令和元年2019年を振り返る:官能評価関連の動向

今年も残すところあと数日となりました。
今年の官能評価関連の状況を振り返りたいと思います。

1.Pangborn2019の開催
2.ラピッドメソッドの定着化
3.Rの浸透
4.ISO・JIS関連の更新情報

1.Pangborn2019の開催

今年はエジンバラでPangbornが開催されました。若干日本企業の参加数が減少していますが、多くの企業様がポスターや講演では活躍されておりました。
また、楽天リサーチが企業展示されていたのが印象的でした。国内のリサーチ企業がさらに参加されることを期待しております。

2.ラピッドメソッドの定着化

NappingやCATAをはじめとしたラピッドメソッドが定着し始めているようです。以前は新しい手法への興味として実施する方もいましたが、最近は普段使いの手法としてお使いになる方が増えてきています。特にNappingは紙と定規があればできます。また、CATAはアンケートソフトのマルチプルアンサー機能(MA)で回答できるので、気軽に始められます。

一方で、FIZZも完全対応とまでいかず、適切な解析ツールがないのが課題です。

3.Rの浸透

前述の影響かもしれませんが、フリーウェアの「R」の利用が浸透してきています。企業のパソコンにフリーウェアをインストールするのは申請や許可が必要なため、中々簡単に使えないという声が多かったのですが、最近は簡単に許可が出ているようです。その為、自分のパソコンにRを入れて解析を行う方が増えてきています。マニアなソフトから一般人向けのソフトになりつつあるように感じております。
利用者はRstudio派とRコマンダー派が多く、R本体のみという方もいらっしゃいます。
弊社では官能評価パッケージのSensoMineRをお勧めしているためRコマンダーを利用することが多いです。

Rの利用はコマンド入力が壁となっているようです。
使いやすさが今後の普及の鍵でしょう。

4.ISO・JIS関連の更新情報

2019年のISO更新情報です。

ISO3103はお茶サンプル準備の規格が更新されました。
ISO16820は逐次法の規格です。識別法の新アプローチがこちらにも適用されました。
ISO20613は品質管理の規格です。品質管理(QC)の規格がなかったのが意外です。

【更新】
●ISO 3103:2019(1stEd. 1980)
Tea – Preparation of liquor for use in sensory tests
発行年月日: 2019-12-09

さまざまな種類のカメリアシネンシスベース(Camellia sinensis-based tea)のお茶の商業取引の増加を反映するために改訂が行われました。 このドキュメントでは、現在の国際標準(黒と緑)があるお茶を、同じハードウェアを使用して共通のフレームワークで評価することができます。

●ISO 16820:2019(1stEd. 2004)
Sensory analysis – Methodology – Sequential analysis
発行年月日: 2019-10-03

Thurstonianδアプローチの使用に関する情報と新しいリファレンス[7]の引用が5.1に追加されました。

【新規】
●ISO 20613:2019(1stEd.)
Sensory analysis – General guidance for the application of sensory analysis in quality control
発行年月日: 2019-02-28

品質管理(QC)における官能分析プログラムに関するガイドラインを提供します。
QC用途の工場内官能分析に限定されています。
QCの特徴としてリファレンスやキャリブレーションといった再現性を確保するための方法が記載されています。

2019年の個人的なニュースとしては、8年ほど使っていたメインパソコンをこの年末に変えることにしました。
今でも普段使いとしては全く問題ありませんが、技術の進歩は目覚ましく、新しいほうが安くて速いということでこの年末に入れ替えを実行しました。ディープラーニングに使っていたちょっと型落ちのパソコンをリニューアルしました。
ベンチマークソフトの結果、あまりの速さに驚いてしまいました。
今回のブログは入れ替えたパソコンで書いております。

さて、今年も残すところ4日を切ってしまいました。
皆様、良いお年をお迎えください。

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回答用紙が大好きな方へ:OCRとマークシート

皆さんは官能評価の回答方法に用紙を使っていますか?
それともパソコンですか?

