRではRコマンダーのメニュー(下記)からNappingの解析ができます。※弊社推奨のインストール方法でRコマンダーから操作可能です。

SensoMineR>Holistic approches>Procrustes multiple factor analysis

Rなのにマウス操作なので簡単に解析できます。そして多くのグラフが表示されます。初めての方には多すぎるくらいですが・・・。

しかし、プロダクトマップの各座標データが得られません。

解析結果のオブジェクトresultsの中身を確認してもRV係数が表示されるだけです。

オブジェクトresultsの中身を表示(RV coeffだけが表示される)

座標データは、一番データとしてほしいところです。エクセルやパワーポイントで加工する上で必要なデータです。

実はRコマンダーから実行したコマンドはpmfa関数といいます。このpmfa関数では座標データが残らないのです(コードを見ると、そもそも座標データを保存するようにプログラムされていない)。

そこで座標データを取得するためにはpmfa関数ではなく、pmfa関数の内部で行っている多因子分析(MFA)を自分で実行して取得します。
データセットを読み込んでからFactoMineRのRコマンダーメニューから下記を実行します。
※「RcmdrPlugin.FactoMineR」パッケージをインストール、Rコマンダーからパッケージを読み込みます。

Rコマンダープラグイン「RcmdrPlugin.FactoMineR」の読み込み
RコマンダーのFactoMineRメニューからMFAを実行

FactoMineR>Multiple Factor Analysis

回答者ごとのデータ(X,Y)を各グループとして登録していきます。
その際「各回答者のXY座標データは標準化しないのがポイントです!」
Scale the variable … をNoとして設定します。

グループの設定(回答者ごとのXY座標データをグループとして登録します)

ワードカウントデータ(UFPのデータ)がある場合、こちらは標準化します。
Scale the variable … をYesとして設定します。

Outputsボタンからオプション画面を表示します。
Print results on a ‘csv’ … に出力するファイル名を入力します。
その際、「●●.txt」と入力します。

保存ファイル名を●●.txtとして指定します。

CSVと書いてありますが、実際は「;」で区分けされていますので、日本語環境ではCSVファイルで保存してしまうとデータ構造が崩れてしまいます。ですからtxtとして保存し、読み込むときに「;」を区分記号として設定して読み込ます。

詳しい操作方法は弊社テキストに記載されていますので、ご興味のある方は下記テキストをご検討下さい。

SensoMineRでホリスティック分析入門テキスト(Napping/Projective Mapping)

SensoMineRによるNappingの座標データ取得方法をご紹介しました。

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Pangborn2019が閉幕、2021年はバンクーバー!

Pangborn2019が8/1に閉幕しました。
7/28-8/1の5日間、イギリスのエジンバラ国際会議場にて開催されました。

オープニング

日本からは25名、19団体の参加登録がありました。
前回よりは少ないようです。

Pangborn2019は講演、workshop,learnshopなどが並行して行われます。
その他にポスター掲示があるので、一人で全てを見て回るのはできません。
また、workshop,learnshopは一度出ると再入室は難しいです。
ですから、興味のあるテーマを飛び回りたくてもなかなか思い通りいきませんでした。

ポスター展示会場

私は初日で動き回るのをあきらめました。

その為、私が見聞きした情報はPangbornの一部でしかないことをご承知おきください。

内容としてはAIやVR、MLなどの最新トピックは多く見かけました。
手法ではダイナミックプロファイリング(TDS、TCATA)は人気です。これにラピッドメソッド(CATA,RATA、FP、Napping)も多いです。特にCATAは人気でした。

なお、CATAの読み方ですが、私自身は「キャタ」と呼んでいますが「カタ」も少なくありません。Pangbornでは「ケイタ」と発音される方もいました。
正直、どの発音でも通じたように思います。もし通じなくても「Check all that apply」をフルで言えば間違いなく通じます。

また、日本ではあまり目にしたことがないRATA(rate all that apply)も見かけました。ポスターだけならばNappingなどのホリスティック法よりも多かったように思います。

講演ではペプシコが強烈なインパクトをもっておりました。データ数や研究のボリュームなどはさすがでした。やはり自信があふれているのでしょう。若い方の発表もなかなか「圧」がありました。しかし、具体的な研究内容は公開していなかったので、パネリストの再現性や妥当性がどのようなレベルなのかはわかりませんでした。

日本企業について、いくつかの企業はポスター掲示をされておりました。また味の素のDr.Chinatsu Kasamatsuさんはlearnshop#5のプレゼンターとして識別法の事例紹介をされておりました。


識別法は基礎的な手法のためか、あまり日本で研究されることが多くありません。非常に有意義な発表でした。

識別法については、以前このブログでも紹介した識別法の本「Discrimination Testing in Sensory Science」がありますが、著者のLaurenさんとお会いすることができました。彼女はコンサルタントで、講演では様々なグラフの見せ方を紹介しておりました。鉄アレイグラフとかアニメ化したTCATAカーブは面白い表現方法でした。