近年はFIZZやMagicSense、Compusenseなどのソフトウェアを使ったパソコン回答が増えているので、用紙方式は少ないように思われがちですが、実態は未だに多くの企業の現場では回答用紙が使われています。

回答用紙のデメリットは、データ解析のためにデータ化(データ入力)が必要な点です。このデータ入力がなければパソコンよりも使いやすい方法だと思います。

FIZZにはFIZZ FORMというバージョンがあり、FIZZで印刷した 回答用紙をスキャナーで読み取るとデータ化することができます(OCR)。しかし、ブースを増やしたFIZZネットワークに比べれば安いですがまぁまぁの金額です。

そこでお勧めしたいのがマークシート読取ソフトです。
様々なメーカーからソフトウェアが出されていますが、近年では業務用システムではないパッケージ品(2万円~)でも十分な精度が出せるようになってきています。用紙作成はワードやExcelで作成して普通用紙に印刷するだけです。あとはオートフィーダー付きのスキャナーがあれば完璧です。オフィスなら複合機があるので大丈夫でしょう。

似たような方法として手書き文字を読み取るOCRソフトも出ていますが、読取の精度や回答の簡便性ではマークシート方式の方をお奨めします。

マークシートなので5件法などは簡単にできますが、無段階のラインスケール方式は難しいでしょう。しかし、工夫次第では可能です。

例えば横方向に99段階のマークシートを並べて「疑似ラインスケール」として回答し、スキャン・読み取りします。多少の設定は必要でしたが、コストと精度を考えればなかなかのパフォーマンスです。 弊社で試したところ結構うまくいきました。

回答人数が多い嗜好調査CATA法などはマークシートに向いた手法です。それに加えて5・7・9件法のような評点法ラインスケールもマークシートで使えるとあっては、用紙好きの方には朗報でしょう。

用紙方式は自由記述やメモ書きなど、想定外の情報が商品開発に役に立つことがあります。ソフトウェアでもメモ機能がありますが、用紙に書くような気軽さはありません。

官能評価ソフトを買うほどではないが、官能評価業務を合理化したい方は「マークシート読取ソフト」をお奨めします。

次回は今年最後の投稿になる予定です。

告知:2020年2月6日に開催の無料セミナー情報を「官能評価でアール」(要メンバー登録)に掲載しました。R未経験者向けの内容です。ご興味のある方はログインして閲覧ください。

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マーケティングリサーチのJIS規格「JIS Y 20252」が制定

「市場・世論・社会調査及びインサイト・データ分析」の国際的な品質管理規格であるISO 20252がJIS規格「JIS Y 20252」として制定されました。

経産省ニュースリリース

官能評価では嗜好調査に関するISO規格「ISO11136」がありますが、より大きな括りであるマーケティングリサーチではこのISO 20252が一般的です。

今回、日本のJIS規格として制定されたことで多くのリサーチ会社が適用してくると思われます。またJIS認証と同時にISO認証と同等とみなされるので、海外展開を図るリサーチ会社にとってはチャンスですね。

日本のリサーチ業界の団体である日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)では「JIS Y 20252 の理解と遵守を全正会員社にお願いするとともに、官公庁を含むクライアント向けに品質管理の取り組みをよりいっそうアピールしていく」(引用)方針とあります。JMRAは日本の主要なリサーチ会社が正会員・賛助会員となっている団体ですので、業界の方向としてはJIS Y 20252が普及していくのでしょう。

JMRAでは、このJIS制定に伴いJMRAでは記念講演を11/11に開催します。
参加費無料というのがうれしいですね。

また、11/11までにJIS規格書を購入すると期間限定割引があるそうです。
ご興味のある方はこの機会にいかがでしょうか。

ちなみにISO規格のISO 20252邦訳版を購入すると42284円(税込)ですので、JIS版のJIS Y 20252(定価9900円税込)をお勧めします。

今回はマーケティングリサーチに関わるJIS規格「JIS Y 20252」をご紹介しました。

最後に弊社の11月の予定を紹介します。
11/17:官能評価学会にブース出展
11/28:他社主催(東京・半蔵門)のセミナー講師※
※Rの入門編です。SensoMineR・sensR・tempRを紹介します。ご興味ある方はご連絡ください。主催者をご紹介します。

11/17の官能評価学会ではアンケートシステムをご紹介します。ぜひお立ち寄りください。

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Napping(ホリスティック法)の座標データ取得方法

NappingやSortingはホリスティック法と呼ばれ、総合的・全体的(Holistic)な評価方法として用いられます。
プロダクトマップを作る方法としては早く簡単なので、ラピッドメソッドとも呼ばれます。

最近、実務でホリスティック法を使う企業が増えてきたと感じています。今年夏頃に官能評価学会の企業部会がテーマとして取り上げたのも大きいのでしょう。

ホリスティック法はパネリストが行う評価方法は記述型官能評価(DA)に比べて簡単なのですが、データの解析が厄介です。

ホリスティック法のデータ解析にはMFA、GPA、STATISなどが使われます。MFAなどの手法は、複数のマップから平均的マップ(「コンフィグレーションマップ」または「コンセンサスマップ」などと呼ばれます)を計算します。得られたマップがいわゆる「プロダクトマップ」として使われます。

SensoMineRではRコマンダーのメニュー(下記)からNappingの解析ができます。※弊社推奨のインストール方法でRコマンダーから操作可能です。

SensoMineR>Holistic approches>Procrustes multiple factor analysis

Rなのにマウス操作なので簡単に解析できます。そして多くのグラフが表示されます。初めての方には多すぎるくらいですが・・・。

しかし、プロダクトマップの各座標データが得られません。

解析結果のオブジェクトresultsの中身を確認してもRV係数が表示されるだけです。

オブジェクトresultsの中身を表示(RV coeffだけが表示される)

座標データは、一番データとしてほしいところです。エクセルやパワーポイントで加工する上で必要なデータです。

実はRコマンダーから実行したコマンドはpmfa関数といいます。このpmfa関数では座標データが残らないのです(コードを見ると、そもそも座標データを保存するようにプログラムされていない)。

そこで座標データを取得するためにはpmfa関数ではなく、pmfa関数の内部で行っている多因子分析(MFA)を自分で実行して取得します。
データセットを読み込んでからFactoMineRのRコマンダーメニューから下記を実行します。
※「RcmdrPlugin.FactoMineR」パッケージをインストール、Rコマンダーからパッケージを読み込みます。

Rコマンダープラグイン「RcmdrPlugin.FactoMineR」の読み込み
RコマンダーのFactoMineRメニューからMFAを実行

FactoMineR>Multiple Factor Analysis

回答者ごとのデータ(X,Y)を各グループとして登録していきます。
その際「各回答者のXY座標データは標準化しないのがポイントです!」
Scale the variable … をNoとして設定します。

グループの設定(回答者ごとのXY座標データをグループとして登録します)

ワードカウントデータ(UFPのデータ)がある場合、こちらは標準化します。
Scale the variable … をYesとして設定します。

Outputsボタンからオプション画面を表示します。
Print results on a ‘csv’ … に出力するファイル名を入力します。
その際、「●●.txt」と入力します。

保存ファイル名を●●.txtとして指定します。

CSVと書いてありますが、実際は「;」で区分けされていますので、日本語環境ではCSVファイルで保存してしまうとデータ構造が崩れてしまいます。ですからtxtとして保存し、読み込むときに「;」を区分記号として設定して読み込ます。

詳しい操作方法は弊社テキストに記載されていますので、ご興味のある方は下記テキストをご検討下さい。

SensoMineRでホリスティック分析入門テキスト(Napping/Projective Mapping)

SensoMineRによるNappingの座標データ取得方法をご紹介しました。

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Pangborn2019が閉幕、2021年はバンクーバー!

Pangborn2019が8/1に閉幕しました。
7/28-8/1の5日間、イギリスのエジンバラ国際会議場にて開催されました。

オープニング

日本からは25名、19団体の参加登録がありました。
前回よりは少ないようです。

Pangborn2019は講演、workshop,learnshopなどが並行して行われます。
その他にポスター掲示があるので、一人で全てを見て回るのはできません。
また、workshop,learnshopは一度出ると再入室は難しいです。
ですから、興味のあるテーマを飛び回りたくてもなかなか思い通りいきませんでした。

ポスター展示会場

私は初日で動き回るのをあきらめました。

その為、私が見聞きした情報はPangbornの一部でしかないことをご承知おきください。

内容としてはAIやVR、MLなどの最新トピックは多く見かけました。
手法ではダイナミックプロファイリング(TDS、TCATA)は人気です。これにラピッドメソッド(CATA,RATA、FP、Napping)も多いです。特にCATAは人気でした。

なお、CATAの読み方ですが、私自身は「キャタ」と呼んでいますが「カタ」も少なくありません。Pangbornでは「ケイタ」と発音される方もいました。
正直、どの発音でも通じたように思います。もし通じなくても「Check all that apply」をフルで言えば間違いなく通じます。

また、日本ではあまり目にしたことがないRATA(rate all that apply)も見かけました。ポスターだけならばNappingなどのホリスティック法よりも多かったように思います。

講演ではペプシコが強烈なインパクトをもっておりました。データ数や研究のボリュームなどはさすがでした。やはり自信があふれているのでしょう。若い方の発表もなかなか「圧」がありました。しかし、具体的な研究内容は公開していなかったので、パネリストの再現性や妥当性がどのようなレベルなのかはわかりませんでした。

日本企業について、いくつかの企業はポスター掲示をされておりました。また味の素のDr.Chinatsu Kasamatsuさんはlearnshop#5のプレゼンターとして識別法の事例紹介をされておりました。