また、「Analyzing Sensory Data with R」の本の著者の一人、Thierry氏ともお会いしました。次回作はあるかと聞いてみたのですが「転職したし、忙しくて書けない。もう一人の著者(Sebastien)がやればなぁ・・・」(超意訳)と言っておりました。

なお、「Analyzing・・・」の本のサンプルデータリンク(出版社CRCpress)は切れています。個人的にファイルを送ってもらいました。ご入用の方はご相談ください。

詳細については書ききれないので、どこかでお会いした際にでもお話しさせていただきます。

最後に、私はPangbornに初参加だったのですが、結構面白かったです。また、日本とのギャップも感じつつ、それを「日本は遅れている」という気もありません。しかし、日本企業の予算枠は確実に少ないのは明白です。人材も少なく、Sensoryの専業者も多くありません(兼業者がほとんどです)。
技術か、予算か、頭数か、何かしら秀でていればよいのですが、今のところ難しいようです。

おそらく日本から参加された方々は、会社に戻ってレポートなりを書かれることと思います。それを上司が読んで「なるほどなー」で終わってしまうのでしょう。

何かアクションが起きることを期待しております。

次回2021年はカナダのバンクーバー開催(8/8-12)です。日本だとお盆休みにかかってしまいそうですが、都合がつくならばご参加をお勧めいたします。

気に入って何度も訪れたエジンバラ城の写真を三方向よりご紹介しておしまいです。

エジンバラ城 裏から
エジンバラ城 正面左から
エジンバラ城 正面右から

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化粧品・コスメの官能評価規格 ASTM-E1490

官能評価といえば食品業界というイメージがありますが、食品業界以外にも様々な業界で活用されています。

化粧品・コスメなどのパーソナルケア業界も古くから官能評価を活用している業界です。

しかし、食品関連の活用が多いため、書籍やISOなどの事例では食品関連が多く取り上げられており、コスメ系の担当者は参考事例が少ない上に他社の情報も手に入りにくいため悩んでおられます。

当ブログではISO規格の情報や事例を参照することをお勧めしておりますが、コスメの情報が少なくお悩みの解決とまではいかないようです。
そんな時、コスメ系の担当者には別の標準規格を紹介しております。

それが、

ASTM規格E1490-11(2011)「Standard Guide for Two Sensory Descriptive Analysis Approaches for Skin Creams and Lotions

です。

1997年に初版、2003年に改訂、そして2011年にも改訂されています。2011年版が最新版となります(2019年現在)。

(2022/8/1追記)2019年末に更新されE1490-19(2019)が2022年現在の最新版となります。

内容は、消費者評価と専門家評価についての記述型評価について記載されており、コスメ関連では汎用性が高い内容です。また、調査票評価用語リスト解析例がコスメを例としており、コスメの官能評価者には役立つ内容になっています。

官能評価を実施する上で、基本的な原理や考え方はどの業界・商品でも同じですが、各種バイアス(順序効果、疲労効果など)の出方や大きさが異なります。これらは制約条件となって設計や実施上の課題となって官能評価担当者の目前に立ち塞がります。既存の食品メインの書籍では得られなかったコスメ特有の課題についてのアドバイスが、このASTM-E1490を通して得られることと思います。

化粧品・コスメの官能評価に携わっている方は、ぜひ持っていて損はありません。PDF版で69ドル(執筆時点)です。

但し、官能評価の基礎知識は記載されておりませんので、そちらは官能評価の一般書籍などで補完する必要があります。

今回は化粧品・コスメに役立つ規格ASTM-E1490をご紹介しました。

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2018年を振り返る:官能評価関連の動向

今年も残すところ1週間を切りました。

今年の官能評価関連の状況を振り返りたいと思います。

1.香川県独自のオリーブオイル官能評価パネル、IOCから公式認定
2.TDSにマーケティングリサーチ業界も参入
3.嗜好調査の浸透と拡張

1.香川県独自のオリーブオイル官能評価パネル、IOCから公式認定

1つ目ですが、今年後半に香川県が小豆オリーブ研究所に設置している「香川県オリーブオイル官能評価パネル」が国際団体の公式パネルとして認定されました。

下記、新聞の引用です。

「香川県が小豆オリーブ研究所に設置している「香川県オリーブオイル官能評価パネル」が、11月19日から23日、スペインマドリードで開催されたインターナショナル・オリーブ・カウンシル(IOC)の年次総会で、公式パネルとして認定された。これは日本国内では初の快挙であり、アジアでもトルコについで2番目となる。」日本食糧新聞2018/12/7より引用

コーヒー業界では業界団体ごとに資格制度を設けて、日本国内の企業でも資格保有を推進しています。その為、コーヒー業界では「認められた評価者」が認知され、活用されています。
しかし、他の分野ではあまり認知されていませんでした。
今回、オリーブオイルの分野で認定されたことで公式パネルが評価したデータやチャートがオリーブオイル商品に活用されていくことが見込まれます。
ワインや日本酒などでは小売店の売り場に商品マップや風味チャートがPOPと共に活用されています。オリーブオイルの売り場でも今後目にすることが増えてくるでしょう。