識別法は基礎的な手法のためか、あまり日本で研究されることが多くありません。非常に有意義な発表でした。

識別法については、以前このブログでも紹介した識別法の本「Discrimination Testing in Sensory Science」がありますが、著者のLaurenさんとお会いすることができました。彼女はコンサルタントで、講演では様々なグラフの見せ方を紹介しておりました。鉄アレイグラフとかアニメ化したTCATAカーブは面白い表現方法でした。

また、「Analyzing Sensory Data with R」の本の著者の一人、Thierry氏ともお会いしました。次回作はあるかと聞いてみたのですが「転職したし、忙しくて書けない。もう一人の著者(Sebastien)がやればなぁ・・・」(超意訳)と言っておりました。

なお、「Analyzing・・・」の本のサンプルデータリンク(出版社CRCpress)は切れています。個人的にファイルを送ってもらいました。ご入用の方はご相談ください。

詳細については書ききれないので、どこかでお会いした際にでもお話しさせていただきます。

最後に、私はPangbornに初参加だったのですが、結構面白かったです。また、日本とのギャップも感じつつ、それを「日本は遅れている」という気もありません。しかし、日本企業の予算枠は確実に少ないのは明白です。人材も少なく、Sensoryの専業者も多くありません(兼業者がほとんどです)。
技術か、予算か、頭数か、何かしら秀でていればよいのですが、今のところ難しいようです。

おそらく日本から参加された方々は、会社に戻ってレポートなりを書かれることと思います。それを上司が読んで「なるほどなー」で終わってしまうのでしょう。

何かアクションが起きることを期待しております。

次回2021年はカナダのバンクーバー開催(8/8-12)です。日本だとお盆休みにかかってしまいそうですが、都合がつくならばご参加をお勧めいたします。

気に入って何度も訪れたエジンバラ城の写真を三方向よりご紹介しておしまいです。

エジンバラ城 裏から
エジンバラ城 正面左から
エジンバラ城 正面右から

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化粧品・コスメの官能評価規格 ASTM-E1490

官能評価といえば食品業界というイメージがありますが、食品業界以外にも様々な業界で活用されています。

化粧品・コスメなどのパーソナルケア業界も古くから官能評価を活用している業界です。

しかし、食品関連の活用が多いため、書籍やISOなどの事例では食品関連が多く取り上げられており、コスメ系の担当者は参考事例が少ない上に他社の情報も手に入りにくいため悩んでおられます。

当ブログではISO規格の情報や事例を参照することをお勧めしておりますが、コスメの情報が少なくお悩みの解決とまではいかないようです。
そんな時、コスメ系の担当者には別の標準規格を紹介しております。

それが、

ASTM規格E1490-11(2011)「Standard Guide for Two Sensory Descriptive Analysis Approaches for Skin Creams and Lotions

です。

1997年に初版、2003年に改訂、そして2011年にも改訂されています。2011年版が最新版となります(2019年現在)。

(2022/8/1追記)2019年末に更新されE1490-19(2019)が2022年現在の最新版となります。

内容は、消費者評価と専門家評価についての記述型評価について記載されており、コスメ関連では汎用性が高い内容です。また、調査票評価用語リスト解析例がコスメを例としており、コスメの官能評価者には役立つ内容になっています。

官能評価を実施する上で、基本的な原理や考え方はどの業界・商品でも同じですが、各種バイアス(順序効果、疲労効果など)の出方や大きさが異なります。これらは制約条件となって設計や実施上の課題となって官能評価担当者の目前に立ち塞がります。既存の食品メインの書籍では得られなかったコスメ特有の課題についてのアドバイスが、このASTM-E1490を通して得られることと思います。

化粧品・コスメの官能評価に携わっている方は、ぜひ持っていて損はありません。PDF版で69ドル(執筆時点)です。

但し、官能評価の基礎知識は記載されておりませんので、そちらは官能評価の一般書籍などで補完する必要があります。

今回は化粧品・コスメに役立つ規格ASTM-E1490をご紹介しました。

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2018年を振り返る:官能評価関連の動向

今年も残すところ1週間を切りました。

今年の官能評価関連の状況を振り返りたいと思います。

1.香川県独自のオリーブオイル官能評価パネル、IOCから公式認定
2.TDSにマーケティングリサーチ業界も参入
3.嗜好調査の浸透と拡張

1.香川県独自のオリーブオイル官能評価パネル、IOCから公式認定

1つ目ですが、今年後半に香川県が小豆オリーブ研究所に設置している「香川県オリーブオイル官能評価パネル」が国際団体の公式パネルとして認定されました。

下記、新聞の引用です。

「香川県が小豆オリーブ研究所に設置している「香川県オリーブオイル官能評価パネル」が、11月19日から23日、スペインマドリードで開催されたインターナショナル・オリーブ・カウンシル(IOC)の年次総会で、公式パネルとして認定された。これは日本国内では初の快挙であり、アジアでもトルコについで2番目となる。」日本食糧新聞2018/12/7より引用

コーヒー業界では業界団体ごとに資格制度を設けて、日本国内の企業でも資格保有を推進しています。その為、コーヒー業界では「認められた評価者」が認知され、活用されています。
しかし、他の分野ではあまり認知されていませんでした。
今回、オリーブオイルの分野で認定されたことで公式パネルが評価したデータやチャートがオリーブオイル商品に活用されていくことが見込まれます。
ワインや日本酒などでは小売店の売り場に商品マップや風味チャートがPOPと共に活用されています。オリーブオイルの売り場でも今後目にすることが増えてくるでしょう。

現在でも味覚センサーによる商品マップを売り場に展示されていますが、今回の「国際団体が認定」したことや「国内初」などは目を引くキーワードになるでしょう。

一方で、ワインや日本酒でも同様の課題を持っていますが、売り場の商品マップは展示するだけにとどまっており、販促として購買決定にうまく活用されていません。

今後は試食販売との組み合わせを通じてコンサルティング販売につなげていくことがポイントになってきます。

2.TDSにマーケティングリサーチ業界も参入

TDSの影響はマーケティングリサーチ業界にも影響を及ぼしているようです。
近年のTDSをはじめとした時系列手法は商品開発に活用できるという認識が広まってきており、各メーカーの担当者からマーケティングリサーチ会社に問い合わせが増えてきているようです。一方で、国内のマーケティングリサーチ企業の多くでは官能評価に特化したスタッフがほとんどいないため対応できていない状況でした。それでも3点試験法や評点法、疑似QDAなどは何とかこなせていたのですが、さすがにTDSなどの専門的な手法となるとすぐには対応するが難しいようです。

弊社で販売している官能評価テキストの多くはメーカーが購入されていますが、最近はリサーチ企業からの引き合いも増えてきております。

海外のマーケティングリサーチ企業の多くは専門的な官能評価手法にも対応しており、パングボーンなどの国際会議のスポンサーにも名を連ねています。残念ながら国内のマーケティングリサーチ企業がスポンサーになった例は多くありません。

TDSをきっかけに国内リサーチ企業も官能評価に多少の興味を持ち始めていることは、国内の官能評価レベルを高めるうえで好ましい傾向だと思います。

依頼側の注意点としては、サービスや商品が急拡大する時期には玉石混交という状態になります。知識がない状態で依頼するのは難しいですね。専門家や経験者のサポートしてもらいながら進めていくのが良いでしょう。

3.嗜好調査の浸透と拡張

嗜好調査自体は多くの企業で実施されてきましたが、近年その活用と手法の多様さが目に付くようになりました。

高度な手法である「プリファレンスマップ」を多くの方が使うようになってきました。
また、前述のTDSとの組合せで使われる「TDL:Temporal Driver of Liking」も利用者が増えてきています。
そして「Jarスケール:Just About Right scale」の利用者も徐々に増えてきています。Jarスケールは1試料から評価できる点が好まれているようです。予算の少ない企業でも実施しやすいというメリットがあります。

スタンダードな「ヘドニック尺度」が浸透し、その次の手法を探している状態なのでしょう。

官能評価の解析手法も専門家から一般消費者を前提とした解析に移行してきています。
2016年末に今後の手法動向について述べていますが、この傾向は変わらず続きそうです。

2018年のISO更新情報

ISO13301は閾値検査の規格の改訂版です。データ要件と計算手順に焦点が当てられています。ページが減っています(34p→28p)。
ISO18794は新しい規格です。基本的な用語、コーヒー評価における基本的用語、コーヒー特有の用語、実務者の用語が記載されています。

●ISO 13301:2018-04-24 ( 2002年の改訂 34p→28p )
官能試験-方法-三肢強制選択法(3-AFC)手順による香り,風味及び味覚検知の閾値
Sensory analysis — Methodology — General guidance for measuring odour, flavour and taste detection thresholds by a three-alternative forced-choice (3-AFC) procedure

●ISO 18794:2018-01-03( 新規格 )
コーヒー-官能分析-用語
Coffee — Sensory analysis — Vocabulary

コーヒーに特化した用語規格を発行したことは、今後の規格の方向性としてポイントになります。ワインなども評価容器の規格がありますが、今後は商品カテゴリに特化した規格が増えてくることが想定されます。一方、ASTM(アメリカの標準化規格)の方が手法の規格も、商品カテゴリ別の規格も更新の頻度が高いため、今後のISOの方針には注意が必要です。実務者としてはASTMのチェックも忘れないようにしましょう。