現在でも味覚センサーによる商品マップを売り場に展示されていますが、今回の「国際団体が認定」したことや「国内初」などは目を引くキーワードになるでしょう。

一方で、ワインや日本酒でも同様の課題を持っていますが、売り場の商品マップは展示するだけにとどまっており、販促として購買決定にうまく活用されていません。

今後は試食販売との組み合わせを通じてコンサルティング販売につなげていくことがポイントになってきます。

2.TDSにマーケティングリサーチ業界も参入

TDSの影響はマーケティングリサーチ業界にも影響を及ぼしているようです。
近年のTDSをはじめとした時系列手法は商品開発に活用できるという認識が広まってきており、各メーカーの担当者からマーケティングリサーチ会社に問い合わせが増えてきているようです。一方で、国内のマーケティングリサーチ企業の多くでは官能評価に特化したスタッフがほとんどいないため対応できていない状況でした。それでも3点試験法や評点法、疑似QDAなどは何とかこなせていたのですが、さすがにTDSなどの専門的な手法となるとすぐには対応するが難しいようです。

弊社で販売している官能評価テキストの多くはメーカーが購入されていますが、最近はリサーチ企業からの引き合いも増えてきております。

海外のマーケティングリサーチ企業の多くは専門的な官能評価手法にも対応しており、パングボーンなどの国際会議のスポンサーにも名を連ねています。残念ながら国内のマーケティングリサーチ企業がスポンサーになった例は多くありません。

TDSをきっかけに国内リサーチ企業も官能評価に多少の興味を持ち始めていることは、国内の官能評価レベルを高めるうえで好ましい傾向だと思います。

依頼側の注意点としては、サービスや商品が急拡大する時期には玉石混交という状態になります。知識がない状態で依頼するのは難しいですね。専門家や経験者のサポートしてもらいながら進めていくのが良いでしょう。

3.嗜好調査の浸透と拡張

嗜好調査自体は多くの企業で実施されてきましたが、近年その活用と手法の多様さが目に付くようになりました。

高度な手法である「プリファレンスマップ」を多くの方が使うようになってきました。
また、前述のTDSとの組合せで使われる「TDL:Temporal Driver of Liking」も利用者が増えてきています。
そして「Jarスケール:Just About Right scale」の利用者も徐々に増えてきています。Jarスケールは1試料から評価できる点が好まれているようです。予算の少ない企業でも実施しやすいというメリットがあります。

スタンダードな「ヘドニック尺度」が浸透し、その次の手法を探している状態なのでしょう。

官能評価の解析手法も専門家から一般消費者を前提とした解析に移行してきています。
2016年末に今後の手法動向について述べていますが、この傾向は変わらず続きそうです。

2018年のISO更新情報

ISO13301は閾値検査の規格の改訂版です。データ要件と計算手順に焦点が当てられています。ページが減っています(34p→28p)。
ISO18794は新しい規格です。基本的な用語、コーヒー評価における基本的用語、コーヒー特有の用語、実務者の用語が記載されています。

●ISO 13301:2018-04-24 ( 2002年の改訂 34p→28p )
官能試験-方法-三肢強制選択法(3-AFC)手順による香り,風味及び味覚検知の閾値
Sensory analysis — Methodology — General guidance for measuring odour, flavour and taste detection thresholds by a three-alternative forced-choice (3-AFC) procedure

●ISO 18794:2018-01-03( 新規格 )
コーヒー-官能分析-用語
Coffee — Sensory analysis — Vocabulary

コーヒーに特化した用語規格を発行したことは、今後の規格の方向性としてポイントになります。ワインなども評価容器の規格がありますが、今後は商品カテゴリに特化した規格が増えてくることが想定されます。一方、ASTM(アメリカの標準化規格)の方が手法の規格も、商品カテゴリ別の規格も更新の頻度が高いため、今後のISOの方針には注意が必要です。実務者としてはASTMのチェックも忘れないようにしましょう。

年末もバタバタしておりますが、個人的には「麦ふあ~」のパッケージの変更
が一番のびっくりニュースです。
内容量もさることながら、一枚一枚の量・厚さも変わってしまいました。
これにより食感が変わってしまったのが(個人的には)残念です。
昨今の事情を考えると量が減るのは仕方ないとして、1枚の仕様が変わってしまったのはファンとしては衝撃でした。
パッケージ変更に気づいてから、旧パッケージを箱買いしてしまいました・・・

今年も残すところ1週間を切ってしまいました。
良いお年をお迎えください。

カテゴリー: 「官能評価なるもの」アーカイブ | 2018年を振り返る:官能評価関連の動向 はコメントを受け付けていません