年末もバタバタしておりますが、個人的には「麦ふあ~」のパッケージの変更
が一番のびっくりニュースです。
内容量もさることながら、一枚一枚の量・厚さも変わってしまいました。
これにより食感が変わってしまったのが(個人的には)残念です。
昨今の事情を考えると量が減るのは仕方ないとして、1枚の仕様が変わってしまったのはファンとしては衝撃でした。
パッケージ変更に気づいてから、旧パッケージを箱買いしてしまいました・・・

今年も残すところ1週間を切ってしまいました。
良いお年をお迎えください。

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JARスケールのASTMマニュアル本「MNL63」の紹介

◆出展情報

まずは出展情報です。
2018年11月18日開催の「日本官能評価学会 2018年大会」に企業展示いたします。

今年はAI(人工知能)がメインテーマだそうです。

2016年のDrinkJapanで弊社が官能評価のディープラーニングをデモ展示したときは、他の分野に比べてあまりの無反応に驚いたのですが、ついに人工知能がメインテーマとなりました。嬉しいですね。

弊社では、機器データ等の処理にはディープラーニングを、官能評価の設計・解析等にはエキスパートシステム(古いなぁ・・)による人工知能システムを提案しております。

学生時代PROLOGなんてものもやりました(PROLOGは、数十年の人工知能ブームの中核となった言語です。)。

学会にご参加の方、お時間がありましたらお立ち寄りください。

◆JARスケールのASTMマニュアル本

さて、今回はJARスケールの規格のお話です。
近年人気となっているJARスケール(Just-About-Right scale)ですが、2009年にASTMからマニュアル本が出版されています。

(ISOはASTMに後れを取ることが多いようです。標準化という意味では落ち着くのを待つのもよいのですが、ISO規格で新しい手法を取り上げつつも詳細は文献を参照として、ASTMの該当規格をあげています)

ASTMについては国会図書館リサーチ・ナビを参照

JARスケールに特化した本というのは出版されていないので貴重な本だと思います。
タイトルと価格は下記の通りです。

MNL63「Just About Right (JAR) Scales: Design, Usage, Benefits, and Risks」120ページ $55(約6300円)

論文を探しても良いのですが、MNL63にはいろいろなアイデアが詰まっていて解析方針のアイデア出しにも有効です。

内容は最初の13ページがJARスケールの解説です。
以外と短いです。

しかし、歴史やメリット・デメリットなど基本的な知識が記載されているので13ページを読むだけでJARスケールの基礎知識は習得できます。

残りの100ページは、appendixです。驚きなのがappendixがAからZまであります。26項目ですね。
果たして「付録(appendix)かな?」というのが感想です。

JARデータの解析アプローチについて推奨・非推奨問わずに網羅している感じです。

各項目の最後にRecommendations(推奨事項)という項目があります。ここは必ず読みましょう。

なぜなら、使用状況をかなり限定している手法も掲載されています。つまり、通常では「非推奨」の解析アプローチということです。

解析アプローチで私が気になったものをピックアップしました。
ペナルティ分析を基本とした4つの手法です。

Appendix L:ペナルティ分析:
JARデータのスタンダードな解析手法。

Appendix O:ブートストラップ法によるペナルティ分析:
ペナルティ分析の応用。他分野でも活用されているブートストラップ法による推定。今後に期待の手法です。

Appendix P:機会分析:
回答者を4つのグループに分けてリスク(Risk)と機会(Opportunity)の比率を解析します。ペナルティ分析の次に行います。

Appendix Q:PRIMO分析:
PRoduct IMprovement Opportunity analysisの略。ベイズ統計を用いて最適化を図る手法です。ペナルティ分析の次に行います。

この他にもJARデータの検定、回帰分析、プロダクトマップ、プリファレンスマップ、理想点解析などの事例が掲載されています。

ご興味の方はお手元にいかがでしょうか?

◆テキストの取次店販売のお知らせ

最後に弊社テキスト本ですが、弊社から直接購入できない(したくない?)場合はどこかの取次店を通していただくことも可能です。その場合は1か月間のサポートサービスが受けられなくなりますが、弊社に購入時期と取次店名をご連絡頂ければサポートいたします。

詳しくはお問い合わせください。

 

今回はJARスケールのASTM規格のお話でした。

 

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SPSSのデータ操作に必要な3つのシンタックスー集計編

前回に続いて、SPSSのシンタックス紹介です。

今回はアンケートデータの基本的な集計(GTとクロス集計)について設問タイプ別にSPSSシンタックスをご紹介します。
※GT:Grand total/単純集計の略

アンケートの基本設問タイプは大きく分けて3つです。

SA:Single answer/単一回答
MA:Multiple answer/複数回答/多重回答
FA:Free answer/自由回答

基本集計ではSAとMAの設問が対象となります。
アンケートシステムの仕様によりMAデータの形式は異なりますが、SPSS上の解析は選択肢別に0/1データになっていることを前提として説明します。
もし1つのセルに複数の選択肢が入力されている場合はExcelなどで変換しておくと便利です。

●データパターン1:1つのセルに選択した全ての内容が入力してある(パターン2に変換します)

●データパターン2:選択肢毎に選択の有無が1/0(1:選択、0:非選択)で入力してある(そのまま下記説明通り使用できます)

●シンタックスのルール(再掲)

  • 大文字と小文字を区別しません
  • コマンドは3文字または4文字の略語を使用できます(FREQUENCIES->freq)。
  • ピリオド(.)で終わります。
  • 変数名は省略せずに入力(ピリオドは使わないことを推奨)
  • コメントは「/*」「*/」で囲むか「*」「.」で囲む
  • 全角スペースは使用しないこと

◆SA(Single Answer)設問の場合

●4.GT/度数分布「FREQUENCIES VARIABLES」

シンタックス式:
FREQUENCIES VARIABLES=変数名
/ORDER=ANALYSIS.

例:設問Q04_SAの単純集計(選択肢別度数分布)を表示します。

FREQUENCIES VARIABLES=Q04_SA
/ORDER=ANALYSIS.

●5.クロス集計「CROSSTABS」

シンタックス式:
CROSSTABS
/TABLES=表側変数 BY 表頭変数
/FORMAT=AVALUE TABLES
/CELLS=COUNT COLUMN ROW TOTAL
/COUNT ROUND CELL.

例:表頭にQ01、表側にQ12のクロス集計表を出力します。

CROSSTABS
/TABLES=Q01 BY Q12
/FORMAT=AVALUE TABLES
/CELLS=COUNT COLUMN ROW TOTAL
/COUNT ROUND CELL.

◆MA(Multipule Answer)設問(複数回答/多重回答)の場合

●6.GT/度数分布「MULT RESPONSE GROUPS」

シンタックス式:
MULT RESPONSE GROUPS=新変数名 ‘新ラベル’ (変数1 変数2 変数3 (集計対象の値))
/FREQUENCIES=新変数名.

例:q02_1からq02_6までの設問をまとめてQ02_MA(購入理由)として単純集計をします。

MULT RESPONSE GROUPS=$Q2_MA '購入理由' (q02_1 q02_2 q02_3
               q02_4 q02_5 q02_6 (1))
/FREQUENCIES=$Q2.

●7.クロス集計「MULT RESPONSE GROUPS」

シンタックス式:
MULT RESPONSE GROUPS=新変数名 ‘新ラベル’ (変数1 変数2 変数3 (集計対象の値))
/FREQUENCIES=新変数名.
/VARIABLES=変数名(下限値 上限値)
/TABLES=表側変数 BY 表頭変数
/CELLS=COUNT COLUMN ROW TOTAL
/BASE=CASES.

例:q02_1からq02_6までの設問をまとめたQ02_MA(購入理由)を表頭、Q01,Q02,Q03を表側としてクロス集計表を出力します。

MULT RESPONSE GROUPS=$Q2_MA '購入理由' (q02_1 q02_2 q02_3
                q02_4 q02_5 q02_6 (1))
/VARIABLES=Q01(1 2) Q02(1 3) Q03(1 3)
/TABLES=Q01 Q02 Q03 BY $Q02_MA
/CELLS=COUNT COLUMN ROW TOTAL
/BASE=CASES.

アンケートの集計で使用する3つのシンタックスをご紹介しました。
注意点ですが、SPSSの集計で回答がなかった項目は集計に表示されません。例えば選択肢が1から5の内、5の選択がなかった場合は5が集計に表示されないのでご注意ください。

フリーウェアのRでもご紹介した内容と同様のことはできますので、機会がありましたら会員限定コンテンツ「官能評価でアール」の方で取り上げたいと思います。

また、「官能評価でアール」と連動した企画でオフラインインストール可能なメディアを有償配布しております。
2018年9月1日時点の全てのCRAN登録の12900パッケージを同梱しておりますので、ネット接続が許可されていない企業様にはお役に立つ内容です。

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SPSS関連の要望があれば、また取り上げてみたいと思います。

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SPSSのデータ操作に必要な3つのシンタックスー準備編

官能評価のデータ解析ではR・JMP・XLSTATを使った解析が多いのですが、マーケティングリサーチ関連ではやはりSPSSを使うことが多いです。
アッサムや太閤などのアンケート用のソフトウェアもありますが、調査会社以外ではあまり使いません。
SPSSは多くの大学にインストールされていますし、企業でも導入しているところは多いです。

アンケートと官能評価は同じデータのように考えている方が多いですが、かなり異なります。

アンケート調査の場合は、1行が1名を表して設問数が列数となります。
一方、官能評価のデータは手法によって大きく異なります。記述型官能評価の場合は繰り返しを行いますので1名が複数行というのが普通です。

アンケートのデータ形式)
行数=回答者の人数
列数=情報列(回答日時、IPアドレス、Email、会員番号)+設問列
※MA(マルチプルアンサー)の場合、0/1データに変換すると1つの設問が選択肢の数に増えます。

記述型官能評価のデータ形式)
行数=パネリスト数×サンプル数×繰り返し数
列数=情報列(パネリスト数、サンプル数、繰り返し数)+属性列

SPSSはアンケートデータ形式に最適なソフトウェアだと考えています。
SPSSは「Statistical Package for the Social Sciences」の略とされていました。社会調査用という訳です。その名の通りアンケート調査や社会調査に向いていると思います。
※紆余曲折があり、現在はIBM SPSSとだけ表示しているようです。

最近、久しぶりにSPSSを触ったのですが、実務でSPSSを扱う場合はシンタックスが便利です。設問数が多く、多重回答(MA)の処理やクロス集計などもなかなかの手間です。
特にデータ準備に必要なラベルの設定は設問が多い場合はなかなか大変です。
しかし、シンタックスを使うと短時間で処理できます。また、データに修正があった場合でもやり直しが簡単です。

今回は、SPSSのデータ準備に必要な3つのシンタックスをご紹介します。

●SPSSシンタックスのルール

  • 大文字と小文字を区別しません。
  • コマンドは3 文字または4 文字の略語を使用できます(FREQUENCIES->freq)。
  • ピリオド(.) で終わります。
  • スペースは半角(全角は使わない)
  • 変数名は省略せずに入力(ピリオドは使わないことを推奨)
  • コメントは「/*」「*/」で囲むか「*」「.」で囲む
  • 全角スペースは使用しないこと

●1.変数ラベルの設定「VARIABLE LABELS」

シンタックス式:
variable labels 変数名 “変数ラベル”.

例:変数の名前が「Q01」に「年代」というラベルを設定します。

variable labels Q01 "年代".

●2.選択肢の設定「VALUE LABELS」

シンタックス式:
value labels 変数名
1 “変数ラベル”
2 “変数ラベル”.

例:変数の名前が「Q01」に8つの値とラベルを設定します。

value labels Q01
1 "10代"
2 "20代"
3 "30代"
4 "40代"
5 "50代"
6 "60代"
7 "70代"
8 "80代".

●3.選択肢の再コード設定「RECODE」

3つのコードを組み合わせます。
新しい変数を作り、元の変数を条件に基づいて変換します。

シンタックス式:
RECODE 元の変数名_条件 INTO 新変数名.
VARIABLE LABELS 新変数名 “新変数ラベル”.
VALUE LABELS 新変数名
1 “変数ラベル”
2 “変数ラベル”.

例:変数の名前が「Q01」から「GENERA」に3つのカテゴリに再コードします。

RECODE Q01 (1,2=1) (3,4=2) (5,6,7,8=3) INTO GENERA.
VARIABLE LABELS GENERA "世代".
VALUE LABELS GENERA
1 "平成"
2 "第二次ベビーブーマー前後"
3 "第一次ベビーブーマー前後".

私は上記のシンタックスをエクセルで作って張り付けています。
変数ラベルの設定であれば下記のような式です(エクセルのセル内の式)。

="variable labels " & 変数名のセル番地 & 変数ラベルのセル番地 & "."

 

Rでもアンケートデータの解析はできます。SensoMineRパッケージのサンプルデータ「cream_signa」はフランスで取得されたアンケートデータです。但し仏語です。
サンプルデータを使ってアンケートデータの解析も試してみてください。

最後に「SensoMineRハンドブック-Rコマンダー編-」のご予約ありがとうございました。ご注文いただいた方のお手元には届いていると思います。
SensoMineRを使いたいけど、なぜかエラーが出てしまう、という方にお勧めします。

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